第三十八話 残ったもの
季節が、一つ過ぎた。
街は、
何事もなかったように動いている。
ニュースは、
次の話題を追いかけ、
あの騒動を
わざわざ掘り返すことはない。
それでいい、と
私は思っていた。
机の引き出しに、
あのノートは入っている。
もう、
開くことはほとんどない。
書いた事実は、
外に出た。
残るべき形で、
必要な場所に。
それ以上、
私が抱えている理由はなかった。
ある日、
親友からメッセージが来た。
《こっち、落ち着いた》
《そろそろ帰る》
短い文。
それだけで、
十分だった。
別の日、
匿名のアカウントから、
最後の通知が届いた。
《記録、保管完了》
《これ以上、増えない》
それで、
すべてが終わった。
姉の名前は、
公式には、
多くを語られないままだ。
でも、
語られなかったこと自体が、
彼女を守っている。
“話題性”という言葉は、
あれ以来、
業界の中で
少しだけ扱いづらくなった。
会議で使えば、
誰かが、
一瞬、言葉を選ぶ。
それでいい。
大きな革命じゃない。
でも、
小さな歪みは、
確実に残った。
ある夜、
私は、姉の古い配信を
久しぶりに見返した。
楽しそうに笑って、
視聴者と話している。
“残ろう”としていない姉。
ただ、
生きている姉。
それが、
一番、救いだった。
私は、
画面を閉じた。
もう、
続きを探さなくていい。
引き継いだ役割は、
降りた。
でも、
姉との関係まで
終わったわけじゃない。
彼女は、
物語にならなかった。
だから、
記録として残った。
そして、
私は、
誰の物語にもならない。
それが、
最後に選んだ答えだった。
窓の外で、
朝の光が差し込む。
新しい一日が、
静かに始まっている。
——選べない時は、
選ばされている。
でも、
今は、
選べる。
私は、
ゆっくりと立ち上がり、
自分の名前を呼んだ。
もう、
それだけでいい。
読んで頂きありがとうございます。
本編はここで終了です。
まだまだ続きますが外伝?後日談?として投稿予定です。
読んでくれたらうれしいですね(・_・。 )




