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姉はVtuber  作者: からし
16/22

第十六話 管理

台本は、届かなかった。


代わりに送られてきたのは、

一つのファイルと、短いメッセージだった。


【本日の配信は事前収録です】

【内容は、こちらで進行します】


ファイルを開くと、

そこには文章ではなく、

タイムコード付きの指示だけが並んでいた。


――00:00〜 挨拶

――02:30〜 雑談(テーマA)

――10:00〜 感謝コメント読み

――18:00〜 エンディング


言葉は、一つも書かれていない。


「……読む必要すら、なくなったんだ」


自分の声が、部屋に落ちた。


収録当日、

スタジオの空気は、さらに張りつめていた。

スタッフが増え、

出入り口には見慣れない警備員。


控室に入ると、

机の上に、スマートフォンが置かれていた。


「今日から、こちらを使ってください」


マネージャーの声は、柔らかい。


「私物は、預かります」

「トラブル防止のためです」


断る理由は、与えられなかった。


収録は、淡々と進んだ。

指示された時間で、

指示された感情を出す。


笑う。

頷く。

目を伏せる。


まるで、

人形の動作チェックみたいだった。


「はい、ここで“少し間”」


ディレクターの声。


私は、言われた通り、

少しだけ黙った。


その“間”が、

姉の音声にあった“間”と

同じ長さだったことに、

気づいてしまった。


背中に、冷たい汗が流れる。


収録が終わると、

社長が現れた。


「安心しました」


本心から、そう言っているように見えた。


「これなら、誰も不安にならない」

「あなたも、守られる」


守られる。

その言葉は、

もう、檻と同義だった。


「外出は、当面控えてください」

「必要なものは、こちらで用意します」


私は、頷いた。


頷くことしか、

許されていなかった。


帰宅すると、

部屋の鍵が、交換されていた。


管理会社の都合。

そう説明された。


郵便物は、事務所経由になる。

来客は、事前申請。


生活は、

静かに、完全に囲われた。


夜、

返却されたスマートフォンを開く。


連絡先は、減っていた。

親友の名前は、もうない。

同期や後輩も、表示されない。


残っているのは、

事務所関係者と、

公式アカウントだけ。


画面を閉じた、その時。


——ピロン。


通知音。


一瞬、心臓が跳ねた。


表示されたのは、

見覚えのないアプリ。


【下書き】


開くと、

真っ白な画面に、

一文だけ、残されていた。


《覚えているなら、まだ間に合う》


送信者は、表示されない。


でも、

“誰が消したか”ではなく、

“誰が残したか”を考えている自分に、

私は気づいた。


姉は、

最後まで、

一人じゃなかった。


私は、

ベッドに腰を下ろし、

目を閉じた。


管理されている。

監視されている。

でも——


まだ、

考えることまでは、

奪われていない。


次にやるべきことは、

声を上げることじゃない。


残すことだ。


誰にも気づかれない形で。

消せない形で。


その方法は、

もう、頭の中にあった。


姉が、

そうしようとしていたように。


照明を消す。


暗闇の中で、

私は、初めて

自分の名前を、

小さく思い出した。


——まだ、私だ。

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