第6話 アリアントン天体基地攻防戦
アリアントン天体基地周辺に咲いては消える桃色の花が、閃光となって照らしていた。
互いに持ちうる最大火力を叩きつけ、互いの敵を撃滅せんと吼えていく。そんな戦場を駆け抜けるのは、やはり戦場の支配者たる英雄機の軍勢だ。
白を基調とする装甲に、目に当たる部分には翡翠色をしたゴーグル、その奥にはデュアルアイ・カメラが爛々と輝いていた。
それは地球連合に属する機体だった。英雄の大半は地球連合を裏切ったが、中には残った者も少なくない。それが忠誠心なのか、はたまた別の思惑があってのことかは当人にしか分からないが、彼等は自らの役目としてアリアントン天体基地を守るべく戦線に飛び込んでいく。
対する帝耀騎聖連盟ルミニオンの英雄機は、ロボットというよりかは騎士の要素がかなり強い。
白銀に輝く装甲の構成は騎士の甲冑をモチーフにし、スリットアイ式のカメラがエメラルド色に煌めいていた。
漆黒の空間を駆け抜ける流星の群れは、編隊を組みそして翔んでいた。
そして、両軍の英雄機はスラスターを全開にし、音速を突破した衝撃を込め激突しだす。
ある機体は剣を、槍を、銃を、更には弓という奇特な武器を振るう彼らだが、その中でも異彩を放つ者がいた。
『ウォォォォォォォォォ───!!!!』
その者の英雄機は、ロボットでも騎士でもない異質な姿──戦国武士の姿をしていた。
天に伸びる二本の角に、騎士以上に重厚さを思わせる装甲。そして何より、デュアルアイ・カメラが輝く様は正しく伝承で語られる鬼を思わせた。
迫る荷電粒子砲の弾雨を肩に備え付けられた大袖状の物理シールドで弾き、ならばと接近してきたルミリオンの英雄機を、瞬く間に手にした大太刀二振りで切り捨てていく。
『こ、こいつっ!』
『地球連合の鬼面だ、気を付けろ!!』
鬼面──頭部の鬼の顔のごとき凶悪な貌から付けられた異名。だが同時に、他を圧倒する程の強さからあらゆる組織から恐れられていた。
『我が名、服部三郎兵衛武雄!! ここを守るが主命故、覚悟せよッッッッ!!!』
服部武雄。かつて江戸時代の京都を震撼させた人斬り集団、新撰組において最強の名を冠した者の一人。
刀を持たせれば天下無双、その圧倒的な強さは今なお歴史に残されている。
『おいおい武雄の兄ちゃん、アンタだけ暴れるなんてずりいぜ!!』
『職務だぞ、遊び心は捨てろ』
服部の咆哮に続き、二人の英雄も戦域で無双を始めていく。
ワイアット・アープ──西部開拓時代に起きた、OK牧場の決闘の勝者にして無法ガンマン。手にした二挺のリボルバー式のレールガンを持ち、乗馬用帽子風の飾りを頭部に着けたガンマン風の英雄機。
常遇春──明の太祖、朱元璋に仕え飛将軍と讃えられた猛将。機体を上回る長さの槍を自在に振り回す、中華風の鎧に似た装甲を纏う英雄機。
正に一騎当千、その名に相応しい武功を誇る者達は更なる戦果を求めて宇宙を飛翔する。
『『『行くぞォ!!!』』』
駆ける三つの流星、その軌跡が通った後には爆発のみが残されていく。更に後方からは三人と同型の英雄機──彼らの戦闘経験のみを用いて作られた戦闘用アルゴリズムを搭載した、子機の群れが追随していく。
地球連合の兵士達は、その光景を見て歓喜する。
──いける、俺達なら勝てる。
戦艦の砲は英雄を狙う敵艦を撃ち抜き、宇宙戦闘機のパイロットは露払いをすべく、徒党を組んで先行し、ありったけの弾薬をルミリオンの軍勢へ叩き込む。
一騎当千にはなれずとも、英雄達の支援は完遂してみせる。その気概が、更に戦意を高めていった。
『奴らを止めろ、これ以上の跳梁は許されんッ』
『し、しかし奴ら……速すぎますっ』
