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英雄戦機ウィルロス・ゼロ  作者: サカバンバスピスなハヤさん
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第26話 アビサリス

『ええい、なんだあの奇怪な結晶体は!?』

 

 補給(きゅうけい)の為に一時退却をしたアル達の目の前に現れた、虹色に煌めく異形の結晶構造。それを知らないルキウスがぎゃーぎゃーとわめく中、アルも内心冷や汗をかく。

 

『あれは……アビサリス……?』

『確か、ゼーレヴェ星雲大戦で新生ローマが連邦相手に出した生体兵器ですわね』

『まさかそんなものまで引っ張ってくるとはね……』

 

 ゼーレヴェ星雲大戦。数年前に発生した、新生ローマ帝国とハプスブルク=ロートリンゲン啓蒙連邦の間の大規模会戦だ。

 その戦いでは、コンモドゥス率いる艦隊と、啓蒙連邦有する第二世代型英雄(ウィルロス)、『竜殺し』ジークフリート艦隊が衝突したという。

 その戦いのなかで運用されたのが、今目の前に現れたアビサリス……ということである。


『なるほど、正に神話の怪物が如き存在か。それで、どう攻略する』

『攻略もへったくれもありませんわ、あれはもう英雄機(レギオー)とかじゃどうしようも出来ない領域の概念ですもの』


 アンの言は正鵠を射ていた。何せあのイアペトスと同規模──天体級の巨体を誇っている。そんな生物が暴れれば、まず間違いなく艦隊は壊滅的な被害を被ることになる。

 しかも超級規模の重力源を有しているのか、観測機器がまるで作動しない始末。

 僅かに近づけば、それだけで機体が軋み破砕されるかのような錯覚を、電子の身体でありながら味わう程だった。

 そんな存在を、高々十メートル程度の鋼の巨人でどうこう出来る筈もない。半ばアンは諦めの境地にいた。

 だがその状況を打開するきっかけが訪れる。それは、イアペトスからの超速通信であった。


『……全英雄(ウィルロス)を、イアペトスに集結させるか』

『何を考えてるんだろうね、上は』

『さぁ? まあ私達のような歩兵にゃあんまり関係ありませんわ』


 全英雄(ウィルロス)、集結──そんなイアペトスからの通信を受け、ルキウス達は移動を開始する。


『……ところで二人よ、少年はどこに行った?』

『『……え?』』


 しかし、その中に……アルの姿は無かった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『で、何の用ですか──コンモドゥス』

