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英雄戦機ウィルロス・ゼロ  作者: サカバンバスピスなハヤさん
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第28話 コード・アル■■■■

『ク、ハハ!! アーハッハッハッハァッ!!!』


 戦場は正に混沌の体を成していた。

 空間を染め上げる光条弾雨(レーザーレイ)。直撃すれば蒸発は必至の一撃が、五月雨のように降り注ぐなかを、コンモドゥスは狂喜の哄笑を撒き散らしていた。

 

『良いぞ、やはり戦いとはこうでなくてはッ』

『くっ、このぉっ!!』


 大振りで振り抜かれる大戦鎚──コンモドゥス英雄機(レギオー)の主兵装、大英雄越えし(ドキマシア・)試練の十二(ヘーラクレオス)をアルは辛うじて防御に成功する。

 コンモドゥスと交戦を開始してから僅か数分、アルは嵐の如き猛攻を耐え忍ぶので精一杯だった。

 理由は単純、コンモドゥスの持つ武力。一体どれ程の戦いを経たのだろうか、ンジンガすら凌駕しかねない規模の力を巧みに扱っている。


『久方ぶりだよ、アル・ネムホワイト。オレはお前を英雄だと信じているんだ、その程度で破壊(やら)れるなよッ!』

『当然ッ』


 コンモドゥスの滾る戦意は絶好調かつ最高潮。それを見て分かるからこそ、アルもまた勇気を薪とし恒星機関(ステラ・エンジン)の出力を上げていく。

 結果、アルも短い活動期間のなかで最大出力記録を更新、尚も増大していく。


『貴方、一騎討ちとかそういうの好みなんです、ね!!』

『応とも! 尤も、スポリア・オピーマを受ける時期も戦も無かったがなァッ』


 両者共に増大していくエネルギー出力が、限界値を突破しているのか関節部から火花が飛び散っている。

 しかし構わん知らんどうでも良いと言わんばかりに、己を彗星と化して幾度と無く激突していく。

 振るう剣が、鎚が、杭打ち機が、拳が、荷電粒子砲が──。

 虚空を震撼させながら敵手の命脈を打ち砕かんと吼えていく。


『曰く我ら(ローマ)の祖、ロムルスはカエニナ人の王アクロンを一騎討ちにて破り、そいつの鎧を大神ユピテルへ捧げたという。ああ、全く……羨ましいにも(・・・・・・)程がある(・・・・)ッ!!!』


 コンモドゥスの叫びを、そこに込められた想いをアルは痛い程に理解できた。

 英雄とは己の力のみで、天上からの祝福を用いて戦い勝利を積み重ねるのではない。

 その力を用いて何と(・・・・・・・・・)戦うかが肝要なのだ(・・・・・・・・・)

 百万の弱者を鏖殺しても、それで得られる価値は石ころにも劣るのは明白だ。

 真に英雄、勇者だと讃えられたいのなら、竜の一匹神の一柱、打ち倒さねば嘘だろう。


『古今東西の英雄を知れば嫌でも分かる。英雄とは、強き者と戦い勝利する者の総称だ、武力知力財力問わずその全てを用いて戦い、勝利している』


 コンモドゥスの叫びと共に投擲される大槌。隕石の直撃にも等しい衝撃を前にして、アルは咄嗟にパイルバンカーで防いでしまう。

 結果、衝撃に耐えられず破壊される。悲鳴を上げるかのように装甲がひしゃげ、内部の電子機構がショートしたのか弱々しい爆発を虚空に咲かせる。

 しかしそれは、アルにとっては僥倖に等しかった。コンモドゥスを前に、あれは少々重すぎた。

 アルは砕かれたパイルバンカーの破片と大槌を続けてコンモドゥスめがけ蹴り飛ばし、目眩ましの弾丸とする。

 英雄機(レギオー)のセンサーは誤魔化せないが、かつて人であった頃の反射を無意識に発生させるためだ。


『チィッ』


 思わず手を前にして破片を防ぎつつ、蹴り飛ばされた大槌を取り戻すコンモドゥス。

 しかしその直後、彼の視界に入ったのはアルの英雄機(レギオー)、その脚のブースターであった。

 次瞬放たれるドロップキックに加え、ブースターの爆炎。人の身では成し得ない戦闘兵器の本領を発揮しながら、アルは英雄(コンモドゥス)を打ち倒しに取り掛かる。


『貴方の掲げる英雄像は、確かに理解は出来ます。しかし──!!』


 武器は片手剣のみ。しかしそれで十分だと気合いを入れ突撃する。恒星機関(しんぞう)めがけ剣先を向けての衝突(チャージ・アタック)はしかし、横っ面からの大槌の一撃に防がれる。


『しかし……? その続きはなんだ、言ってみろォッ』

『づっ……! 英雄とは、誰かを守る者。明日を夢見る(だれか)愛す(まも)る者だッ!!』


 吹き飛ばされる衝撃を、全スラスターを最大出力で噴射。文字通り生身ならミンチになる程の衝撃を機体各所に受けながら、アルは再度突撃する。

 振るわれる斬撃と大槌の乱舞が戦域を彩り、そして鍔迫り合いに以降する。

 金属と金属が擦れ合い、火花を飛び散らせていく。英雄機(レギオー)のカメラがエラーを吐くものの、知ったことかと英雄達は構わず力押しを演じていく。


『守る……? ああ、確かにその通りかもな。強ければ何だって出来る』

『それは武力の話でしょう。弱くても、誰かを守れるならそれは英雄だ』


 激しい衝突の最中、彼らのセンサーが一つの緊急事態(エマージェンシー)を発令する。その内容は──高速飛翔体の飛来だった。

 互いに押し合う形で離れた直後、先程までいた場所に何か(・・)が飛んでいきそして──その先に居たアビサリスの外殻、その一部が砕ける様をコンモドゥスはまざまざと見せつけられた。


