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5話 どっちもチョロいらしい

 ギルドから受けた依頼を終わらせた後のこと。

 酒場で仲間全員で飲む約束をしていたため、アーチェは集合時間よりも少し早めに来ていた。


 席を予約していたヒューゴと合流し、共にテーブルに着く。

 ヒューゴはエールを、アーチェはフルーツジュースを頼んだ。

 そこで彼女はノヴァだったらエールを頼むかなぁ、と考えて、ゴツンとテーブルに額を叩きつけて突っ伏した。


「私ってチョロいのかなぁ」

「急にどうした?」


 ヒューゴは目を丸めた。その直後、顔を険しくさせる。


「まさか他の冒険者に何かちょっかいでも……」

「あ、そういうのじゃなくて、そのぅ……ノヴァのことで」

「……、ああ」


 アーチェは冒険者個人ランクでもBランクの実力者であるが、女性かつ見た目も華奢ということもあり、他の冒険者……特に男性の冒険者からはナメられることがあるのだ。

 他のメンバーといる時は声をかけられることはないが、1人でいると時折ナンパを受けていた。中には無理矢理誘おうとして、意外と力強いアーチェに返り討ちにされて、彼女を罵る連中も。


 それ故にヒューゴはまた何かあったのではないかと心配したのだが、アーチェの言葉を聞いて椅子に座り直した。


「なんだ、やっと付き合ったのか」

「違うよ!?」

「えっ違うのか?」


 ヒューゴは、ノヴァがアーチェのことを憎からず思っていることは知っている。

 おそらくライリーも気づいているだろう。

 ゼインは気づいていない。

 アーチェも全く気づいていなかった。


 だから、顔を赤く染めて口をもにょもにょする彼女の姿に、遂にノヴァが思いを告げたのだと祝福するつもりでいたのだが、どうやら違ったようだ。

 ヒューゴは心臓がヒヤリとした。まさか俺があいつの思いを告げてしまったのではないかと思い、ノヴァに心の中で謝った。後で実験でもなんでも付き合ってやろう。あの性格のひねくれた男は、謝罪の言葉よりも頑丈な実験体をこき使うことを望むタイプなのだ。


「……ヒューゴはノヴァが私のこと好きなの知ってた?」

「……、まあ」


 頷けば、アーチェはゴツンとテーブルに額を叩きつけた。


「ライリーも? ゼインも?」

「ライリーはあれで勘が鋭いからな、気づいていると俺は思う。ゼインは分からん」

「ゔぅ~~……!」

「頭を叩きつけるのはやめろ。額が赤くなってノヴァにからかわれても知らないぞ」

「ぴぃ」


 ヒューゴが注意すれば、アーチェは渋々頭を上げた。

 確かにあの男は隙を見せれば全力でからかってくる。


「……私って鈍感なんだ……」

「そうでもないと思うが……」


 端から見ればなんとなく、本当になんとなく察せられる所があるため、気づいただけなのだ。


 ノヴァはアーチェのことをよく見ているし、あの性格の悪さにしては紳士的な行動を取る。

 そして何より、仲間以外がアーチェに鼻の下を伸ばしながら近づくと、その相手をボロクソに言葉で嬲り、時には魔法で痛めつけて追っ払っている。


 顔はいいし能力もあるが、口は悪いし性格も悪いし人をからかいいじめる悪癖持ちというピーキーな性能を持つ彼であるため、周りから恋愛対象として扱われることはほとんどない。本性を知って離れていく女性が大多数だろう。

 そして何より、本人が色恋沙汰には全く興味がないように振る舞う。良くも悪くも己と関わる全員にほぼ平等な扱いをするのだ。


 故に、彼の恋に気づかない人の方が多いとヒューゴは思っていた。

 ゔんゔんと唸るアーチェを見ながら、ヒューゴは口を開く。


「ノヴァは……そうだな、性格があれだが悪いやつではない。……本当に、性格が終わってはいるが」

「……、うん」

「好きな女にフラれたからと酷い仕打ちや仕返しをするやつではないから……なんだ、しっかり考えてから返事をするといい」


 もしそういうことをするようなやつだったら、ヒューゴとライリーが黙っていない。

 あいつのあの重ね着の服を全部剥いでパンツ一丁で酒場に逆さ吊りにしてやる。

 ヒューゴが真顔でそう言うと、アーチェはその場面を想像したのか吹き出して肩を震わせた。


「ありがとう、ヒューゴ。そうする」


 可笑しそうに笑うアーチェに、ヒューゴは口の端を緩ませた。






*****






「でェ? 俺の気持ちがなんだってェ? なァ、ヒューゴくんよォ~?」

「正直すまんかったと思ってる」


 酒場から帰ってきた後、ヒューゴの部屋で二次会を開いていた。

 参加者はヒューゴ、ライリー、ノヴァ。

 アーチェは酒を飲み過ぎると気持ち悪くなるタイプであり、ゼインは酒は強い方だが宅飲みよりもギルドでワイワイする方が好きなタイプである。そのため、この2人は二次会には不参加だった。


