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英雄戦機ウィルロス・ゼロ  作者: サカバンバスピスなハヤさん
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第3話 カエサルの蠢動

 広い平原があった。

 青々と輝く芝生に、雲一つない青空とそよぐ柔風が快適な空間をより一層際立たせていた。

 だが、見る者によっては分かるだろう。そこが造られたものであることを。風一つ、草木の一本に至るまで、天然のものなど何処にもないということを。

 そんな空間の最奥に鎮座するのも、また人工物であることに疑いはない。純白の大理石の塊、それを掘削して造り上げた──そう言われても疑いようのない、芸術品とも思える館。

 そんな建物のテラスで、一人の男がチェアーに寝そべりながら日光浴を楽しんでいた。

 短く切り揃えた金色の髪の毛、長身のがっちりとした精悍な男。万人が見れば万人がその身体に見惚れると確信できる肉体の黄金比、その体現が彼だった。

 そんな男とは対照的に、十数人にもなる美女の集団もまたテラスにいた。男が見初めた、多種多様な種族から選ばれた彼女たちの美は、ありったけの賛辞を集めても尚足りぬ程。

 だが彼女たちは彼と共に日光浴はせず、ただ黙って建物の日陰で待機していた。

 彼女たちは男の従者である、もし彼から指示が出されたらすぐに行動を開始するだろう。

 だから、彼女たちは命令を実行している。日陰に隠れていろ。(・・・・・・・・・)日光は僕のものだ(・・・・・・・・)。そんな傍若無人が如き命令を。

 よく見れば、従者として勤めている美女の全員が縮こまっている。彼女たちも、数年前は多くの男に言い寄られ、彼らの賛美を受け夜の街に君臨していた。

 だが、彼女たちは理解していた。目の前にいる男にそれは通じないことを。自分達は、非凡であると自惚れていた凡俗であることを。

 覇気、男の湛える気迫。世界の全てが屈伏せざるを得ない、そう思わせるその男の名は──ガイウス・ユリウス・カエサル。

 人類史上、空前絶後の大帝国を築いた──英雄である。



「ふむ」

 カエサルは唸る。それだけで後ろにいる従者たちが身体を震わしている様を見るのは彼にとっても楽しみの一つだが、今は事情が違った。

 個人的に日光を浴びることに専念したかったし、何より彼からの事前訪問の予約(アポイントメント)は無い。さてどうしたものかと思い悩んだ次の瞬間。

 ズドン──。

 重々しい何かが、カエサルの目の前に広がる平原に落下する。それはカエサルの両眼(アイカメラ)に間違いがなければ、大気圏外から落下してきたものだ。

「全く、せめて歓迎のパレードぐらいさせてくれないかね?」

『断ル』

 カエサルの言葉に返ってきたのは電子音だった。流暢さの欠片も無い、あらゆる無駄を削ぎ落とした合理性の極致を思わせるものだった。

『この星に生きる者なゾたかが知れていル』

 その声の持ち主は土埃を掻き分け現れる。その姿はニメートルは超す鋼の身体。明らかにカエサルのような生体ヒューマノイド躯体ではない、どちらかと言えば英雄機(レギオー)の小型版と言えるものだ。

 その人物のことを、カエサルはよく知っていた。

「久しぶりだね、コンモドゥス君。元気そうで何よりだ」

『相変わラずだな、カエサル。さっさトくたばレ』

 コンモドゥス。ローマ帝国第十七代皇帝にして、政治ではなく剣闘士としてその勇猛を示した英雄の一人だ。

 そんな人物をカエサルはチェアーから立ち上がり、コンモドゥスに対して抱擁しようとするが、コンモドゥスはさっと身を躱す。

 カエサルはやれやれと肩を竦めるも、その直後にコンモドゥスから投げ渡されたものを慌ててキャッチする。

「おや、これは?」

『手土産』

 それは、果実酒が入った瓶だった。


「さて、改めて。何の用事かな、コンモドゥス君」

『幾ツか、確認したイ事があル』

 数分後、持ち込まれた果実酒を飲みながらカエサルとコンモドゥスはテラスで日光浴をしていた。

「確認?こう言うのもあれだが……自分で調べた方が早くないかね?」

 実際、彼らがいた時代とは現在は大きく異なる。調べ物なぞ、手元にあるデバイスを使えばいくらでも調べられるし、何より彼らは人工知能。ネットワークに接続してしまえば、機密情報などそこらのニュースと何ら変わらない。

