第16話 激突、ルキウスvsコンモドゥス
──ウォルプタス星系外縁部
ヘリオガバルス帝が支配する星系、その外縁部では既に大規模な戦闘が開始されていた。
数十を上回る艦艇が砲火を交え、その隙間を縫うように戦闘機が疾駆する。だが決して、彼らはこの戦場の主役にはなれない。
『『ウオオオオォォォォォォォォッッッ!!!!』』
何故なら、この戦場の主役は二機の英雄機。
苔緑と帝紫に彩られた傑物が激しい咆哮と共に激突し、戦場を暴力的に支配していた。
『初めましてだなぁ、コンモドゥス!!』
『そしてサヨなラだ、ルキウス』
帝紫の大鷲、ルキウス。
苔緑の獅子、コンモドゥス。
互いにローマ皇帝を名乗りながら、しかし貴様は断じて認めんと言わんばかりに極限の武威を以て敵手を喰らわんと猛っていた。
激しく迸るスラスターが縦横無尽に戦域を駆け巡り、周囲を巻き込みながら戦闘を続行していく。
現に今も、運悪く二人の怪物に近付かれた新生ローマ帝国の駆逐艦が攻防に巻き込まれ、宇宙の藻屑と化していく。
『噂には聞いていたが、よもやここまでとはな。流石は剣闘皇帝と讃えるべきか?』
『貴様ノ賛辞なゾいらン』
解体される駆逐艦から吹き荒れる爆炎を、手にした大剣で難なく切り裂き突撃するルキウス。
対するコンモドゥスも、手にした大型の両手鎚で以て迎撃する。ぶつかる鋼と鋼、真空に轟く無音の断末魔が二機の戦いを彩っていく。
『見事な鎚だ。曰く、コンモドゥスは神話においてヘラクレスが用いたとされる棍棒を模したメイスを持ち、それを振るい剣闘試合を勝ち続けたというが……』
ルキウスは戦いの最中に言葉を紡ぐ。それは彼の趣味であると同時に、敵の気勢を削ぐ目的があった。故に撃剣の皇帝は大剣と弁舌を振るい続ける。
『なるほど大した武器だ、よもや英雄機になっても己をヘラクレスと思っているのか?』
『貴様ノ知っタことではナい』
──ルキウスの策が功を奏したのか、苛立ちを隠せないコンモドゥス。
その煩い口を黙らせると言わんばかりに、鎚を大きく振りかぶり──そして搭載された機構を解放する。
獅子を模した鎚頭、その鬣部分に隠されたブースターが唸りを上げてルキウスの英雄機を撃ち据える。
叩き込まれる怒涛の九連撃。その速度たるや、無双の経験値を誇るルキウスですら回避はおろか防御も叶わない程。
瞬く間に破砕される英雄機の装甲。だがその程度で止まる程、英雄は脆弱ではない。
『では、一旦さよならといこう』
左半身が完全に砕かれ、右も辛うじて残るルキウスの英雄機。だがそれは反撃と言わんばかりにコンモドゥスの英雄機に接近し──自爆する。
機体内部のエネルギー炉、恒星機関の暴走が引き起こした爆発は、正に超新星爆発を思わせる大火球を作り上げた。
断末魔をあげる暇も無く、灼熱の奔流に消し飛ばされるコンモドゥス。大火球が消え失せた後には、鋼の欠片すら無い虚無のみが広がって──それを切り裂く二条の流星が現れる。
『第二ラウンドといこうかぁ!!! コンモドゥスッ』
『そのふざケた口、二度と開かなクさせテやルッ!!』
帝紫と苔緑の流星──ルキウスとコンモドゥスが先程までと全く変わらず姿で、しかし先の死闘で得た経験値を己の血肉と変え、天地に誇る武威を十全に振るい始める。
二人の英雄の怒声と咆哮は、戦場の混迷を更に加速させていくこととなる。
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「現在、転調型偏極フィールド損耗率二十七%を突破!」
「艦下方より複数の艦艇の接近を確認ッ、ケントゥリア級巡洋艦アクィレイア、パノニア、ブルディガラです!!」
