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4話 故意に恋する戦乙女

「アーチェ、一緒にちょっと出かけない? アーチェの好きそうなお菓子が売ってあるお店があったんだ」


「アーチェ、図書館に行ってちょっと本を借りようと思っているんだけど、一緒に見てくれない? 僕だけじゃ選びきれなくて……」


「アーチェ、これあげる! 露店商で買ったんだけど、これ、全属性耐性っていうのが付与されている指輪なんだって! これがあればもし魔物の使う魔法に当たっても平気だよ!」


「アーチェ」


「アーチェ?」


「アーチェ!」

















「私の伝え方が悪かったのかなぁ……」

「あいつの捉え方がイカれてんだよ。気にするだけ無駄無駄」


 市場に来ているノヴァとアーチェ。

 冒険者業は本日はお休み。冒険で使う道具の仕入れに外出したアーチェに、荷物持ちとしてノヴァが着いてきた形だった。


 その買い出しの途中で浮かない顔をするアーチェ。

 ノヴァがそれを問うて彼女の話を聞いた後、鼻で笑い飛ばした。


 アーチェの話はこうだ。

 最近、ゼインがよく話しかけてくる。少し手伝って欲しいことがある、と。

 アーチェは二つ返事でそれを承諾した。以前も伝えた通り、ゼインのことは応援している。もっと冒険者として一緒に活動していきたいと思っている。だから、彼が強くなるためなら協力は惜しまないつもりだった。

 しかし、いざゼインとの待ち合わせ場所に向かうと、彼は自身のように動きやすく汚れてもいいような服ではなく、少しお洒落な服装をしていた。

 そして、町を一緒に散歩をしたり、露店商で商品を見たり、お菓子を食べたり、本を見繕ったり、プレゼントを貰ったり、と……本当にそれだけだったのだ。

 己を鍛えようとする様子は欠片もない。

 これはおかしいぞ、と、ある日アーチェがゼインにさりげなくそのことを確認すると、「なんの話?」とキョトンとされた。


 その態度になんだか肩透かしを食らった気分になった。

 なんというか……とても残念な気分になったのだ。


 ため息を吐き(うつむ)くアーチェ。

 ノヴァはその様子を横目で眺めながら、彼女の指に日の光に反射するものを見つけた。天才の脳がそれが何かを認識した瞬間、つい衝動的にアーチェの手首を掴み上げてしまった。


