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英雄戦機ウィルロス・ゼロ  作者: サカバンバスピスなハヤさん
14/30

第14話 作戦開始

 ────ヘリオガバルスとカエサルの密談の十二時間前

 

「緊急事態よ」

 

 第二三四機動艦隊旗艦ヴェリタス内のミーティングルームに集まった艦長と副官達を前にして、シャルロット・ホワイトの表情は蒼ざめた面持ちでいた。

 

「先程、地球連合の秘匿通信にメッセージがありました。送り主は、新生ローマ帝国皇帝の一人……ヘリオガバルスです」

「なるほど、そりゃ最悪だ」


 シャルロットの副官であるジムの説明を聞き、戦艦イグニス艦長のズィガルは自身の禿頭を撫でる。

 本来、秘匿通信とは特定のコードが無ければ送受信が出来ない。それも地球連合の上層部しか知り得ないものだ。

 それを敵国の皇帝が使っている。軍としてみたら、状況は最悪と言える。


「本部には?」

「既に連絡済みよアズボルト、尤も向こうも向こうでてんやわんやでしょうけど」


 巡洋艦オータムヌス艦長のアズボルトからの質問に、シャルロットはため息混じりで返す。少なくとも、書き換えにはそれなりに時間がかかるだろう。何せ機密情報の漏洩だ、書き換えたところでまた流れ出たら意味がない。


「《そちらの漏洩問題は上層部に任せるとして……ヘリオガバルスからは何と?》」


 シャルロットへ新たに問いかけてきたのは、巡洋艦ヒエムスの副官シィラだ。

 彼女の上官であり忠誠を誓っているラナ・ラナンキュラスはこういう頭を使う事柄では役に立ちづらい(ポンコツ)ので、彼女がヒエムスの頭脳として働いている。


「それが問題なのよねぇ」


 シャルロットはコンソールを操作し、送られてきたメッセージを再生する。二分にも満たないその内容を把握したラナを除いた面々の表情は苦々しい。

 何せその内容は『カエサルを殺すから手伝え』というものだからだ。まず正気を疑うのが当然だ。


「うぅーん、でもカエサルって新生ローマの皇帝サンで、地球連合と戦争してるんだよね? じゃあ協力出来ないのかな?」

「《その通りですが、カエサルを仮に殺せたとしても新生ローマ帝国は滅びません。他の皇帝が主導権を握りだすでしょうね》」

「更に最悪なのが内紛ですね……ローマが複数に別たれれば、この宇宙は更に混沌となるのが予測されます」


 シィラとリリアナ・シャーウッドの予測は、ある意味確定している未来と言えなくもなかった。

 新生ローマ帝国は複数のローマ皇帝による連合体。それを束ねているのがカエサルだが、それも彼個人のカリスマによるものではない。

 圧倒的な武力とかつての戦功、それこそが他の皇帝の跳梁を阻んでいる。ガリア最大にして人類史最大の英雄の威光は、反乱を起こす兆しさえ許さない。

 だからこそ、今この場でカエサルを討てば始まるのは大規模な戦乱だ。ローマは自分こそが新たな皇帝になるべく乱立し、その混乱に乗じて他勢力も動き出すだろう。


「だからこそ、この件は慎重にならないといけないわ」

「そりゃそうだが、カエサルの野郎を倒せればローマは弱体化出来る。ローマを厭ってるのは地球連合(おれたち)以外にもいるだろう?」


 ズィガルの考えに同意するアズボルトとリリアナの兄妹に、シャルロットは彼らに内心同意する。

 取り分けローマは勢力圏が広く、それ故に敵もまた多い。ログレス統治機構圏や啓蒙連邦といった、明確に反ローマを掲げている勢力との暗黙の共闘も、カエサル撃破後には可能となるだろう。