「恒星機関最大出力! ヴェリタスのエネルギーをフィールド維持に充ててっ。それとイグニスに伝達ッ、艦首姿勢反転させ主砲一斉射ッ!!」
「オータムヌス及びヒエムスはミサイル弾幕を展開、敵艦載機を近付けさせるな。ステラワイバーン隊には対宙防衛最優先と伝えろ」
ルキウスがコンモドゥスと激闘を繰り広げる中、第二三四機動艦隊旗艦ヴェリタスの艦橋でも激闘が巻き起こっていた。
次から次へと送られてくる情報を精査し、それに応じシャルロットとジムは的確に指示を出していく。しかしそれも限界が近付いていた。
「ああっ、もう! 戦力の逐次投入とかいう愚策でここまで追い詰められるなんてっ」
「戦力、情報……その全てを向こう側が我々を上回っていますからね」
イグニスの主砲一斉射により撃沈されたパノニアの爆発光に眉をひそめるシャルロットは、苛立ちを隠さずに舌打ちする。
副官であるジムも表情は普段通り顔色一つ変わっていないものの、焦りは禁じ得ない。
現状、第二三四機動艦隊は四方八方から新生ローマ帝国艦隊の攻撃を受けていた。複数艦隊の波状攻撃、それは的確に、そして確実に第二三四機動艦隊の力を削ぎ落としていた。
辛うじて拮抗しているのも、つい先日地球連合に参陣してくれたルキウスがコンモドゥスを抑え込んでいるから。彼がいなければ、まず間違いなく壊滅していたことだろう。
「それで、どうしますか艦長。このまま耐えますか?」
「無理に決まってるでしょう? 情報も地の利も、全部向こうがこっち上回ってるんだもの。逃げるに限るわ」
今後の方針を決めるものの、それは困難を極めるものだった。この場から逃げるために必要な要素、それはコンモドゥスの足を止めることにある。
そしてその手法を取るのに必要なものは──。
『囮なら喜んで引き受けよう。《マザーベース》さえ健在なら、己はいくらでも復活できる』
「それしかない、わよねぇ……」
コンモドゥスと激闘を繰り広げながら、通信を行うルキウス。しかしその声に余裕は皆無だった。
そしてこれ幸いと言わんばかりに、ジムはルキウスに尋ねる。
「ルキウスさん、敵艦隊の攻撃能力か足を奪ってもらいたい。可能ですか?」
『ふむ……難しい質問だな。流石に子機のみでは艦隊の迎撃網を潜り抜けるのは至難の技、少年がいてさえくれれば』
子機は本体の戦闘経験を反映させたAIを搭載した英雄機。その為、強さだけは問題ないが突発的な判断能力に欠けているという欠点がある。
これ程の練度を誇る艦隊だ、子機如き容易く撃墜してくるだろう。
「……全艦に通達。敵艦隊を減らすことを最優先とし、その後離脱を──」
「艦長ッ!! ヴェリタスに圧縮データ通信が入りました!」
「ッ、こんな時に? 一体どこの誰が……」
『すみません遅れましたっ!!』
「えっ、あ、アル君っ!?」
新たな指示を出そうとした瞬間、通信士からの悲鳴じみた報告。
それに怒りを露にしようとしたシャルロットだが、常日頃聞いているアルの声が響き驚きを隠せなかった。
「えっ、身体はどうしたの!?」
『ウォルプタスIVに置いてきました。落ち着いたら返すと約束してきたので』
「……ひぃん」
もし返ってこなかったらどうしよう、そんなことを考え小さな悲鳴を上げるシャルロットを尻目に、ヴェリタス艦橋内は慌ただしくなっていく。
「アル君、詳しい事情は後回しだ。すぐに英雄機で出撃して欲しい」
『すまん少年、正直なところ猫の手も借りたいのでな』
ジムとルキウスからの要請に応じ、アルは間髪入れずに答える。
『了解! アル・ネムホワイト、出撃します!!』