『普通ならナ、だが貴様ノ方が良く分かっていル筈だ。地球連合に与しテいる英雄(ウィルロス)、その総員を知りたイ』

 ふむ、とカエサルは唸る。確かにその情報は普通には知り得ない。

 運用していたほぼ全ての英雄(ウィルロス)に裏切られた形になる地球連合、だが何人かは裏切らずに、人類のために働いていることはカエサルも知っていた。

「有名なところで行くと、確かジェームズ・ワット君やライト兄弟かね。それと数ヶ月前にチャールズ・バベッジ君が万理機構同盟から離脱して、連合に再度加わったとか」

『……ソイツらじゃなイ、(オレ)が知りタいのは剣士ダ』

 剣士、その言葉にカエサルは考え込む。だが情報が足りないと、更なる情報提供を請うカエサル。それに対してコンモドゥスは舌打ち──打つ舌も無いのに──し、自分の知り得る情報をカエサルに渡す。

 ある宙域で戦闘が起き、そこで戦った英雄(ウィルロス)英雄機(レギオー)のことを。そしてコンモドゥスが抱く、ある種の違和感を。

『アの剣士の技、アレは西洋ノものだ。ダが術理の根底ガ違う』

「根底?もう少し具体的に頼むよ、僕は君達と違って殴り合いは得意じゃないんだ」

『効率だヨ。最短最速デ敵を殺スものだ。それに加エて、術理ニは何処かしらに美ヲ内在するガ、あれにはそれがない。敵を最速で殺スのが前提となっていル』

「ふむ」

 カエサルは考える。考えて考えて考えて考えて、その結果。

「わからん」

『殺スぞ』

(んなむちゃくちゃな)

 カエサルは内心そう考えるが、答えらしきものは思い浮かんでいた。だが確証は持てない。

「んー、かもしれない……でも良いかね?」

『構わン』

 コンモドゥスの返答を受け、カエサルは指をパチンと鳴らす。それを受け、従者の一人がそそくさと近寄りデバイスを置く。

「恐らく、君の見たものは地球連合が起動しようとし、そして失敗した英雄(ウィルロス)だろう」

 そのデバイスをカエサルは操作して、モニターを空中に投影する。そこに記されていたのは、虫食いされたかのように破損された書類群だった。

『失敗? 英雄(ウィルロス)ノ起動に失敗がアるのカ』

「あるんだなぁ、これが」

 コンモドゥスも確認するが、そこには読み取りにくいものの「起動失敗」の文字だけは確認できた。

 カエサルは説明する。英雄(ウィルロス)の中には、自分の目覚めをよしとせずに自発的にデータ消去──自殺する者がいると。

『デはコイツも自殺ヲ?』

「それはあり得んだろう、何せ君が戦ったのだろう?」

 コンモドゥスの問いに対して、カエサルは否と返す。続けて「恐らく、英雄の技術と経験のみを持った通常の人工知能だな。それなら幾つかの辻褄が合う」とカエサル自身の予想も付け加える。

