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姉はVtuber  作者: からし
19/22

第十九話 完成形

呼び出しは、予告もなく来た。


《今から来てください》

《大事な話です》


拒否できる文面じゃない。

場所は、事務所の最上階。

普段は、入ることのないフロアだった。


エレベーターの扉が開くと、

ガラス張りの会議室が見えた。

夜景が、きれいに切り取られている。


社長は、すでに座っていた。

いつも通りの穏やかな表情。


「来てくれてありがとう」


テーブルの上に、

一冊の分厚い資料が置かれていた。


表紙には、

【プロジェクト・レガシー】

と書かれている。


「これが、完成形です」


ページをめくる。

そこには、

これから半年、一年、

どんな企画を行い、

どんな物語を“語らせるか”が

細かく設計されていた。


・姉の過去を振り返る回

・妹が継承を語るドキュメンタリー

・涙の対談(編集済)

・最終的に“家族で乗り越えた象徴”として固定


——完璧だった。

あまりに。


「世間は、もう答えを欲しがっていません」


社長は、夜景に目を向けた。


「欲しいのは、納得できる形です」

「疑問が残らない形」


疑問が、残らない。


「警察も、メディアも、スポンサーも」

「これで、完全に離れます」


私は、資料から目を離した。


「……姉の意思は?」


社長は、少しだけ微笑んだ。


「尊重しています」


即答だった。


「だからこそ」

「あなたが、ここにいる」


その言葉の意味が、

はっきり分かった。


姉は、拒否した。

だから、“代替案”が必要だった。


「あなたは、優秀です」

「空気も、流れも、理解している」


評価。

でも、それは

人間への評価じゃない。


「選択肢を、提示しましょう」


社長は、指を一本立てた。


「このまま、完成形を生きる」

「安全で、守られ、称賛される」


次に、もう一本。


「それとも」

「途中で壊れる存在になる」


壊れる。

第十二話で聞いた言葉。


「あなたが、何か“残そう”としているのは」

「知っています」


心臓が、強く鳴った。


「でも、残したものが」

「いつ、誰に届くかは、分からない」


それは、

脅しじゃない。

事実だった。


「完成形を生きれば」

「姉は、英雄になります」

「あなたも、象徴になります」


「……拒否したら?」


社長は、

少しだけ、声を落とした。


「物語は、別の形で完成します」


代役。

別の誰か。

もっと、従順な形で。


私は、静かに息を吸った。


「考える時間をください」


社長は、頷いた。


「もちろん」

「あなたは、考える人ですから」


会議室を出ると、

廊下がやけに長く感じた。


エレベーターの中で、

私は、資料の重さを感じていた。


これは、

私の人生の設計図だ。


——完成させるか。

——壊すか。


帰宅すると、

【下書き】アプリに、新しい通知があった。


《“完成形”を提示されたね》

《予想通り》


さらに、

別の通知。


《親友から》

《準備、できてる》


三つの場所。

三つの記録。

三つの意思。


私は、資料を机に置いた。


ページを閉じる。


完成形は、

あまりに美しい。


だからこそ、

嘘が一番、隠しやすい。


夜、

私は、配信の準備をした。


いつもより、

静かに。


次の配信は、

“完成形”の一部になる。


でも、

その中に、

ほんの小さな亀裂を入れる。


誰にも気づかれない。

でも、

後から見れば、確実に分かる形で。


私は、カメラの前に座った。


笑顔を作る。


「こんばんは」


——選択は、

もう始まっている。

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