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姉はVtuber  作者: からし
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第六話 欠けている部分

USBの音声は、何度聞いても同じところで終わっていた。

姉の声。

途切れる言葉。

重なる、男の声。


内容は分からないのに、

それが誰のものかだけは、はっきり分かってしまう。


私は、その事実を誰にも言えずにいた。


事務所には言えない。

親にも、親友にも。

言った瞬間、この音声は「処理」される気がした。


翌日、事務所から呼び出しがあった。

理由は、「企画の打ち合わせ」。


会議室には、社長とマネージャー、法務の人間が揃っていた。

全員、穏やかな顔をしている。


「最近、配信の反応がとてもいい」


社長は、モニターに数字を映した。

再生数、登録者数、切り抜きの拡散速度。

どれも、姉が生きていた頃以上だった。


「“乗り越えた感”が伝わっている」

「ファンは、物語を求めています」


その言い方に、背中が冷えた。


「……姉のことを、どこまで話すつもりですか」


私がそう聞くと、社長は少しだけ目を細めた。


「必要なところまで」

「真実を曲げるつもりはありません」


必要な真実。

その線引きを、誰が決めるのだろう。


打ち合わせの途中、マネージャーが言った。


「警察から、形式的な確認が来ています」

「事故として処理されていますが、一応」


一応。

その言葉に、少しだけ救われた気がした。

まだ、確定していない。


その日の帰り、同期から連絡が来た。


《ねえ》

《あの子、亡くなる前に変な相談してきたの、覚えてる?》


覚えていない。

少なくとも、私は聞いていない。


《「もし私がいなくなったら、配信どうなる?」って》

《冗談っぽかったけど、今思うと……》


冗談。

みんな、そう言う。

冗談にしてしまえば、深く考えなくて済むから。


夜、後輩からもメッセージが届いた。


《私、あの日……》

《お家の近くまで行ってました》


心臓が跳ねる。


《連絡が返ってこなくて》

《心配で》


続く言葉は、しばらく来なかった。


《でも、会ってません》

《会えなかったんです》


“会えなかった”。

それは、本当だろうか。

それとも、言えないだけなのか。


さらに、親友から電話があった。


「USB、見た?」


なぜ、知っている。


「……どうして」


「私が入れたから」

「でも、中身が削られてる」


削られている。

その言葉が、重く落ちた。


「本当は、もう少し入ってた」

「姉の部屋で、録音してたみたい」


「誰かが来た、って?」


「うん」

「でも、誰かまでは分からない」


電話の向こうで、親友は小さく息を吸った。


「ねえ」

「事務所、信用してる?」


答えられなかった。


通話を切ったあと、私は改めて考えた。


・親は、姉の契約内容を詳しく知りすぎている

・同期は、事前に“もしも”を示唆されていた

・後輩は、現場近くにいた

・先輩は、“物語”という言葉を使った

・事務所は、準備が早すぎる


全員が、何かを知っている。

でも、誰も最後まで話さない。


そして、その中心に、

いつも社長がいる。


——それでも、証拠はない。


決定的なものは、一つもない。


その夜、配信前の待機画面を眺めながら、

私は初めて、ある恐怖に気づいた。


もし、真実が明らかにならなくても。

もし、誰も裁かれなくても。


この配信は、続く。


姉の声で。

姉の名前で。

“感動の物語”として。


カウントダウンが始まる。


その数字を見ながら、私は思った。


——この中で、一番嘘をついているのは、誰だろう。


それとも、

嘘そのものが、求められているのだろうか。


画面が切り替わる。


「こんばんは」


私は、笑った。

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