『何? づァッ……!?』

『余所見禁物ッ!』


 その一瞬を、アルは決して見逃さない。真空で尚鳴動し煩悶するアビサリスの咆哮を浴びながら、果敢に攻め立てていく。

 しかしそれも直ぐに終わる。強引に体勢を立て直し反撃に転ずるコンモドゥス。勢いを殺がれることとなったアルは、再度の隙を見出だすべくコンモドゥスへ叫ぶ。


『他者を愛し、弱きを慈しみ、誰かを傷つける悪意を許さない。例え偽善と言われようと、その想いを胸に抱き前へ進む者こそが英雄と呼ばれるに相応しい!』

『ハッ、大層なおためごかしだな! そんな想いに酔いしれる自分が好きなだけじゃないかッ!?』


 アルが放つ虚空を斬滅せんと猛る剣閃を、コンモドゥスは轟と唸る打撃で次々と打ち砕いていく。


『他者を助けるのにも力が必要だ。貴様はあれか、弱者(ざこ)を救えなかったとしても、「救おうとした気持ちで十分だ」とでも抜かすか? 助けられない力に、意味など無いだろうがッ!!!』


 それどころか、コンモドゥスの力量が徐々に徐々に……しかし確実に上がっていく。

 アルも同様に、コンモドゥスの戦闘パターンを解析し適応(コンバート)しているが……それも焼け石に水。

 アルの成長速度よりも、コンモドゥスのそれが遥かに上回っている。


『英雄は、己の意志を押し通す。それが出来るのはたった一つ、力! 力があるからだ!! 文句があるのなら、オレの意志(ちから)を上回ってみせろォッ』


 よって、それは順当な結末へと至る。コンモドゥスの身に宿る武威が、遂にアルでは対処しきれない領域に届く。

 最早攻勢に転ずる暇もなく、辛うじて防御に徹するので精一杯。しかしそれも直ぐに瓦解してしまう。

 防御網を突破し、回避すら許さずアルの左腕は打ち砕かれる。

 多少の構造は残されたものの、飛び散る火花とひしゃげた装甲は一目だけでも使い物になら無いと分かる程。

 最早重荷(デッドウェイト)と化したそれを、アルは操作し根元からパージする。


『まだ、まだだッ!』

 

 喝と気合いを込めた叫びはしかし、荒れ狂う嵐を前にしては心許ない灯火でしかなかった。

 右足が砕かれる。露出する機体骨格(フレーム)が、回路と接触しているのか暗い戦域を弱々しく照らしているが、それもまた即座に切り捨てる。

 

『終わりだ、アル・ネムホワイトォォォッ!!!』

 

 手足を奪われ、戦力が著しく落ちたアルを仕留めるべく、コンモドゥスは大槌を大上段で振りかぶる──その刹那。

 

『勝ちたいか』


 突如入る超速通信。一秒すら悠久と思わせる刹那の一時に、アルは困惑を隠せない。だが、声の主は知らぬと言わんばかりに再び問いかける。


『勝ちたいか』

『いいえ、僕は──皆を守りたい!』


 声の主のことは、アルは薄々と察していた。先のンジンガ戦で協力してくれた者だ。ログを漁れば何者かは分かるだろうが、そんな時間的猶予は無い。

 そんな焦りが、アルを襲う異変に気付くのを遅らせた。


『是非もなし──我らが後継よ、ここは俺に任せろ』


 ──《マザーベース》との接続再承認(・・・)

 ──全兵装無制限(オールウェ)使用許可、承認(ポン・フリー)

 ──英雄機(レギオー)制御権移行を確認。メインOSコード・アルからコード・アル■■■■へ。


 端的に表すなら、それは肉体の制御権、その簒奪にも等しかった。──何だこれは。

 アルの人格は急速に水底に沈められ、その代わり──新たな英雄が浮上する。

 肉体の喪失という、体験したことの無い恐怖を味わうアルであったが、全てが奪われるその寸前に願いを託す。


 “皆を──守ってください……ッ!”


 そしてその異変は、外部から見ても明らかだった。


『ッ、……チィッ』

 

 コンモドゥスは攻撃を取り止め、ブースターを噴かして即座に後退する。

 致命的な隙だった、あのまま攻撃を敢行していれば変化すら許さず破壊できていた。

 だがそれ以上に、総身を駆け巡る恐怖がコンモドゥスの後退を選択させたのだ。

 

『……貴様、何者だ。アル・ネムホワイトではないな』

『生憎、貴様に語る名は持ち合わせていない。だが──』

 

 次瞬、迸る戦意と覚悟。その背の(だれか)を護らんと叫ぶ決意が、虚空に大輪の華を咲かせる。

 雄々しく、優しく、勇壮に轟く大喝破。しかしそれは、アル・ネムホワイトのとは何もかもが異なっていた。

 答えは同じ、しかしそこに至るまでの結論が違うと、コンモドゥスは確信していた。

 

『──遍く悪を鏖殺する、悪の敵と知れ』

 

 刹那、コンモドゥスは正義(ヒカリ)を目の当たりにすることとなる。

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