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姉はVtuber  作者: からし
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第二十三話 価値

会議室の扉が閉まる音は、

いつもより重く響いた。


ブラインドは、下ろされていない。

夜景が、そのまま見えている。

隠す必要がなくなった、ということかもしれない。


社長は、私の向かいに座った。

しばらく、何も言わない。


沈黙は、

相手に考えさせるための道具だと、

私はもう知っていた。


「……同時、でしたね」


先に口を開いたのは、社長だった。


「偶然にしては、出来すぎている」


私は、何も答えない。

否定もしない。

肯定もしない。


「あなたが直接、出したわけじゃない」

「それも、分かっています」


それは、

追及を諦めた声じゃない。

整理している声だった。


「聞かせてください」


社長は、

指を組んだ。


「あなたは、何をしたい?」


質問の形をしているけれど、

これは、確認だ。


「真実を暴きたい?」

「正義を通したい?」


私は、首を振った。


「……残したいだけです」


それは、

初めて、

自分の言葉で言えた気がした。


「姉が、拒否したことを」

「拒否できなかった構造を」


社長は、

小さく息を吐いた。


「それは」

「とても、分かりにくい」


「分かりにくい方が」

「消されにくいです」


沈黙。

今度は、社長の方が、考えていた。


「あなたは、賢い」


また、その言葉。


「でもね」

「賢さと、価値は、別です」


価値。


「この世界で残るのは」

「感情を動かしたものです」


「怒り」

「涙」

「救い」


社長は、

夜景に視線を向けた。


「あなたのお姉さんは」

「“惜しまれる存在”だった」


その言い方が、

妙に冷静で、

妙に正確だった。


「亡くなったことを隠したのは」

「準備が必要だったからです」


私は、

そこで初めて、

声を出した。


「……準備?」


社長は、

私を見た。


「話題性です」


その言葉は、

あまりにも、

あっさりしていた。


「失われたものは」

「物語にしなければ、消える」


「静かな死は」

「誰の記憶にも残らない」


「だから」

「残る形に、する必要があった」


私は、

唇を噛んだ。


「……妹が引き継ぐ、という構図も?」


社長は、

躊躇わなかった。


「最適でした」


最適。

人の死を、

構図で語る声。


「悲劇だけでは、足りない」

「希望が必要です」


「あなたは」

「その希望になれる存在だった」


私は、

目を閉じた。


姉の声。

『物語にされる』

あの言葉が、

頭の中で、はっきり繋がる。


「姉が拒否したのは」

「“物語”になることですか」


社長は、

少しだけ、

視線を逸らした。


「彼女は」

「制御できない物語を、嫌った」


制御。


「あなたは、違う」

「制御できる」


それは、

褒め言葉だった。


「今でも、引き返せます」


社長は、

静かに言った。


「海外の動きは、潰せる」

「国内の印象は、修復できる」


「あなたが」

「完成形を、生きるなら」


私は、

ゆっくりと、首を振った。


「……もう、完成してない」


その言葉に、

社長の眉が、わずかに動いた。


「物語は」

「もう、一人のものじゃない」


「話題性は」

「作るものじゃなくて」

「生まれるものです」


社長は、

しばらく、私を見つめていた。


そして、

初めて、

ほんの少しだけ、笑った。


「なるほど」


それは、

余裕の笑みじゃなかった。


「では」

「次は、勝負ですね」


勝負。

何と、何の。


「あなたが残すものが」

「話題になるか」

「こちらが用意した物語が、上書きするか」


私は、

立ち上がった。


「……姉は」


最後に、それだけ聞いた。


社長は、

答えなかった。


答えないこと自体が、

答えだった。


会議室を出ると、

足が、少し震えていた。


でも、

逃げたい震えじゃない。


怖さと、

確信が、

同時に来ていた。


【下書き】アプリが、震える。


《核心、聞いたね》

《ここからが、本番》


私は、

深く息を吸った。


話題性は、

作られた。


でも、

制御できない話題性が、

今、動いている。


次は、

どちらが、

より多くの人の目に触れるか。


——それだけだ。

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