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外伝Ⅰ 社長の視点
最初から、殺すつもりなんてなかった。
それは、本心だ。
“失われる可能性”を、
どう扱うかを考えただけだった。
この業界では、
消えることの方が残酷だ。
何も語られず、
何も回収されず、
ただ忘れられる。
それだけは、
避けたかった。
「もしもの時は」
そう切り出した会議で、
誰も止めなかった。
誰も「それは違う」と言わなかった。
だから、
正しいと思った。
数字が動く。
注目が集まる。
記憶に残る。
それが、
“残す”ということだと。
彼女が拒んだ時、
正直、理解できなかった。
なぜ、
残ることを拒むのか。
なぜ、
価値になることを拒むのか。
——制御できないからか。
そう結論づけた。
だから、
制御できる形を選んだ。
妹は、
優秀だった。
空気を読む。
言葉を選ぶ。
彼女なら、
完成させられる。
そう思った。
だが、
物語は、
完成した瞬間から
崩れていった。
“話題性”という言葉が
外に出た時、
初めて理解した。
価値を計算した瞬間、
人は、人でなくなる。
私は、
判断を誤った。
だが、
あの時点では、
それが“最善”だと
信じていた。
それが、
一番、重い罪だ。




