表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉はVtuber  作者: からし
4/24

第四話 違和感の名前

二回目の配信は、予定よりも早く組まれた。

「流れがいいから」と、事務所は言った。

理由としては、十分すぎるほど十分だった。


私はもう、驚かなくなっていた。

驚く前に、体が受け入れてしまう。


配信前、控室に同期のVtuberが訪ねてきた。

画面越しでは何度も見た顔。

現実で会うのは、姉の葬儀以来だった。


「……久しぶり」


その一言に、少しだけ間が空いた。

私が、姉ではないから。

でも、彼女はすぐに笑った。


「声、全然変わらないね」

「安心した」


安心。

その言葉が、胸に引っかかる。


彼女は椅子に腰掛け、私をじっと見た。


「ねえ」

「最近、変なことなかった?」


変なこと。

頭に浮かんだのは、あのDMだった。

知らない記憶。

聞こえる声。


「特には」


そう答えると、彼女は少し残念そうに視線を逸らした。


「そっか。ならいいや」


——本当は、何を聞きたかったんだろう。


配信が始まると、コメントの勢いは前回以上だった。

姉が“休んでいた理由”を聞く声も増えている。


《最近どうしてたの?》

《元気なかったって本当?》


私は、用意された答えを口にした。


「ちょっと、休みたくなって」


それは、嘘じゃない。

誰が休みたかったのかは、分からないけれど。


配信後、今度は後輩がメッセージを送ってきた。


《今日の配信、最高でした》

《でも……》


続く言葉が、なかなか送られてこない。


《前より、遠くなった気がします》


距離の話をしているのに、

まるで、生きているかどうかを確かめられているみたいだった。


その日の夜、親友と会った。

姉がよく通っていたカフェ。

席に着くなり、彼女は低い声で言った。


「ねえ」

「あなた、何か隠してるでしょ」


私は、答えなかった。

答えられなかった。


「……あの子、死ぬ前に言ってた」

「“私、消されるかもしれない”って」


心臓が、大きく鳴った。


「誰に?」

「分からない。でも、事務所の話をしたあとだった」


事務所。

その言葉だけで、空気が重くなる。


「だから、代役の話を聞いた時、嫌な予感がした」

「美談にする気だって」


美談。

社長がよく使う言葉だった。


別れ際、親友は私の手を掴んだ。


「ねえ、あれは本当に事故なの?」

「……あなたは、何か覚えてない?」


覚えていないことが、いくつもある。

でも、それを口にする勇気はなかった。


帰宅すると、家の前に知らない人影があった。

フードを深く被った男。

私に気づくと、慌てて背を向ける。


「待って」


声をかけると、男は一瞬だけ振り返った。


「……応援してます」


それだけ言って、逃げるように去っていった。

ファンだろう。

でも、視線が近すぎた。


家に入ると、ポストに小さな封筒が入っていた。

差出人不明。

中には、USBメモリが一つ。


ラベルには、手書きの文字。


——「最後の夜」


私は、それを机の上に置いたまま、しばらく動けなかった。


誰が入れたのか。

何が入っているのか。


そして、

それを見てしまったら、

もう戻れない気がして。


スマートフォンが鳴る。

社長からのメッセージだった。


《次の企画、少し“物語性”を強めたい》


その一文を見て、

私はようやく理解した。


この出来事は、

誰かにとって

**最初から“使う前提の出来事”だったのかもしれない。


机の上のUSBが、

静かに光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