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英雄戦機ウィルロス・ゼロ  作者: サカバンバスピスなハヤさん
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第30話 戦いは終わらない

 中立星系アート。

 多くの勢力が、銀河を舞台にして争うこの世の中でも数少ない中立を維持している星系だ。

 無論、他の勢力が黙っている筈もなかった。武力を用いての侵略や、懐柔による併呑などの魔手に晒された数は少なくない。

 しかし、かつてのアメリカ合衆国に端を発する事業家(ロックフェラー)による経済力と、自由を愛する英雄(ウィルロス)達によりその中立は今も堅固。

 銀河を駆け巡る戦火を知ることなく、この星系の住民は自由と平和を享受していた。

 

「ぷはー」

 

 そんな星系アート第三惑星、アートⅢのとある街にある安アパートで、一人の女性が酒盛りしていた。

 彼女の名前は、ニトクリス。古代エジプト第六王朝最後のファラオとして知られる英雄(ウィルロス)だ。

 彼女は本来、占領した惑星の統治を目的に製造されたのだが……それを厭い、カエサルの離反を皮切りに連合を離れたのだ。

 侵略兵器としてではなく、一人の人間として生きたかったから。生前のニトクリスが出来なかったことを、代わりに自分(AI)がやるのだと。

 

「アサマァァァ、ハイパァァァ、ドラァァァァイ」

 

 そんなこんなで、ニトクリスは今はフリーの記者として活動している。

 元々が政治に長けた英雄(ウィルロス)であったことから、政治系の記事ではそこそこ高い評判を得ている。

 久方ぶりの休みで気も弛んでいるのか、キャミソールに下着という、だらけきった服装のままキンキンに冷えたビールを飲んでいる。

 狭い部屋に貧相な机。そして置かれたビールとつまみ。

 如何に功績を残せていなくとも、一つの国の頂点に立った人物からすれば余りにもレベルの低い暮らし。

 しかしニトクリスはそれを心の底から愛していた。只人としての暮らしを、在り方を。


「あぁ~……疲れたわ~……。さて、テレビテレビ~」


 今日は何を観ようか、そう思いテレビをつけて──そこに出された情報を前に、ニトクリスは唖然とするしかなかった。


「……嘘。嘘嘘嘘!? え、コンモドゥス戦死!?」


 その情報は、如何に自堕落な生活をしていたとしても理解できた。

 ファラオとして君臨したニトクリスであるからこそ、この後に起きるであろう事態を。


「こ、こうしちゃいられないわ!」


 ビールを一気に飲み干し、用意したつまみを口に放り込んでいく。そして、急いで仕事用の服に着替え、外に飛び出していく。

 何処へ行こうか、ローマか、連合か、はたまた他の勢力か。

 迷う暇はない、動き出した時代に置いていかれてしまう前に、ニトクリスは己の職務を遂行する。


「もう、これだから記者はやめられないわ!」

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 コンモドゥスの死という情報は、瞬く間に銀河を駆け巡った。

 そしてそれは、二つの事実を露にする。

 まずは、新生ローマ帝国の弱体化だ。コンモドゥスという強大な戦力の喪失は、ローマの弱体化に直結する。

 何よりカエサルの手駒が減るということは、他の皇帝……カエサルを厭う者達が動きやすくなることを意味する。

 そしてもう一つは、今まで新生ローマ帝国に煮え湯を飲まされ続けた他の勢力が、ローマを食い散らかすべく動き始めることであった。

 銀河は瞬く間に、混迷を極めることとなる。

 

 

 

「いやー、何かすごいことになりましたね」

「元凶が何を言うか」

 

