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姉はVtuber  作者: からし
22/23

第二十二話 同時

修復配信当日。

空気は、異様なほど落ち着いていた。


スタジオは、いつもより明るい。

照明は影を消し、

カメラの位置は、表情の揺れを拾わない角度。


「今日は、ちゃんと話します」


台本の一行目。

“ちゃんと”という言葉が、

ここでは一番、曖昧だった。


配信開始まで、あと五分。

イヤーモニター越しに、

スタッフの声が重なる。


「大丈夫です」

「いつも通りで」

「台本通りで」


いつも通り。

それが、どれだけ作られた言葉か、

今の私は知っている。


社長は、ガラス越しにこちらを見ていた。

頷く。

合図。


カウントダウンが、ゼロになる。


「こんばんは」


私は、カメラを見た。

画面の向こうにいるのは、

信じたい人たちだ。


「今日は、最近の噂について」

「私の言葉で、話します」


台本通り。

落ち着いた声。

丁寧な間。


「すべては、私が選んだことです」

「誰かに、強制されたことはありません」


——修復の核。


コメント欄は、

安堵で満たされていく。


《よかった》

《安心した》

《ちゃんと聞けてよかった》


社長は、

満足そうだった。


「姉のことも」

「これ以上、憶測で語られないように」


ここで、

用意された“決定打”。


私は、

台本を一字も変えずに、

言った。


「だから」

「この話は、ここで終わりにします」


拍手。

コメントの流れが、加速する。


——修復は、成功している。


その瞬間。


イヤーモニターに、

聞き慣れない音が混じった。


ノイズ。

そして、

誰かの息を飲む気配。


私は、

何も言わず、

カメラを見続けた。


画面の向こうで、

別の画面が、開かれている。


海外の掲示板。

匿名の投稿。

時刻は、今。


——姉の音声、完全版(断片)。

——複数の時系列。

——同業者の証言(匿名)。


修復配信と、

同時。


コメント欄の空気が、

わずかに変わる。


《今、別のところで…》

《海外で何か出てる》

《これ、関係ある?》


私は、

気づかないふりをした。


台本の最後まで、

きっちり話す。


「これからも」

「よろしくお願いします」


配信終了。


カメラが切れた瞬間、

スタジオの空気が凍った。


誰かが、

スマートフォンを見ている。


誰かが、

息を詰めている。


社長の表情だけは、

まだ変わらない。


「……何か、ありました?」


私は、

首を傾げた。


「どうかしましたか」


その一瞬。

社長の目が、

ほんのわずかに、揺れた。


スタッフが、

小声で耳打ちする。


社長の顔色が、

初めて変わった。


「……確認します」


それだけ言って、

足早に部屋を出ていく。


控室に戻され、

私は一人になった。


スマートフォンは、

まだ返されない。


でも、

【下書き】アプリだけは、

静かに震えていた。


《出た》

《予定通り》


さらに、

別の通知。


《親友》

《第二弾、準備中》


私は、

深く息を吐いた。


修復配信は、

確かに“成功”した。


だからこそ、

対比が、はっきりする。


「全部、私が選んだ」


そう言った直後に、

“選ばされる構造”が、

別の場所で、

具体的に示されている。


偶然じゃない。

偶然だと思えない量。


それが、

一番、消しにくい。


ドアが、強く開いた。


社長が、戻ってくる。

今度は、

笑っていなかった。


「……少し、話しましょう」


声は、低い。


私は、立ち上がった。


逃げない。

隠さない。


修復は、終わった。


次は

誰が

何を守ろうとしているのか

問われる番だ。

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