『ヨく来たナ、アル・ネムホワイト』


 その頃、アルはというとコンモドゥスとの対話に勤しんでいた。

 丁度、布陣する地球連合艦隊と新生ローマ艦隊の中間の位置で、二人の英雄(ウィルロス)は言葉を交わす。


『さて、ンジンガを殺しタソうだな』

『はい』

『ソウカ、やはりオ前か』


 互いに流れる空気は正に凪。まるで長年の友との会話すら思わせる程に、敵意は感じられない。

 コンモドゥスは、まるで涙を拭うかのように目元に手を(かざ)す。


『あいつハ、良い教師だッタ。俺には王とシテの才覚は無カッタかラナ……もっと、奴ト語らえバト思ってしマウ』

『……』

『安心しろ、恨みハナい。戦いとハそウイうものだ』


 コンモドゥスの語ること、それが本心だとアルは心から理解する。そして、だからこそ抱いた疑念をコンモドゥスに投げつける。


『では、僕をここに呼びつけた理由は?』


 イアペトスからの通信、それとほぼ同時にコンモドゥスはアルに向け通信を繋げていた。内容は至って単純、一人で来いというメッセージと、集合先となる宙域の座標。

 他の英雄(ウィルロス)も、連れていこうと思えば出来た筈のアルであったが、そんな卑怯な真似はしたくなかった。

 その覚悟を感じ取ったか、コンモドゥスは毅然とした態度で答える。


『呼んだ理由か、決まっている。──此方に来い、アル・ネムホワイト。必要ならば、お前の後ろにいる艦隊全て受け入れる』

『お断りします。そちら(新生ローマ)は、僕のいるべき場所じゃないと思うので』


 コンモドゥスの勧誘を、アルは一蹴する。直ぐに断られるとは思っていなかったのか、コンモドゥスは苦笑を溢すしかなかった。


『逆にどうです? 貴方がこっちに来るのは』

『御免被る。オレに平和(そちら)は似合わんよ』


 そして逆もまた同じ。そのやり取りを経て、アルはコンモドゥスの本質に気付く。


『戦いが好きなんですね』

『さてな、そうかもしれんし……そうではないかもしれん』


 闘争を好んで行う生命は少ない。どんな敵であろうと、怯まず竦まず挑み続け勝利を積み重ねるなど、通常の生物なら正気の沙汰では無い。

 だが、人間(ヒト)は違う。

 武器を取り、肉を切り裂き、骨を砕き、血を流し血を浴びる。それが正しくないことは承知の上で、しかしそれを成せる者達──英雄に憧れてしまう。


『戦い、殺し、立ち続ける。かつてのコンモドゥスがそう願ったことを、否定は出来ん。英雄に憧れてしまったのだから』


 曰く、コンモドゥスは己をヘラクレスと同一視していたという。それはある種、英雄への憧憬から来るものであった。

 一人を殺せば殺人者、百万殺せば英雄。──ならば、己は百万を殺し英雄になる。

それが、今の英雄(ウィルロス)コンモドゥスが掲げる誓い。


『もう良いですか?』

『語るに及ばず』


 だからこそ、アルはこれ以上の語らいは不要と判断する。

 英雄機(レギオー)に表情といった機能は無い。能面を思わせる顔は変わらず。しかし声色から、二人が互いに柔和な笑みを浮かべているのは想像に難くない。

 刹那の静寂が流れ、そして次の瞬間──両艦隊から放たれる無数の砲火が、英雄の激突を彩っていく。

 百花繚乱の火線の中を、アルとコンモドゥスが咆哮し最大出力で突撃しそして──


『貴方の戦いを──』

『貴様の全てを──』


 ──殺意と覇気を伴って激突する。


『『ここで終わらせてやる!!!』』


 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ──時を幾ばくか戻して、地球連合艦隊中央

 

 

『急に呼びつけてすまない、もう一刻の猶予もないのでな』

 

 ヴラド三世の一言は、謝罪だった。それもそうだろう、緊急とはいえ、近くもない距離を無理矢理移動させられたのだから。

 だが、彼らは別に対面して話し合っている訳ではない。

 超速通信──英雄(ウィルロス)間のみで成立する通信方法。

 情報を超圧縮することにより、人間の感覚では数時間近い情報のやり取りを、僅か数秒にまで圧縮する。

 しかし常に出来る訳でもなく、それなりに時間も手間も必要だが──そんなものは戦闘開始前に終わらせている。


『構わんとも、それで(おれ)達を呼んだ理由は何なのだ』

『そうですわそうですわ、こっちはアル様も急に居なくなってしまって大変ですのよ』

『僕はこの話が終わったら、早く捜索しに行くつもりだから』


 超高速のやり取りでルキウス、アン、メアリーの三名は思い思いにヴラドに対して、己の考えを吐露する。


『待て、アル君が行方不明だと』

『うむ、こちらに呼ばれた時には既に、な』

『こんな時に……まあ仕方ない、今はあのデカブツ(アビサリス)が優先とする』


 アルのことを心配もしていないのか、ヴラドは話を進めていくことに三人の英雄(ウィルロス)は不快感を露にする。

 だが同時に、ヴラドとしてもこの三人に動かれては困るのが現状であった。アビサリス級の怪物に対処するには、多くの戦力が必要不可欠だから。


『探しに行くのは結構だが、あれを放置してはそれも無意味と化す可能性もある。おすすめはせんよ』

『ちっ……で、地球連合様にはアビサリスへの対処策はあるんですのね』

『無論、無ければ呼ばん』


 苛立ちを隠さないアンであったが、ヴラドは凪と受け流していく。そんなやり取りを打破したのは、この通信にいるべきもう一人の英雄(ウィルロス)であった。


『なんじゃ、大層険悪な雰囲気じゃのう』

『……朝倉宗滴、大物のご登場だね』


 入ってきたのは、艦隊の実質的なトップの英雄(ウィルロス)が一人、朝倉宗滴だった。名の知れた英雄(ウィルロス)の登場に、メアリーは思わず固唾を飲む。


『さて、では必要な人員は集まった故、これより軍議を始める』


 ヴラドは、堂々とした態度でその場に集った英雄(ウィルロス)達に叫んだ。


『アビサリス撃滅作戦──オルフェウスの竪琴作戦をまとめていく』



 

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