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姉はVtuber  作者: からし
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エピローグ的外伝:無名の誰かの視点 「分解していく輪」

あの件のあと、ファンコミュニティは、音を立てずに分解していった。

炎上みたいな派手さはない。

罵声も、晒しも、思ったより少なかった。


代わりに起きたのは、静かな選別だった。


残る人。

離れる人。

残っているふりをして、少しずつ距離を取る人。


そのどれもが、正しくて、間違っていない。


最初に目立ったのは、「守りたい人」たちだった。

彼らは、強く、はっきりしている。


「これ以上、掘り返すのは違う」

「妹さんを守ろう」

「前を向くべき」


その言葉には、優しさがある。

同時に、疲労もある。

もう傷つきたくない、という本音。


私は、その人たちを責められなかった。

守りたい、という感情は、誰かを傷つけるために生まれるものじゃない。


でも、守るために黙らせることがある。

意図せず、そうなる。


次に見え始めたのは、「暴きたい人」たちだった。

彼らは怒っていた。

怒りの方向は、日によって変わる。


事務所。

業界。

無名の誰か。

ときどき、妹。


怒りは、正義の形をしている。

正義は、仲間を作る。


でも、正義が強くなりすぎると、

そこから零れ落ちる人が出る。


私は、そのどちらにも完全には属せなかった。


守りたいほど近くもない。

暴きたいほど強くもない。


だから、三つ目の層にいた。

疲れて去る人たちだ。


この層は、声を上げない。

宣言もしない。

ただ、見なくなる。


タイムラインから外す。

チャンネル登録を外す。

おすすめに出てきても、スワイプする。


それは、裏切りじゃない。

自己防衛だ。


誰かの痛みを消費し続けることに、

耐えられなくなった人たち。


私も、その一人だった。


数ヶ月後、切り抜き動画の雰囲気が変わった。

初期は、笑える場面。

何気ない失敗。

未完成な魅力。


それが、いつの間にか

「最後の〇〇」

「今だから分かる言葉」

「伏線だった発言」


——完成させに来ている。


私は、そのタイトルを見るだけで、胸が重くなった。


追悼は、いつからか、

編集の技術になっていた。


感動する場面だけを切り取り、

音楽を乗せ、

涙の方向を指定する。


それを見て、泣く人がいる。

救われる人も、いるかもしれない。


でも、同時に、

彼女の拒否は、また一枚、削られる。


完成形に近づくたび、

未完成だった部分が消えていく。


私は、再生ボタンを押さなくなった。


押さないことは、無関心じゃない。

押さないことも、態度だ。


妹が活動を降りたあと、

界隈は一瞬、静かになった。


それまで、続いていた「前向き」の物語が、

ふっと、宙に浮いた。


「これから」を語る人が、いなくなったからだ。


その静けさの中で、

ようやく、別の声が聞こえ始めた。


「正直、ずっと違和感があった」

「応援してたけど、つらかった」

「好きだったから、離れた」


小さな声。

責めない声。

結論を出さない声。


私は、その声たちに救われた。


ああ、

私だけじゃなかった。


みんな、分かったふりをして、

分からないまま、耐えていた。


ある日、匿名の投稿で、こんな言葉を見た。


「忘れたいわけじゃない。

 でも、完成させたくない」


その一文を読んだ瞬間、

私は、しばらく画面を見つめた。


それは、

彼女が言っていた拒否と、

同じ形をしていた。


拒否は、感染する。

怒りじゃなく、理解として。


それは、広がらない。

バズらない。

でも、確実に、誰かの中に残る。


私は、その日の夜、久しぶりに配信を開いた。

生配信じゃない。

誰かの雑談枠。


内容は、どうでもいい話だった。

天気とか、食べ物とか。


でも、そこには、

「何も背負っていない声」があった。


私は、少しだけ安心した。


物語にならなくても、

声は存在できる。


その当たり前を、

私たちは、いつの間にか忘れていた。


私は、もうファンと名乗らない。

でも、視聴者でも、もう少し違う。


私は、

見てしまった人間だ。


見てしまった以上、

知らなかった頃には戻れない。


でも、見てしまったからこそ、

選べることもある。


何を再生しないか。

何を語らないか。

何を完成させないか。


それは、

小さくて、意味がないように見える。


でも、意味がないからこそ、

消費されない。


私は、今日も、

タイムラインの端っこに座っている。


大きな声を出さず、

誰かを叩かず、

ただ、覚えている。


未完成のまま、置かれた拒否を。

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