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外伝Ⅱ 姉の視点
私は、
消えてもよかった。
少なくとも、
物語になるくらいなら。
“惜しまれる存在”
“語り継がれる人”
そんな言葉は、
全部、怖かった。
生きている時の私は、
不完全だった。
迷って、
悩んで、
笑って、
時々、逃げて。
それでいいはずなのに、
死んだ瞬間、
完成品にされる。
それが、
耐えられなかった。
「残るよ」
そう言われた時、
私は、
初めて恐怖を感じた。
——私の意思は、
——どこに行く?
残すなら、
自分で残す。
だから、
声を録った。
誰かを告発するためじゃない。
裁くためでもない。
ただ、
“選ばなかった”という事実だけを
残したかった。
妹が引き継ぐと聞いた時、
正直、
申し訳なかった。
でも、
彼女なら、
物語を壊せると思った。
私より、
ずっと、
優しいから。
もし、
私が残した声を
彼女が聞いたなら。
それだけで、
十分だった。
私は、
物語にならなくていい。
忘れられてもいい。
でも、
利用されるのだけは、
違う。
それだけ。