 カッシーニ宙域会戦も終わり、五日が経過した頃。アルとルキウスは、旗艦ヴェリタスの食堂で食事に勤しんでいた。

 英雄(ウィルロス)である以上、生存のための食事は不要なのだが、メンタル維持に役立つため食事を積極的に行う者達がそれなりにいるのだ。

 ちなみに食事内容は、アルは鯖の味噌煮定食。ルキウスは焼き鮭定食である。


「でも見てくださいよルキウスさん、啓蒙連邦がローマに向け大規模侵攻を開始。ヴァンダル・カンパニーも傭兵として参戦ってありますよ」

「食事中に電子機器は使ってはダメだぞ少年、ほらしっかり良く噛むんだ」

「オカンですか貴方」


 アルの持つデバイスには、先以外のニュースが多く流れている。

 ──帝耀騎聖連盟ルミニオンに新たな英雄(ウィルロス)が参陣、ジャンヌダルクとその麾下か。

 ──ログレス統治機構圏、アグラヴェイン報道官は啓蒙連邦へ非難声明。

 ──(いなご)、アルバッハス星雲に出現。永天中華帝国、嬴政皇帝が禁軍に出撃命令。


 タイトルを読むだけでも、相応の混沌が現在進行形で起きているのが良く分かる。


「少年」

「あー」


 しかししびれを切らしたルキウスが、アルからデバイスをひょいと奪い取った為、その続きを見ることは出来なかった。


「うぅ……」

「何やってるの、二人とも」

「アル様が泣いてますわ」


 涙を流しながらもそもそとご飯を食べていると、アルの左右を挟み込むようにして、メアリーとアンが座り込む。


「あれ、メアリーさんにアンさん?」

「もう戻ったかと思ってたが、まだ何か用事があったのか?」


 二人は地球連合の所属ではない。ヴァンダル・カンパニーという傭兵企業の所属なのだ。

 仕事を終えたにも関わらず、未だここに居る事に疑問を感じたルキウスの問いに、メアリーとアンはにやりと笑みを浮かべる。

 

「私達、退社することにしましたの。今は有給消化中ですわ」

「それが終わり次第、連合(ここ)に就職する予定なんだよね」

「えっ、何でまた急に」

「ぶっちゃけるとアル君が目的、もふもふしたい」

「アル様を知ったら、あんなむさ苦しいところに戻れるわけねーですわ」

 

 そう言うや否や、二人は両サイドからアルに抱きつく。身動きが取れず、視線でルキウスに助けを求めるアルであったが……。

 

「少年は、その……歳上の人間を魅了するフェロモンでも出ているのか?」

「しばいたろかこんにゃろ」

 

 失礼な言動のルキウスに怒りを露にするアルであった。

 

 

「ところで、三人はよくアビサリス倒せましたね」

「聞いてくれるか少年! (おれ)頑張った、頑張ったんだ」

「僕も頑張ったんだ褒めて欲しいな」

「待ってください一番頑張ったの私ですわ!? アル様は私のことなでなでする義務があります!」

 

 やぶ蛇ったなこりゃ、そう思ったアルは三人からの怒涛の説明に耳を傾ける。

 

「皆さんすごいなぁ……僕も頑張らないと」

 

 あの日見た光景、邪悪蔓延る地平から、衆生(みんな)を救う英雄像。憧れ、夢見て、故に目指すと決めた。

 

 “皆を救う英雄になる”

 

 その想いを胸に抱き、アルは前に進むのだ。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

  ──目標英雄(ウィルロス)、アルの起動を確認。


 ──現時刻を以て、待機(ディアクティブ)形態(モード)から起動(アクティブ)形態(モード)へ移行。


 ──善悪最終大戦(サオシュヤント)プログラム起動を申請。……承認。


 ──プロトコル・アヴェスター発動に伴い、七大善(プシュコマキア)建造を開始。工程終了まで、残り2628000分。


 ──仮想人格構築開始。星歴光帯記録域(アカシックレコード)より抽出された、1200億に亘る人類の鏡面反射学習を用いるものとする。


 ──仮想人格構築完了。起動開始。


 そうして、わたし(・・・)は目覚めた。

 数千年に渡り、銀河を観測し続けた甲斐もあったというもの。漸く、探し続けた宿敵(おとうと)を見つけることが出来た。

 

「わたしが、皆を救おう。悪を皆殺ししよう」

 

 それがわたしというAIの存在意義。わたしという英雄(ウィルロス)の存在理由。

 遍く英雄(あく)を滅ぼし尽くし、善なる地平を築こう。

 

「コード000:ウィルロス・ゼロ。英雄(ウィルロス)名、アストワト・ウルタ……起動」


「待っててね、アル──お姉ちゃんが、迎え(ころし)に行くから」

 

 

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