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10話 期待も迷いもとうに捨てている

「ほんとよかったなー、冒険続けられて! マジでノヴァ様様じゃん!」

「ほ、本当にね……げほっ。……ちょっと休憩しない……?」

「ほいほーい」


 ライリーが軽い口調で話すのに対し、アーチェはギルドの訓練場で倒れ込んでいた。咳き込んですらいる。


 アーチェはライリーとの組み手で勝ったことは殆ど無い。幼い頃は五分五分な戦績だったのだが、やはりそこは男女の差。体力馬鹿でもあるライリーとのエンドレス組み手では、アーチェは最後まで立っていられたことがない。

 そのため、大抵はアーチェが先に息切れして休憩を取るように促すのだ。


 ライリーとマトモに殴り合えるのは、今のところヒューゴか、同じBランクの戦士くらいか。

 以前、宙に投げられたライリーが「今のもっかいやってくんない!?」と目を輝かせて……いや、ギラつかせていたのを思い出す。


 と、アーチェがどうでもいいことを考えていたら、ライリーが彼女の目の前に水筒を差し出した。

 水筒を揺らして早く受け取れと催促するため、アーチェは体を起こして水筒を受け取る。


「調子良さそ?」

「うん。若干(なま)ってるくらいかなぁ、くらい。1週間後にはちゃんと復帰できそう」

「そっかそっか。それなら安心したわぁ。あんま無理すんなよ」

「分かってるって」


 ライリーはへらりと笑って、アーチェの隣に腰を下ろす。

 そして、目線をうろ、と宙を彷徨わせた。


「あー……ゼインは?」

「ゼイン? ゼインは誘ってみたけど、今回は遠慮するって」

「アーチェでも駄目かー……」


 ライリーは自分の頭をわしゃわしゃと掻く。

 アーチェは苦笑いした。


 アーチェは宿屋を出る際、ゼインにも声をかけたのだが、彼はライリーとの稽古を断ったのだ。「今日は町を散歩したい気分だから」と。


 護身術を身に付けさせる機会がある度に誘ってはいるのだが、「今回はやめとこうかな。また誘ってね」と困った顔で遠慮されていた。

 本人が乗り気じゃないのにしつこく誘うのもどうかと思いはするが、このままではいつまで経ってもゼインはパーティーの中で1番弱いままだ。


 昔からきついことや苦しいことが嫌いなゼインである。だから、彼らしいと言えばらしいのだが……今は踏ん張りどころではないか、と。自ら進んで稽古を、とまでは言わないが、訓練に誘ったら着いてきて欲しいと、ライリーは思っていた。


 ゼインの態度に、苛立ち半分諦め半分の気持ちを込めたため息を吐き出す。


「……まあ、それならそれでしょうがないかぁ」


 ライリーはゼインに期待するのをやめた。






*****







 宿屋、ヒューゴの部屋にて。


「ライリーは大分動けてるって」

「そうか」


 アーチェから報告を受けたヒューゴは「よかったな」と静かに言う。


「明日は弓を試してみる。……筋肉痛になってなければ」

「病み上がりなんだから、あまり無理をするなよ」

「分かってるよ。……ふふ、ライリーと同じこと言ってる」


 表情は全く変わらないが、アーチェが以前のように動けることに安堵していた。何せ肺に大穴が開いたのだ。

 もし今までのように彼女が動けなくなったら……最悪、一生寝たきりの生活になってしまったら。

 それを考えると、ゾッとした。

 ゾッとしたからこそ、改めて決意を固めた。



 ゼインは追放する、と。 



 今回はノヴァがいたからよかった。彼の回復魔法が間に合ったからよかった。


『ちょっと前から付与魔法と回復魔法の習得しようとしてんだわ。同じBランクの補助魔術師レベルとまでいくには時間かかるけど、実践レベルにまでは引き上げとく。……まあ、俺様が言い出しっぺなんだし? 暫くの穴埋めにはなるだろ、リーダー?』


 そして、それは本来ならばゼインの役目であり、彼が請け負うべき責任であった。

 彼はそのどちらもを放棄していた。

 ノヴァに全てを背負わせて、自分はただ泣き叫びアーチェを治すことを諦めた。

 そして、アーチェが死にかけた後でも、治すための必要な知識を深めず、味方が怪我をしないように付与魔法を高める努力すらしていない。


 ヒューゴの中には、ゼインに対する仲間意識はもうなかった。

 “寄生行為をする厄介な虫”に対してくれてやる温情とは、彼が無駄死にしないようにパーティーから追放すること。

 それだけで充分だ。
















「ゼイン。約束通り、お前をこのパーティーから追放する」

「……えっ?」


 そして、期限が来た。

 ヒューゴはゼインにパーティー追放を宣言した。

 これで1章は終了です。

 次回投稿は未定です。

 また時間がある時に読みに来ていただけると幸いです。

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