 その二次会の最中で、ヒューゴがノヴァに謝った。アーチェがノヴァの思いに気づいたことを。なんならヒューゴがバラしたような形になったことを伝えた。


 ノヴァは、自身に頭を下げるヒューゴを眺めた後、「まあそこまでしてもらう必要はないが」とグラスに口付けた。


「知ってる方がアイツ意識するだろ。そういうことを相談する相手も限られてるから、どういう結果になるのかは余裕で予想できる。メリットの方がデケェ」

「お前そういうところあるよな」

「えェ~それほどでもォ~?」


 アーチェの動揺も、相談する相手がおそらく仲間兼友人兼男性であるヒューゴかライリーになることまで分かっていた。

 仲間として共に行動しているノヴァを、同じ男性として、アーチェの幼馴染みとして、近い目線からえこひいきなく評価してくれる。

 そして、それがノヴァからしても悪いことではないと、彼らの評価を信頼しているからこそ、彼女に自身の好意を漏らしたのだ。


 どこまで策を練っているのか、心の声が漏れたヒューゴにノヴァはにんまりと笑った。


「そーいやさぁ」

「ん?」


 ぽつりと呟いたのはライリー。

 おつまみであるジャーキーを噛みほぐしながらノヴァを見た。


「ノヴァってアーチェのどこを好きになったん?」

「顔」


 ノヴァの即答にライリーはこいつらしいな、と思った。


「別にそんなおかしいことじゃねェだろ。誰でも第一印象は容姿からだ。性格だの内面だのはその次」


 そう言われるとそうだな、と話を聞く2人は納得した。


「で、いつから好きなん?」

「あー? 難しい質問だな……? いつ、いつねェ……」


 ノヴァは少し考えてから、口を開いた。


「はじめにイイ女だと思ったのは、教習所で弓引いてる時の横顔なんだよなァ……。あどけない顔してるのに真剣な時は凛々しくなってんだよ。あの顔ぐちゃぐちゃにして泣かせたら面白ェだろうなァって思ってよォ。まあ、そういう興味が最初だな」


 グラスに酒と氷を追加しながら続ける。


「で、一緒に行動するようになってから色んな顔見るだろ? 俺としてはそれ結構新鮮だったんだよ。大抵のやつは俺を見ると嫌そうな顔するし」

「どう考えても日頃の行いのせいだろ」

「うるせェ知ってるだからだよ。俺を見て普通に近寄ってへらへら笑ってくるやつは少ねェから……多分、それで堕ちた」

「アーチェよりノヴァの方がチョロかったんだなー」

「いちいち俺様のこと貶さねェと話も聞けねェのかテメェは?」


 ノヴァが口の端をヒクつかせながらライリーを見る。

 ライリーは「事実じゃん」とニヤついた。


「意外とマトモな恋愛してておいらとしてはめっちゃ面白(オモロ)い」

「よしライリー、明日訓練場借りようぜ。ボコしてやるよ」

「魔法でどーやってボコすんだよ。逆に地面にゴロンゴロン転がしてやっから。あ、ヒューゴも一緒にやる?」

「おいおいおい、2体1(ニーイチ)は卑怯だろ」

「いいな、やるか」

「ちょっとヒューゴくゥん? なァんでオマエ乗り気なんだヨ」


 「普段は乗らねェだろうが」と微妙な顔で笑うノヴァに、ヒューゴは「そうだな」と澄まし顔。


「大事な幼馴染みを任せるに相応しい男なのか、この際見極めておくのもいいかと思ってな」

「テメェはアーチェの父親か?」

「ノヴァ、覚えておけ。アーチェを不幸せにしたその時には、貴様の服を全て剥ぎ取り、素っ裸でギルドホールに逆さ吊りにしてやるからな」

「罰が重すぎやしねェかそれ」


 据わった目をするヒューゴ。

 ノヴァは真顔でツッコんだ。


 ライリーはというと、「はいはーい」と手を上げてみせた。


「おいら全裸のノヴァの首に看板かけたいでーす。『俺は仲間の女の子に手を出して泣かせたクソヤロウです』って書いたやつ」

「お。いいな、それ」

「何も良くねェんだが?」


 楽しげに罰を考える幼馴染みガチ勢の2人に、「えェ……幼馴染み怖ァ……」とノヴァは引いた顔をした。

 次回投稿は3月20日、金曜日、0:00です。

 よろしくお願いします。

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