表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉はVtuber  作者: からし
21/22

第二十一話 修復

呼び出しは、前回よりも早かった。

そして、短かった。


《今から》

それだけ。


事務所に着くと、空気が違った。

静かすぎる。

スタッフの足音が、ほとんど聞こえない。


会議室に入ると、

社長だけがいた。


夜景は、今日は見えなかった。

ブラインドが、すべて閉じられている。


「広がっていますね」


開口一番、社長はそう言った。

声は穏やかだが、

言葉に余白がなかった。


「あなたの言葉」

「切り抜き」

「外部の書き起こし」


否定しない。

怒らない。


それが、逆に怖い。


「偶然が、重なっただけです」


私がそう言うと、

社長は小さく頷いた。


「そういうことに、しておきましょう」


——しておく。

選択肢は、与えられていない。


「だから、修復が必要です」


社長は、タブレットを操作した。


画面に映し出されるのは、

新しい企画案。


【真実を語る:完全版】


「あなたが、自分の言葉で話す」

「疑問に、全部答える」

「噂を、ここで終わらせる」


完璧な“火消し”だった。


「台本は、こちらで用意します」


「……真実、なんですよね」


私の問いに、

社長は、少しだけ考える素振りを見せた。


「真実とは」

「人が、納得できる形です」


その一言で、

すべてが分かった。


「この配信が終われば」

「海外の小さな動きも、意味を失います」


意味を失う。

それは、

声を、かき消すということ。


「あなたが、やるべきことは一つです」


社長は、

私をまっすぐ見た。


「完成形を、守る」


守る。

誰のために?


「拒否したら?」


私がそう言うと、

社長は、初めて目を伏せた。


「あなたを、守れなくなる」


それは、

脅しじゃない。


——切り捨ての予告だ。


会議室を出ると、

スマートフォンが返却された。


中身は、整理されている。

通知は、必要なものだけ。


でも、

【下書き】アプリだけは、

消されていなかった。


わざとだ。


「見ているぞ」という、

合図。


帰宅すると、

ポストに、封筒が入っていた。


中には、

一枚の写真。


姉の部屋。

私が知らない角度。


机の下。

コンセントの裏。


——録音機材が、写っていた。


《知っている》


メモは、それだけ。


震えは、来なかった。

代わりに、

妙な冷静さがあった。


やっぱり。

最初から、

分かっていた。


夜、

私はノートを開いた。


今日の出来事を、

事実だけで書く。


・修復配信の提案

・“真実=納得できる形”という定義

・拒否した場合の示唆


感情は、書かない。


そして、

ページの端に、

小さく一行、付け足した。


——修復は、隠蔽の別名。


スマートフォンが震える。


《親友》

《向こう、動いた》

《次は、同時》


同時。

それは、

“修復配信”と、

“別の何か”が、

重なるという意味だ。


私は、

深く息を吸った。


完成形を、

守らせるための配信。


その裏で、

完成形が、

決定的に壊れる。


その瞬間は、

近い。


私は、

社長からのメッセージに、

短く返信した。


《分かりました》

《やります》


その言葉を送った瞬間、

【下書き】アプリが、

静かに更新された。


《いい》

《覚悟、できたね》


私は、

画面を閉じた。


修復配信は、

“完成形”を守るためのもの。


だからこそ。


一番、壊れやすい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