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英雄戦機ウィルロス・ゼロ  作者: サカバンバスピスなハヤさん
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第21話 開戦

 カッシーニ宙域を端的に説明するなら、あまりにも不可解な場所である。

 この宙域にあるのは散乱するデブリ帯と、星の(リング)の残骸のみである。

 だが、かつてここを訪れたことのある異星存在達が収集したデータを参照すれば……ここにはかつて星系があったとされている。

 故に多くの者達はこう考えた──恒星の寿命、超新星爆発かそれに類するものが起きたのでは?

 だがその考察はすぐに違うと断じられる。それなら、何故星の(リング)が健在なのか、という疑問への答えがないからだ。

 ならば無爆発崩壊はどうだ──超質量の恒星が迎える最期、外装が消滅すること無く内部が崩壊し、ブラックホールと化す現象なら?

 しかしそれもすぐに的外れであると罵られる。

 何せそのブラックホールが観測出来ないのだ。そもそもにおいて、先のデータを参照すればこの星系の恒星がブラックホール化するのはあり得ない。


 ──という議論が喧々諤々と交わされていくが、最終的な答えが出ることは無かった。

 突如として消えた星系は、今も変わらず虚無を抱き続けている。しかしそれもすぐに終わりを迎えることになる。

 何故ならば、破壊巻き起こす鉄の群れが、戦意を昂らせ対峙しているからだ。


 ──地球連合艦隊。

 旗艦イアペトスを主軸とした、総数二十五万隻の艦隊。しかし新生ローマの奇襲という不測の事態を前にして混乱を隠せていない。

 だが、黙ってやられる程地球連合は甘くない。百戦錬磨の司令官達の指示を受け、迎撃のための方陣を敷き始めていく。


 ──新生ローマ帝国艦隊。

 旗艦パカトル・オルビスを主軸とした、総数三十万隻の艦隊。奇襲を行った当事者故に、一糸乱れぬ統制を保ちながら、更なる攻勢に打って出るべく、より攻撃的な方陣を敷き出す。


 まさしく決戦と呼ぶに相応しい様相を見せるカッシーニ宙域。ここが砲火と英雄達が飛び交う戦場へと変わるまで、残された時間は僅かである。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「敵艦影捕捉! 新生ローマ帝国第十七機動艦隊旗艦、パカトル・オルビスを確認!」

「レオ級、アクィラ級、ウルスス級を始めとした複数の戦艦及び巡洋艦、アルクビエレ・ドライブ航法で出現! なおも増大中ッ」

「方陣を敷き、迎撃体勢を取れと艦隊司令官から、各艦隊に伝達!」

「旗艦イアペトス、巡航形態(クルーズ・モード)から要塞形態(フォートレス・モード)へ移行すると通達あり!」

「イアペトスより転調型偏極フィールドの展開を確認、及びコードの伝達を確認。全艦周波合わせ」


 第二三四機動艦隊旗艦ヴェリタスブリッジでは、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。

 それもその筈、何せあと三日は接敵しないと聞いていたのだ。まだ準備は整えられていない。


「総員、第一種戦闘配置! 第二三四機動艦隊は艦隊司令からの命により、対新生ローマ帝国第十七機動艦隊の迎撃作戦を開始します!」


 そんな状況の最中、シャルロットは毅然とした態度で命令を下していく。

 

「ブリッジ遮蔽機構作動、CIC(戦闘指揮所)直結を確認。イアペトス及び隣接する各艦隊との通信回線を固定」

 

 隣にいる副官のジムもまた、淡々と業務を行っていく。

 ブリッジの窓が耐衝撃シャッターにより封鎖され、ブリッジ全体が暗闇に包まれる。

 だが次の瞬間、壁や天井から光が灯され、外部の光学映像が投影される。

 それはまるで、ブリッジ全体が宇宙空間に溶け込んだかのような光景。

 各員の座席と、手元のコンソールだけは残滓のごとく残されているものの、それでも宇宙遊泳をしているかのような錯覚を与える。

 これは地球連合艦隊の艦艇に採用されている、全天周囲モニターである。先のような戦闘時、より多くの情報を視界で得られるように開発されたものだ。

 第二三四機動艦隊から離れてみても、多くの場所で同様のことが行われていく。

 僅かな時間で、地球連合艦隊は瞬く間に戦闘態勢を整える。同時、モニターに映し出される無数の光点──英雄機(レギオー)の火が艦隊の前に集結するのが見て取れる。


「アル君とルキウス君は?」

「先日、機体整備のためイアペトスに搬入されています。恐らくそこから出撃するものと」

「そう……」


 その光景を見て、シャルロットはジムに確認を取る。確かに、第二三四機動艦隊では英雄機(レギオー)を運用しているとはいえ、専門的な部隊ではない。

 それを考えれば、彼らがそのようなことをするのは当然のことだ。


「んー、第二三四機動艦隊(うち)ももっと英雄(ウィルロス)を集めた方がいいかしら」

「そこは、上に確認を取らないと……」


 いっそのこと専門の艦でも……、と唸るシャルロットを嗜めるジム。今はそんなことを考えている余裕はないのだ。

 そうして、戦闘態勢を整え終えた地球連合の艦隊は、総司令であるバルダックの命令を待つのであった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 その頃、戦場の主役たる英雄(ウィルロス)達もまた各々の母艦から出撃し、隊列を組み始めていく。