だからこそ、何としてでも押し止めるというルミリオン軍の気勢は次々と消えていく。勢いを殺しきれないのだ、英雄機により構成された最前線が、食い破られていく。
『ぬぅっ!?』
──しかしそれは唐突に止められた。服部は英雄機を動かし、目前の敵を切り刻むべく刀を振るうが、巧みな剣捌きで防がれていく。
『おいおいおい、あのマークってオリヴィエのじゃねえの!? 本人来てんのかよっ!』
『いや、アレは子機だ。だが強いぞ、気を付けろッ』
ワイアットは服部の猛攻を凌いだ機体のマークに見覚えがある。純白の装甲に塗装された交差する二本の剣と重なる巻物と盾、それを知らない者は存在しない。
帝耀騎聖連盟ルミニオン最高戦力、聖十二騎士オリヴィエ。それが服部達の進撃を食い止めたのだ。
無論、本人では無いのは明白だ。オリヴィエは、名剣オートクレールとグロリユーズの二刀流として知られている。
三人の英雄に立ちはだかるのは、剣一本のみとはいえ、かの聖騎士の技量を受け継いだ戦闘AIの群れ。
|(さて、どうするか……)
服部は考える。目の前のオリヴィエを止めなければ、確実に防衛ラインが食い尽くされる。だがそれを殲滅するには少々手数が足りないのも事実。
刀を振るい、その衝撃で後ろに下がる。位置取りし、次撃に全霊を込めるつもりだったが、それは唐突に引き起こされた。
アンカー。それが目の前のオリヴィエ、その子機の脇腹に突き刺さると同時に視界から消え失せたのだ。
何者か──その問いは不要だった。服部の敵味方識別センサーが反応を示しているのだ、味方が接近していると。
『かかれェェェッ!!!』
よって即断、よって断行。敵の一瞬の困惑を見逃す程、新撰組最強の一角は甘くない。
その叫びに即時に反応するワイアットと常遇春、彼等もまた後方から接近しそして攻撃を行った味方機に気付く。
『お待たせして申し訳ありません!! 第二三四機動艦隊所属アル・ネムホワイト、戦線に参加しますッ!!!』
そこに現れたのは、複合防御兵装プラットフォーム《バスティオン・エッジ》、そこに搭載されたワイヤーアンカーを用いて引き寄せ、そして片手剣で斬滅したアルの姿だった。
『伊東殿から話は聞いている、共に駆け抜けるぞッ』
『ったく、遅れたからにゃしっかり働いて貰うぜぇ?』
『行くぞ』
新たな味方の参陣に歓喜を表すことなく、それすらをも策に組み込み戦闘を再開する英雄達の背中を見て、アルは恐ろしくも頼もしく思う。
だが同時に、そこに込められた彼等の信頼も感じ取れた。ならば、自分がやることは一つだけだ。
『はいッ!!』
その背についていく、いや超えて見せる。自分もまた英雄であるのなら、超えねばならないという意志。
それを燃料とし、アルは英雄機を駆動させ戦線を駆け抜ける。このまま行けば押し潰せる筈、そう考えたのだがやはり、戦いは甘くない。
『帝耀騎聖連盟ルミニオン所属英雄、第五十三突撃機動艦隊指揮官、マルク・アントワーヌ・ド・ボーモン!!! 貴様ら軟弱なる地球連合の英雄モドキを刈り取り、我が栄光ある勝利の隥にしてくれるゥゥゥ!!!』
突撃してくる複数の光点、それから発せられる全方位への通信。敵機による強襲を、アル達は渾身を以て迎撃するのだった。
ここに、英雄同士の激突──熾烈な消耗戦が幕を斬って落とされた。
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英雄には死という概念が存在しない。
元々は星歴光帯記録域の解析とデータを抽出により偶発的に生成できたAIだからだ。
いくら肉体を破壊しようとしても、根幹となるデータがある限り彼らは無限に甦ることが出来る。