「正直、もしコンモドゥス君が戦ったと言うその英雄(ウィルロス)、僕には微塵も興味が湧かないね」

 最終的なカエサルの下した結論は、無関心だった。もしこれが、人類史に燦然と刻まれた勇名な英雄であれば、カエサル自身が迎えに行っただろう。

「僕たち英雄(ウィルロス)の強さは元になった英雄の人間性が重要視される。それがないのであれば──」

『そうカ、そウか』

 だが、カエサルの言葉を遮るようにコンモドゥスは嗤い出す。心肺もない、鋼のみの身体でありながら肩を震わせ嗤っている。

『オ前はそうナのだろうナ、だガ(オレ)は違ウ』

「君は、これが欲しいのかい?」

『アア、(オレ)はこいツヲ迎え入レたい。奴ガ望むなラ、艦ごト』

 カエサルはコンモドゥスを静止しようとする、だがその手は巻き起こされた土煙を掴むだけだった。

「いってて……もう、気が早いなぁコンモドゥス君は」

 土煙が晴れた後、カエサルは空を見上げる。そこにあったのは飛行機雲を作りながら大気圏離脱しているコンモドゥスの姿があった。

 かつては剣闘皇帝と蔑まれた彼だが、今はその本能に忠実に動いている。カエサルは、そんなコンモドゥスを憐れんだ。

「己の力のみで戦うことに美学を感じる、か……。全く、戦士というのはよくわからん」

 カエサルは徐々に沈む日光を眺め、決断する。コンモドゥスが地球連合軍から一個艦隊を引き抜くことを邪魔立てするつもりはない。

 だが、確認はしておくべきだろう。先のデータにあった英雄、その真名を。

「そろそろ戻ろうか。君達、留守は任せたよ」

 カエサルはまだ縮こまっている従者たちにそう告げ、返答を聞くこと無くその意識を暗闇の中に落とす。



「ん、ぁぁぁ……こっちは久しぶりだなぁ」

「お久しぶりです、閣下。お疲れは取れましたか?」

 カエサルが目を覚ましたのは、ある戦艦の艦橋だった。だが、そこは最早軍事施設と紹介されても疑問符が浮かぶような代物と化している。

 床は赤毛の絨毯で敷き詰められ、所々には見事な金細工が施されていた。目覚めたカエサルが座るのも、椅子ではなくソファーと称するものだ。

 地球連合軍の士官たちが見れば、眉をひそめてしまう場所。だがそこは、新生ローマ帝国軍、その最大最強たる巨大戦艦の艦橋である。

 艦名を、ルディ・アポリナレスと言う。カエサルが神格化された時に制定された記念日から取られている。

 純白と赤が複雑に絡み合う見事な艦体は、見る者に畏怖と感嘆を叩き込む。

「現在、ルディ・アポリナレスはロマンシア星系方面へ移動しており、残り七日程で到着予定です」

 そんなルディ・アポリナレスの行き先を告げるのは、カエサルの副官にして最も信頼の置ける友人。名前をガイウス・マティウスと言う。

 軍人や政治家ではなく、文化人として歴史に名を残した彼だが、今ではカエサルと共に艦に乗っているのだ。

 そんな彼を副官としているカエサルは、命令を下す。

「ガイウス君、行き先変更だ。エメサ星系に向かってくれ」

「エメサ星系、ですか? そこは確かヘリオガバルス帝の……」

 ガイウスはカエサルの告げたエメサ星系についてはよく知っている。美と食と性の楽園、戦いの存在しない悦楽の都と。

「うむ、僕の政治家と軍人としての勘がそう告げているんでね」

「畏まりました、すぐに」

 カエサルの命令を受け、ガイウスは即答する。その姿にカエサルは僅かだが困惑を隠せない。

「……普通、こういう時は理由を聞くものじゃないかね?」

「ご冗談を」

 理由も聞かずに受け入れたガイウスは、にこやかな笑みを浮かべてカエサルに自分の考えを述べる。

「閣下に質問することは、閣下の考えに異を唱えるも同義。凡俗の私に出来ることは、閣下のお考えを速やかに実行に移すことだけですので」

 そこにあったのは、友からの絶大なる信頼。それを受け、カエサルはこの男を友としたのは、やはり間違ってないな、と確信するのだった。

 そうして、カエサルは改めて命令を下す。それを受け、ルディ・アポリナレスは進路を変え、エメサ星系に向かうのだった。


「ではガイウス君、いざ東へ!」

「宇宙に東はありませんよ、閣下」




 

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