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英雄戦機ウィルロス・ゼロ  作者: サカバンバスピスなハヤさん
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第22話 カッシーニ会戦

 地球連合艦隊の右翼側の様相は、まさに混沌だった。

 コンモドゥスと彼率いる英雄機(レギオー)の軍団、更にその背後から迫るローマ帝国艦隊からの荷電粒子砲の一斉射。

 巻き起こる破壊の奔流を受け、地球連合軍は混迷を極めることとなった。

 

『全軍、攻撃開始』

 

 静かに、しかし熱を込めて放たれるコンモドゥスの指示を受け、新生ローマ帝国の英雄(ウィルロス)達は勇猛に突撃を開始する。

 士気の高さに差があるのなら、高い方が戦場を支配するのは自明の理であった。辛うじて逃走しようとする英雄(ウィルロス)は見当たらないものの、それも時間の問題だ。

 しかし──

 

『全軍突撃ィ!! 靖国で待つ我らの同胞の為、総員奮起せよッッ!!!』

 

 ──白亜の英雄機(レギオー)と、薄汚れた傷だらけの英雄機(レギオー)の軍勢が、ローマの横っ面を殴り付けた。

 機体のあちこちに刻まれている旭日旗、彼らこそかつてコンモドゥスの手によって壊滅させられた勢力──旭日艦隊である。

 

『コンモドゥス、覚悟ォォォッッ』

『チィッ!!』

 

 鋭く煌めく白刃が、大上段からコンモドゥスめがけ振り下ろされる。すんでの所で防ぐコンモドゥスだったが、眼前の敵手に覚えがあるのか、怒声を浴びせる。

 

『貴様、マレーの虎の……ッ』

『そうだ。虎が地獄の果てより、貴様を討つべく戻ってきたぞ!!』

 

 マレーの虎と呼ばれた英雄(ウィルロス)──山下奉文(はるふみ)はスラスターの出力を上げ、手に持つ刀で一刀両断せんと昂っていく。

 かつては大英帝国が支配する難攻不落と謳われたシンガポール要塞を、僅か十日で攻め落とした猛将の攻撃はまさに嵐そのもの。

 対するコンモドゥスはその体勢が自身に不利だと悟れば、即座に機体を自爆させる。

 機体内部の恒星機関(ステラ・エンジン)を暴走させての爆発は、虚空に一輪の光点を生むに至るが、しかし奉文は健在だった。

 

『爆発を切リ裂いタか』

『この程度、出来ずに帝国大将を名乗れるかッ』

 

 眼前に生じた爆炎を切り裂くという絶技を、まるで造作もなかったと言うような奉文。両機は互いにトップスピードまで加速し、激しい衝突を見せる。

 生じる鋼と鋼の激しい競り合いを皮切りに、旭日艦隊と新生ローマの熾烈な戦いが幕開ける。

 

 英雄(ウィルロス)には、大別して二種類のタイプが存在する。

 片や──

 

『今すグ貴様をスクラップにして、靖国だとカに送り返してヤルッッ!!!』

 

 手にした巨大な戦鎚を振るい、白亜の英雄(ウィルロス)を破壊せんと猛るコンモドゥス。まさしくその姿は戦士の理想像。個と個の激突における最適解を選択し続ける。

 コンモドゥスの猛攻は奉文どころか、周囲の彼以外の英雄機(レギオー)子機(スレイヴ)すら纏めて破砕していく。

 

『抜かせッ!!!』

 

 片や山下奉文はと言うと、コンモドゥスの猛攻を凌ぎきるのに手一杯であった。

 無論、その技法は神業にも等しいのだがしかし、コンモドゥスの攻撃こそが最大の防御という理屈を体現した猛攻を前に、反撃の隙を見出だせない。

 であれば、山下奉文という英雄(ウィルロス)はここまでかと言われれば──否である(・・・・)

 

『ッ!? チィッ』

 

 奉文の英雄機(レギオー)と似た機体──子機(スレイヴ)の小隊が、コンモドゥスに対して攻撃を開始する。

 手に持つ銃火器──三八式歩兵銃に酷似したものを、断続的に撃ち続けていく。しかもご丁寧に同じ位置に居らず、コンモドゥスの周囲を回っていく。

 間断なく降り注ぐ弾丸の雨を突如浴びせられるコンモドゥス。その意識が一瞬子機(スレイヴ)達に向けられるのを、奉文は見逃さない。

 

『オオオォォォッッ』

『ハアアァァァッッ』

 

 ──改めて、英雄(ウィルロス)には二種類存在する。

 コンモドゥスのように、圧倒的な武を有し個と個の激突においては最優を誇る英傑タイプ。

 山下奉文のように、優れた軍略と戦術を有し多対多の戦闘において無双を誇る戦術家タイプ。

 どちらがより優れているか、という疑問は意味をなし得ない。両方とも状況によっては無双を誇ることもあり、そして何の意味もなく死に絶えることもある。


 故に──


『『虚空の彼方に死に果てろッ!!!』』


 ──貴様は死ねと、暗闇の宇宙に絶叫を轟かせながら、武勇と戦術を行使して敵の命脈を断ち切らんとするのだった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 その頃、左翼側──アル達はというと。