 だが──。

 いやいや──。

 多くの意見や、それに対する反論が積み重なっていき、少々室内が騒がしくなる。それが静まるまでに、一時間程が必要であった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「《やはり、話は聞いておくべきでしょう》」

「話を聞き、その上でどうするかを上層部に仰ぐべきかと」

「……それなら、どっちに転んでもローマは多少弱くなる、か」


 幾ばくかのやり取りを経て、最終的に至った結論は《対話を行う》であった。

 だが同時に、それはヘリオガバルスに対する致命の刃になり得る。彼の皇帝が提示してきた計画に不備があれば、それをカエサルに横流しすれば良い。

 それだけで、ヘリオガバルスは間も無く銀河の片隅から消滅するだろう。

 ヘリオガバルスの協力者もいれば良い、その数が多いに越したことはないのだ。地球連合の敵が少なくなることに違いはない。


「となってくると……はぁ、嫌になるわね」


 作戦は決まった。後は実行者なのだが……シャルロットの脳裏にいる、この作戦に最適な人物を思い浮かべ、ため息を吐くのだった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「潜入任務ですか? 良いですよじゃあ行ってきますね」

「待って待って待って」


 会議が終了し、シャルロットは一人ヴェリタスの格納庫(ハンガー)に立ち寄って、先の作戦の最適任な人物──アル・ネムホワイトとやり取りをしていた。


「何ですか……任務ですよね?」

「任務は任務だけど、ほらっ、何かこう……あるでしょっ!?」

「いや、僕英雄(ウィルロス)なんで……」


 英雄(ウィルロス)自体マザーベースさえ健在であれば何をされようが情報そのものは持ち帰れる。

 アルも英雄(ウィルロス)の特性として、ヴェリタスと目的地にネットワークが微かでも繋がっていれば、問題なく行き来出来てしまう。


「それにこの前服部さんから、潜入特化の英雄(ウィルロス)もいるって聞きました。僕の元になっている地球の英雄も、もしかしたらそうかもしれませんし」

「多分彼の言ってるのはエンタメの類いだから、お姉ちゃんは信じてほしくないなぁって」


 ぐぬぅ、と顔をしかめるアル。そんな少年の頭をシャルロットは両の手で撫でる。


「良い? これは任務だけど、敵地に向かうのも同じなの。嫌なら断っても──」

「大丈夫です。必ず戻ってきますから」


 アルのその言葉を聞いて、シャルロットは小さく溜め息を吐く。目の前の少年もまた、よく知る英雄(ウィルロス)達なのだとまざまざと見せつけられているから。

 そして、そんな二人の背後から堂々と語りかける声があった。


「何、安心してくれ二人とも。少年の不在の間は、この(おれ)……ルキウス・ティベリウスがこの艦を全霊で守り抜くと誓おう」


 そこに居たのはルキウスだった。既にシャルロットの手により、地球連合所属の英雄(ウィルロス)として登録された為か、艦内を練り歩いていたようだ。


「主君の留守を守るも臣下の務め、だからな!」

「今すぐやめれません? 対等がいいです対等が」

「イケメンを侍らせるショタも中々良いわよね」


 いつの間にか仲良くなっているシャルロットとルキウスに怒りを隠せないアルだったが、それもすぐに静まる。

 今回の作戦に、人間はあまり役立たないのは事実。こと潜入において、英雄(ウィルロス)ほど使える道具(・・・・・)は存在しない。

 よってそこに異論はない。仲間のために命を張るこそこそ、英雄の本懐だと知っている。


「──それじゃ、行ってきます」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ──そうして、アルはたった一人で死地に潜り込むこととなる。

 相手は空前絶後の悪徳皇帝。淫蕩もたらす欲望の皇帝、ヘリオガバルス。だがそれは明確に、かつて大国を統べた王者そのもの。それを前にして、アルは一歩も引く気はない。

 ここに、たった二人の小さな戦争が幕開ける。


「それじゃ、始めよっか。アル・ネムホワイト君」


 

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