その為にかつての地球連合軍が開発したのが、《マザーベース》と呼ばれる多目的航行要塞だ。
内部には人員のスペースは一切なく、あるのは英雄のAIデータを統括管理している超大型サーバーと、彼等の身体となる英雄機の自動生成工場のみ。
それらを主力とした艦隊に、地球連合はこう命じた。『銀河を制圧せよ』、と。
宇宙の彼方には、人類を上回る規模の科学力を持った文明も少なくはなかった。
だがそれらは、「自己進化」「自己再生」「自己増殖」の三大機能を持った《マザーベース》の敵では無かった。
資材がある限り生産し続ける英雄機、英雄達の持つ、膨大な戦略データと戦術、敵を上回らんとする高揚感と知識欲、そして人類の歴史が育んだ──闘争の愉悦。
無尽蔵に等しい戦力を前に、多くの文明は滅び去ることとなった。
閑話休題。
英雄は《マザーベース》を破壊されない限り死なない。例えそれが、本人が操っている英雄機を破壊しても、だ。
破壊される寸前に他の機体──子機にデータを跳ばせば良いのだから。
それを何度も繰り返し、経験値を獲得し、そして《マザーベース》から無限に戦力を供給し続ける。
よって英雄の攻略は二つに限定された。
──根幹となる《マザーベース》を、熾烈な防衛網を突破して破壊する。
──英雄の駆る英雄機を破壊し続け、《マザーベース》内にある英雄機生産用の資材を使い尽くさせる。
それを知ったところで、対処できるのは同じ英雄のみであった。
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『ハァァァッ!!!』
『ぬぅぅぅぅ!!!』
熾烈な戦闘が開始されて数時間が経過した。アリアントン天体基地も、帝耀騎聖連盟ルミニオンの第五十三突撃機動艦隊も、未だ持ち込んだ資材の底は見えていない。
だがしかし、それは着実に減りつつあった。
『やべぇ、もう六回は撃墜れてる!!』
『ワイアット殿、やられすぎですぞっ!?』
『うるせえ仕方ねえだろ!! あいつら速すぎるんだよっ──ぬおっ!?』
最早戦線は混乱を極めていた。四方八方から迫る英雄機の大群と、放たれる艦砲射撃とミサイルの雨霰。
とりわけ戦場の支配者として君臨しているのが、ある英雄機の一団だった。
『行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞォォォ!!!』
それはボーモンの英雄機だった。
濃い紫色の装甲は他のルミニオン英雄機より重装甲、手にした武器は巨大な騎乗槍を思わせるものだった。
だが何より目を引くのは、その背部に備え付けられた五つのフレキシブル・ブースターだ。
それの運用方法などたった一つ。文字通り加速し、速度と重量で轢き潰す。その為にのみ構成された機体をボーモンは巧みに扱っていく。
現に後方からの突撃のあまりの速さに、ワイアットは気付けず破砕されていた。
『チッ、どうしたものか』
常遇春は苛立ちを隠せない。無論、撃墜されまくって喚いているワイアットにではなく、目の前で暴れまわる暴走英雄機に、だ。
生前に培われた経験を用いようにも、それは二次元での戦闘にのみ効果を発揮する。あんな複雑な三次元機動、即時に対応できるような策も道具も現状ありはしない。
『やるしかねえか』
そう言い放ち、覚悟を決める常遇春。手にした大型のヒート・セイリュウトウを手首ごと回転させ、迎撃体勢を整えていく。
『覚悟は良いか、軟弱なる地球連合の英雄モドキィィィ!!!』
それを見て、次なる獲物を定めたボーモンは暴走じみた突撃機動で急速に接近する。
──来るッ!!
