表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉はVtuber  作者: からし
25/55

第二十五話 防御

最初に変わったのは、言葉だった。


事務所の公式文書から、

「感動」「絆」「支え合い」といった

柔らかい言葉が減り、

代わりに

「事実」「確認」「法的」という

硬い単語が増え始めた。


それは、

攻めている側の語彙じゃない。

守る側の語彙だ。


《一部で事実と異なる憶測が広がっています》

《当社は、関係各所と連携し、適切に対応します》


適切。

曖昧で、強い言葉。


修復配信以降、

私は表に出ていなかった。

SNSも更新されない。

配信もない。


“守られている”状態。

同時に、

“隔離されている”状態。


それでも、

外の動きは、止まらなかった。


海外フォーラムのスレッドが、

静かに伸び続けている。

怒号も、断定もない。


ただ、

同じ質問が、何度も繰り返される。


——なぜ、死亡の説明がないのか。

——なぜ、代役の話が早すぎたのか。

——なぜ、関係者が沈黙しているのか。


答えが出ないから、

消えない。


昼過ぎ、

社長から直接、連絡が来た。


《少し、認識を共有したい》


共有。

それは、

修正の前触れだ。


会議室には、

社長と、法務担当がいた。

マネージャーはいない。


役割が、

はっきりしている。


「現在、当社は」

法務が口を開く。


「悪意ある拡散への対処を検討しています」


悪意。

その定義は、

誰が決めるのか。


「具体的には」

「名誉毀損、業務妨害」


私は、黙って聞いていた。


社長が、私を見る。


「あなたを、守るためでもあります」


また、その言葉。


「あなたが、余計な負担を背負わないように」


余計。

何が、余計なのか。


「だから」

社長は、静かに続けた。


「これ以上、外部の動きに反応しないでください」


反応しない。

つまり、

存在を無視する。


「“空白”は、時間が経てば意味を失います」


その確信に、

私は小さく首を傾げた。


「……失いますか」


社長の視線が、

一瞬だけ、鋭くなった。


「失います」


断定。


「人は、答えがない問いに」

「長く付き合えない」


それは、

これまでの“話題性づくり”と、

同じ論理だった。


感情を動かし、

消費させる。


消費できない問いは、

飽きられる。


「だから」

「ここで、守り切る」


私は、

一つだけ、質問した。


「姉の死について」

「いつか、言葉にする予定は?」


法務が、

一瞬、社長を見る。


社長は、

すぐに答えなかった。


その沈黙が、

答えだった。


「必要になれば」


必要。

それもまた、

誰が決めるのか。


会議は、

それで終わった。


帰り際、

社長が、低い声で言った。


「あなたは」

「ここまで、よくやっています」


評価。

でも、

そこに、

感謝はなかった。


夜、

【下書き】アプリが震える。


《防御、入った》

《想定より早い》


親友からも、

短いメッセージ。


《“空白”》

《効いてる》


私は、

ノートを開いた。


新しいページに、

一行だけ書く。


——防御に回った瞬間、物語は弱くなる。


それは、

姉が気づいていたことだ。


人は、

語られない死より、

隠された死に、

目を向ける。


その夜、

私は一つ、決めた。


次は、

言葉を足さない。


減らす。


公式が使わない言葉を、

使わないままにする。


“死亡”

“事故”

“原因”


それらを、

最後まで語らせない。


語られないこと自体を、

最大の証拠にする。


準備は、

もう整っている。


残された記録。

沈黙した人。

揃った問い。


次は、

世間が、自分で気づく段階。


——そして、

気づいた時、

もう戻れない。


私は、

部屋の灯りを落とした。


防御は、

弱さの証だ。


それを、

相手は、

まだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