『コンモドゥスが右翼側に……』

『今は向こうに気をやる必要はないぞ少年、既に命令は下された』

『逆に考えよう。こっちは鴨撃ちし放題ってことだね』

『ですわですわ、撃墜数(キルマーク)稼ぎ放題ですわ!』


 そんなやり取りをしながらも、イアペトスから下った攻撃命令に従い、前方の新生ローマ帝国艦隊に強襲を仕掛けていた。

 後方からの艦隊砲撃、荷電粒子砲の雨を潜り抜けながら多くの英雄(ウィルロス)が殺到していく。

 無論、新生ローマも黙ってやられる筈もなく、迎撃のため英雄機(レギオー)子機(スレイヴ)の軍団が突撃をしてくるものの……。


『謳え、我が神威の雷霆よ!! 《天帝(フルメン)()雷霆閃撃(インペラトリス)》ッ!!!』


 数の暴力を、個の暴力が上回るという理不尽。大剣を掲げるルキウスが放つ紫電の奔流が、虚空に千を越す徒花を咲かしていく。

 辛うじて逃れた機体も、直後蒼銀の影の強襲を受け、瞬く間に寸断されていく。


蒼翼瞬斬(ブルー・バード)ッ』


 それを為しているのはメアリー・リードだ。

 二本の腕がある箇所を四本に増やし、二本の足がある箇所を強大なスラスターに置き換えている彼女の英雄機(レギオー)は、並の機体を上回る戦闘力と機動力を有している。

 本来英雄機(レギオー)とは、元が人である英雄(ウィルロス)が操る関係上、人型を保つ必要があった。

 人は人から外れても、人の意識が残ってしまう。鳥になれたところで、鳥のように高い場所を飛べるとは限らない。

 取り分け武に通ずる者達はその縛りを受けざるを得なかった。人のために紡がれた技法は捨てられない。

 そんな中、人の形から外れた英雄機(レギオー)を持つ者は、自由を愛する気風の持ち主か……人の心を捨て去った怪物のみである。

 無論、メアリーは前者である。自由を求め海へ駆り出た彼女は、四本の腕を巧みに扱いカトラスを振るい、蒼の疾風(かぜ)となって戦域を駆け抜けていく。


『さあさあ、どうぞお逃げになって? その眉間に鉛弾ぶちこんで差し上げますわッッ』


 そして、荒れ狂う蒼の暴風刃(ハリケーン)から逃れ距離を取ろうとした英雄(ウィルロス)達を狙撃するのは紅の暴弾雨(スコール)だ。

 ──一体どこから?

 その疑問は降り注ぐ弾丸の軌跡が教えてくれる。自機の破壊を代償に。

 戦域の遥か後方、それこそ地球連合艦隊が布陣している場所からの極超遠距離狙撃。

 しかもそれを光線などではなく実体弾を用いての攻撃だ、アンの技量が如何に優れているかを証明している。


『皆様、敵の《マザーベース》を確認しましたわ。座標位置送信、こちらで狙撃しますが転調型偏極フィールドがあればほぼ無意味──近接で撃沈(しず)めてくださいまし』

『『了解』』


 そして後方からの支援も完璧に近かった。

 新生ローマ側の《マザーベース》をいくつか視認し、その位置を知らせてくれる。

 撃破できれば、敵戦力を大幅に減らせることが出来る。まさに彼女は戦場そのものを支配しているに等しかった。


『すごい……』


 アルも奮闘を重ねているものの、彼らの稼ぐ武功と比べれば雀の涙にもならない。

 だが、そこに恥や絶望はない。自分もあのようにやってみせると心に誓い、更なる戦いを求めて戦場を突き進む。


『少年ッ、あまり無茶はするなよ!』

『はいっ』


 アルはルキウスからの激励と心配に心の中で感謝をしつつ、新たな敵を探して──一つの光点が下方から迫りつつあるのを見つける。

 しかしルキウスとメアリーは、各々の戦闘に気を向けており気付けていない。

 それに気付けているのは自分だけという事実が、彼を迎撃に突き動かす──その刹那。


『皆様ッッ!!!』


 アンの絶叫、そして戦域を包み込む濃密な殺気。敵、悉く鏖殺せんと猛る覇気が、機械である英雄(ウィルロス)達の背筋を絶対零度にまで落とし込む。

 迫り来る濃褐色の装甲を持つ重装英雄機(レギオー)と、その子機(スレイヴ)達。

 異様に太い上半身と、対極的に小さな下半身。まるで敵を殴り殺すことしか考えてない異形。

 アルもルキウスも、その姿に覚えはなかったものの、アンとメアリーはそれを知っているのか、周囲の英雄(ウィルロス)達に警告を発する。


『全員気をつけてくださいましッッ』

『人喰いのンジンガだッ!!!』


 ンジンガ。その名を聞いたアルが次に受けたのは──怪物(ンジンガ)の咆哮。それが戦場で意味するのはたった一つである。


──英雄と英雄の激突、その開戦の号砲である。



 

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