そう認識した次の瞬間、既にボーモンの持つ巨大な槍は常遇春の機体をぶち抜いていた。
『ぐ、ぬっ!? き、さまぁぁぁ!!!』
『捕えたぞ、突撃馬鹿がッ!!!』
ボーモンはそれが常遇春の罠だと即座に看破する。だがその時点でどうしようも無かった。
貫いた槍は深く突き刺さっており、なおかつ未だ常遇春の英雄機は健在。反撃の手だてはボーモンには存在しなかった。
『このまま解体してやらァァァァァ!!!』
常遇春は手にした大型のヒート・セイリュウトウを動かし、ボーモンの解体に着手していく。
結果、僅か数秒で破壊され爆発を引き起こす。無論、最も近くにいた常遇春も無事ではすまず、共に桃色の爆発を引き起こしていた。
『あー、死んだなぁ』
『何やられてんだ、もっと気張れ!!』
『テメェに言われたかねえよワイアット』
無論、データの移し替えは既に完了済み。新たな機体に乗り換えたものの、それはボーモンも同じ。
『小癪なァァァァァ!!! 我が子機と共に行う全力突撃、その真髄を知れィィィ!!!』
だが落ち着きはどこかに落としたのか、最早理性の欠片もありはしなかった。五つのフレキシブル・ブースターを豪快に噴かし、音の速度を突破して突撃するボーモン。
突撃機動こそ彼の美学。生前、上司であったナポレオン・ボナパルトに認められずとも、それこそが彼の精神を支える誇りだった。
だからこそ、彼は即座に気付く。推力が普段より落ちていることに。
『後ろから失礼っ』
『なっ、何だ貴様ァァァァァ!?!?!?』
強襲を仕掛けるボーモンを、背後から襲ったのはアル・ネムホワイトだった。
やり方は単純、加速する前に複合防御兵装によるワイヤーアンカーを撃ち込み、加速しきる前に巻き取って取り付く。ただそれだけだ。
アルは胴体に収まっているAIの演算装置を的確に片手剣で貫き、一瞬で死に体に変える。
そうして加速しきったボーモン英雄機の亡骸から早々に離脱し、新たな敵を求め戦域を駆け抜ける。
『やるじゃねえか。お前、どこの英雄だ?』
『すみません、よくわかりません』
『何でだよ』
常遇春とのやり取りもそこそこに、次はオリヴィエの子機との戦闘を開始するのだった。
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──第五十三突撃機動艦隊旗艦ブリッジにて。
再び撃破され、英雄機を失ったボーモンは再びブリッジに戻っていたのだ。
無論、彼自身の子機は健在で、今も戦域を駆け抜けている。彼が一旦この場に戻っているのは、落ち着きを取り戻す為。
「落ち着け、落ち着け俺……まだ勝ちの目はある」
そう自分に言い聞かせるが、現状は芳しくない。
英雄機同士の戦いも優勢を取れておらず、艦隊戦においては不利な状況に陥っている。
戦力、資材、人員。どれ一つとってもボーモン側が優勢な物は無い。
功を逸ったボーモン、もしこのまま何も得られずに撤退しようものなら、主たるナポレオンの顔に泥をつけるのも同じだった。
『お久しぶりです、ボーモン様』
「ッ!? な、ぜ……お、いや私に通信を、ジャンヌ・ダルク殿」
だからこそ、その通信はボーモンにとって悪魔の囁きにも等しかった。通信を送ってきたのは、ボーモンがここで戦っている最大の理由──オルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルクだった。
『いえ、どうやら出先で貴方様が苦戦している、と小耳に挟んだものデして』
一体どこからその情報を仕入れたのか、アリアントン天体基地の攻防とその推移を把握されている。ボーモンはそう予想した。そして、そこに隠し事は無意味であることも悟った。
「で、それを知ってどうすると──」
『お手伝いしますデスよ、ボーモン様。私としても、アリアントン天体基地は手中に納めたいデスし、それはルミニオンの益になるデス』
「…………」
ジャンヌの提案は魅力的なものだった。戦力が足りないのであれば、外部から持ってくればいい。だがそれはつまり……。
「それでは、貴殿の点数稼ぎに使われよ……と?」
ここでジャンヌが活躍すれば、本来の目的であるジャンヌ派閥の影響力を落とすことは二度と叶わなくなる。その懸念を告げるが、返ってきた答えは驚くべきものだった。
『いいえ?私に功績など意味ないのデス。無論、言い訳はこちらで用意させてもらいました。今、私の部下が近くにおりまして、その者の訓練用の的を用意してほしいのデス』
「的を?」
『はい。的を全て仕留めたら、部下には帰投させますデス。あとはボーモン様のお好きなように』
そのことが意味するのは、今回の件でジャンヌそのものは動かない。動くのは部下で、そしてそれは実戦ではなく訓練目的での運用……ということだ。
ジャンヌの部下については、報告書に書く必要性はない。なんせその場で行われたのは訓練だ、戦闘ではない。
「……頼む」
その甘い誘惑に、ボーモンは逆らえない。否、戦いに生きる者でその誘惑を振りほどける者は皆無と言って良い。特に、不利な状況であれば。
喉の奥底から、絞り出すような小さな声でボーモンは呟いた。通信機の向こうで、聖女がほくそ笑む姿を幻視しながら。
『はい、では向かわせますデス。地球連合の負の遺産、我らが英雄機を殺すために作られ運用され廃棄された怪物を』
『竜鏖機を』




