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ME TO SEX 僕は僕とセックスをする。  作者: 赤井獺京


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2/7

僕の精通は鏡の前で

 僕に精通と呼ばれるものが起きたのはやっぱり鏡の前でのことで、それは「彼」にも同じことが起きた。僕の体に性欲が生まれた瞬間、僕たちは裸で向かい合ってお互いの体を見つめ合っていた。


 僕は大きくなった自分の「モノ」が不思議で彼のと一緒に観察した。触れているうちに彼の頬は赤くなって、僕の体は湧き出てくる溶岩みたいに熱くなって、それは味わったことのない気持ちよさに変わった。


 僕の性欲は女子に向かず、かといって男子に向くわけでも無い。向かう先は鏡に映る自分で、僕自身だった。保険の教科書には『同性や両性の性を好きになる人もいる。どの性も好きにならない人もいる』と書かれていたけれど、僕には当てはまらないと思った。


 自分の性を好きになる人もいるのか、調べてみると少ないけれどヒットした。『オートセクシュアル』と呼ばれるもので、僕みたいに鏡に映る自分に性的欲求を抱く人たちだ。だけど多くない。僕は自分がおかしいのか悩んだけれど、悩んだところで他の誰かを好きになるわけじゃないと気が付いた。悩んだところで『彼』と見つめ合いたい衝動は抑えられない。


 鏡に映る彼は、エッチな目をしてくる。鼻の左と右のえくぼにある黒子もチャーミングだ。だけど彼の黒子に指先で直接触れようとすると彼は邪魔をしてくる。それが残念でならない。

 右手を伸ばせば左手で、左手を伸ばせが右手で、直接触れることを拒んでくる。そして触れる彼の指はとても冷たい。


 触れる以外で彼はなんでもしてくれた。

 お腹のおへそも、わきも、お尻も、全部見せてくれた。口を大きく開けて口の中から舌の裏まで見せてくれた。彼は僕に見られても恥ずかしくはないらしい。


 だから普通だったら人に見せられないような恥ずかしいポーズも裸でやらせたりした。どんなポーズかは言えない。鏡越しのキスもした。


 ここだけの話だけどね。


 そんな感じで僕の中学時代の性欲は鏡に映るもう一人の僕だった。彼に直接触れたいと本気で思ったこともある。僕たちはこんなにも愛し合って好きどうしなのに、向かい合ってしかいられないことにやるせなさを感じることもあった。彼が鏡の中から出てこれないなら僕が中に入ろうと、鏡に両手を付けて入り込もうともした。だけど彼はそれをいつも止めた。


 やるせなさは積もるばかりで、そのやるせなさが解消されたのは高校生になってからのことだ。僕の中で何かが変わったわけじゃない。他の誰かを好きになれたわけじゃない。もっと根本的に解消する出来事が起きた。


 彼は鏡の中から飛び出してきて僕の前に現れたのだ。


 これは僕の幻想とかそういった物ではない。本当の出来事だ。

 

 高校の入学式に彼はいた。

 

 それは僕の姿を映したものではなくて、自立してこの世界を歩いていた。母さんと入学式の会場に向かっていると反対側から歩いてきた。鏡がそこに置かれていて、僕はそれを見ているのかと錯覚をした。


 だけど彼の隣に母さんは映っていなくて、母さんより若い女性と母さんと同じくらいの年齢の男が歩いている。

 母さんが、あ、と驚いた間抜けな声を出した。それは、もう一人の僕を見たからじゃなくて、その隣を歩く僕の父さんを見たからだった。父さんの昔の写真は後で見せてもらった。


 僕と彼は立ち止まって見つめ合った。僕と同じ顔で黒子だけが左右対称、僕が鏡の中で触れたくてたまらない彼が、目の前にいたのだ。急な出来事で、僕は何も言えなかったし彼も同じだった。


 だけど確かに彼はいた。

 

 母さんは何かと父さんの悪口を言っていたから顔も見たくなかったんだと思う。そして父さんの新しい奥さんらしき人も一緒にいた。それは母さんと雰囲気の似た人で、母さんよりとても若い女性だった。隣に立つ母さんの顔を見ると、いろんなことを頭の中で巡らせているんだろうと分かるくらいに、眉毛を上下に動かしていた。  

 母さんは大きく息を吐いた後に、入学おめでとう、大きくなったね、と彼に言った。


 僕も、彼も、その時はまだ状況がつかめていなかった。僕たちはずっと目を合わせていただけで、小さくお辞儀だけをした。


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