 指揮官機たる英雄機(レギオー)と、それに追随する子機(スレイヴ)の群れ。その総数は八十万機にも及ぶ程。


『すごい数ですねぇ』

『確かに、これは壮観だな』


 アルとルキウスもまた、他の英雄(ウィルロス)同様移動を開始していた。その視界には、無数に蠢く英雄機(レギオー)の光点が煌めいている。


『それにしても、少年。やはり子機(スレイヴ)がないのは不味くないか? やはり(おれ)のをいくつか……』

『いえ、大丈夫です。何とかしてみせますともっ』


 ルキウスの懸念を、アルは朗らかな声で返す。ルキウスの知る限り、《マザーベース》を持たない英雄(ウィルロス)はアルのみである。

 それは即ち、英雄(ウィルロス)という戦争兵器の利点を全く持っていないことを意味している。


『それに、新しい武器は手に入りましたからね』


 そういうアルの英雄機(レギオー)には、先のコンモドゥスとの戦いで破壊された盾に代わり、新たな武装が左腕に装備されていた。

 機体の大きさとは不釣り合いな、無重力空間での運用しか考えられていないとしか思えない大きさの機械の塊に、申し訳程度の防御機構としての盾。

 アルの戦闘スタイルとは大きくかけ離れたそれを見て、ルキウスは尋ねる。


『そうか、うん……そうか。ところで少年……その、それ(・・)は何だ?』

『ヴラド公が言うには、パイルバンカーというそうです。まさか買ってくれるとは思ってませんでしたが』


 杭打ち機(パイルバンカー)の名を聞いて、ルキウスは「……あの御仁ならやりかねんな」と口には出さずとも、そう思った。

 串刺し公が勧めて、そして贈るなら、その手の(敵を串刺しにする)武器以外あり得ないだろう。


『少年、後で他の武器も買おうな』

『?』


 戦闘経験(じょうそうきょういく)的な問題で、あのパイルバンカーはアルには合っていない。その思いを秘め、ルキウスはこの戦いが終わってからのことを決めるのであった。


『アル様アル様、お元気ですか~?』

『あ、アンさん』


 直後、アルとルキウスの通信に割り込みが入る。──ヴァンダル・カンパニー所属英雄(ウィルロス)のアン・ボニーだ。


『お二方は今どちらに? 私とメアリーは最左翼への配置を命じられてしまいました~……』

『奇遇だな、我々も左翼への配置を命じられている』

『そうですね、僕たちでチームを組めば戦線の維持も出来そうですね』


 アルとルキウスは、共に他の英雄(ウィルロス)と組んでの戦闘経験は少ない。それに、地球連合所属の英雄(ウィルロス)とは余り会話も出来ていない。

 それなら、外部勢力とはいえ対面したことのある二人なら問題は少ないという判断だ。

 その提案に、アンは『喜んで~♪』と返す。同時、アルはアンに一つの疑問を投げ掛ける。


『ところで、メアリーさんは?』


 それはメアリーの所在だ。常に二人で行動しているのに、今通信で繋がっているのはアンだけ。その事に疑念を抱いたのだが、アンは淡々と返す。


『メアリーなら、今無線封鎖しての単独威力偵察をやってますわ』

『威力偵察?』


 アンの回答を理解できなかったルキウスに、アルは説明を開始する。

 威力偵察──わざと敵陣前に姿を現し、攻撃を加える。それに対する反撃から、敵の配置や戦力などを量る偵察である。

 そんな説明をしながら、アルは確かにと頷く。メアリーが助けに来たときの英雄機(レギオー)を思い出せば、その異形とその機能は良くわかる。

 四本の腕がそれぞれ持つカットラスにハンドガン、足の代わりに大推力のスラスターが三機。正に突撃のための機体だ。


『でも、大丈夫ですかね……?』

『そのための(ヴァンダル)(・カンパニー)ですわぁ。金さえ払えば危険な仕事、汚れ役……何でもそつなくこなしますとも』


 自信満々に返すアンだが、アルの不安は拭いきれない。しかしルキウスも続ける。


『問題なかろうとも、あの御仁は相当な強者。何のこともなく帰って、少年にハグでもするだろうさ』

『まあそれなら、ハグくらいなら許しますが……』

『メアリーメアリー、今ならおねショタ界隈垂涎もののシチュが出来ますわよ。あ、通信封鎖中でしたわ……』


 三人のやり取りが続くなか、ようやくアルとルキウスは命じられた配置にたどり着く。

 同時、ルキウスの指示の下子機(スレイヴ)達が方陣を敷き戦闘態勢を維持する。少なくとも、初撃撃破という滑稽な末路は避けられる。


『……ふぅ』


 アルは深呼吸する。正確には、そのふりだ。英雄機(レギオー)には肺なんて機能は有していない。

 でも、それをしなければ緊張はほぐれないと思った。何せ生涯初の大規模会戦だ。どんな結果になるかは予想すら出来ない。

 だがそれももう終わり。覚悟を決めたアルだったが、その直後──怒声が如き通信が三人に入る。


『アン! 今どこッ!?』

『あらメアリー、どうしましたのそんなに慌てて。我々は今左翼側に配置していますわ』

『我々……? ああそうか、アル君とルキウスもいるんだね。良かった……』


 差し迫った様子のメアリーに声も出せないアルだったが、代わりにと言わんばかりにルキウスが冷静に質す。


『何があった、メアリー殿』

『あいつが、コンモドゥスが(・・・・・・・)居ないッ(・・・・)


 メアリーの返答と、旗艦イアペトスからの攻撃命令と、アル達から見て右側──右翼で爆発の光点が起きたのは、同時であった。






『ローマ全軍、攻撃開始』





 

 

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