 突然のことに、アーチェは目を丸めてノヴァを見上げた。


「ノヴァ?」


 ノヴァは無言で、アーチェの左薬指に嵌められた指輪をじっくりと眺めた。

 シンプルな金の指輪だった。そこに込められた魔法を解析した後、アーチェに目を向ける。


「これは?」

「これ? ゼインから貰った指輪だけど……。魔法に関する耐性が付いてるから、魔物から襲われても安心だよ、って……」

「テメェで付与した訳じゃねェんだろ? アイツの魔力を感じねェ」

「うん。露店で買ったって」

「バカかアイツ? 補助魔法使いがバフ付ける指輪買ってどーすんだ? 百歩譲って指輪買うのは良いにしても、バフくらい自分でかけろっての」


 「しかも大した付与されてねェぞこの指輪……」とノヴァの呆れ顔にアーチェは目をパチパチとさせた。

 確かにそうだ。ゼインは補助魔法使い。得意魔法は付与魔法と回復魔法である。

 物に魔法を込めることも勿論可能である。

 しかし、この指輪はゼイン本人ではなく別の誰かによって作られ付与魔法を込められたもの。


 アーチェの中にあるもやもやが大きくなってきた。


 アーチェがもやもやと考えている間に、ノヴァはふらりと彼女の傍から離れた。

 アーチェが慌ててノヴァを追いかける。彼が立ち寄ったのは魔石を売っている露店だった。

 ノヴァはしゃがみ込み、木の椀に入っている小粒の魔石を漁る。


「おっさん、この魔石いくら?」

「ん? 300ゴールドだ」

「あいよ」


 ノヴァが露店から小指の先にも満たない魔石を購入した。

 それから、「ん」とアーチェに向かって手を差し出す。

 アーチェがなんの迷いもなくその手に己の手を重ねてぎゅうと握り締める。そして、力を込めて引っ張り立ち上がらせようとした。


「ドーモ」

「うん。……ん?」


 ノヴァは抵抗せずに立ち上がるが、アーチェに再度手を差し出した。

 何も乗っていない手の平、おそらくアーチェから何かを貰おうと思っているのだろうが……アーチェはノヴァから何を借りたか全く覚えてなかった。


「……300ゴールド払ったらいいの?」

「バカ違う。指輪だよ」

「指輪?」

「寄越せ」

「エでもこれゼインが買ってくれたもので……」

「オマエどうせ冒険となったら指輪なんて着けねぇだろ。弓引く時の感覚狂ったらどーすんだ。いちいち取り外すのか?」

「ゔーん……」

「外したら効果失くなる付与魔法とか、どっちにしろその指輪は装備として大した意味ねェの。使いやすくしてやるから寄越せ。ほぉら」


 ノヴァに催促されて、アーチェは渋々指輪を外した。

 ノヴァはその指輪を受け取り、指輪と先程購入した魔石を片手で握り締めた。魔力をこめれば、拳の内が発光し始め、拳の周りでバチバチバチンと青白い火花が散る。


 発光と火花が収まった後、ノヴァが手を開けばそこには銀色に変色した指輪が乗っていた。


「わぁ……!」

「とりあえず『全属性耐性』を『魔法耐性』に変えた。こっちの方が守備範囲広いからな。それから防御魔法と回復魔法の付与(エンチャ)な。生死に関わる怪我も1回くらいはどうにかなるだろ」

「ノヴァって攻撃魔法しか使えなかったんじゃないの?」

「ンな訳ねェだろ天才舐めんな。こちとら魔法学校を首席で卒業してんだわ。だから、これぐらいどうってことねェの」


 ノヴァは意地の悪い笑みでそう言うと、アーチェの左手を取り、その薬指に指輪を嵌めた。


「後で装飾用の紐でも買っていこーぜ。それは指から外しても身につけてさえいれば魔法の効果が出るように術式組んだから、冒険中は首にでも提げとけ」

「うん! ありがとう」


 指を(かざ)して指輪を見るアーチェと、それを満足そうに眺めるノヴァ。

 2人の様子を見ていた魔石露店の店主が笑う。


「兄ちゃん、彼女にプレゼントとかやるじゃねぇか!」

「あ?」

「え?」

「あんなちっこい魔石が飾り以外で、しかも恋愛事の役に立つとはなぁ……色んなもんを売ってみるもんだ」


 ウンウンと1人納得する店主を前に、アーチェとノヴァは顔を見合わせた。

 顔が赤く染まるアーチェとは対照的に、ノヴァは顔色は変わらず真顔だった。


「あ、あの、店主さん、その……私達、別に付き合ってなんか……」

「おや? そうなのかい?」

「は、はは……」

「そうそう」


 困ったように笑うアーチェ。

 ノヴァはいつもと変わらない様子で隣の彼女を指差した。


「まだ口説いてる最中なんだわ」

「そ、そうそう、だからまだ付き合っては……へ!?」


 ぐりんとアーチェがノヴァを見上げる。

 ノヴァは彼女を見下ろして、ニィと赤い目の端をしならせた。

 目にからかいの色でもあれば、足を蹴って悶絶させてでも否定したのに。


「ひぇ」


 彼の目にはそんなものはなかった。

 店主は呑気に「そりゃあ邪魔してすまねぇな!」と笑い飛ばした。

 次回投稿は3月19日、木曜日、0:00です。

 よろしくお願いします。

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