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『速記力太郎と二人の家来』

作者: 成城速記部

 あるところに、十五歳にもなるのに寝たきりの子供がいた。一言も口をきいたこともなく、父も母も、どうしたものだろうと思っていたが、あるとき、とと様、百貫目のプレスマンをつくってけろ、と突然口をきいたので、百貫目のプレスマンなんぞ何とする、お前はまだ立つこともできねえではねえか、と言うと、百貫目のプレスマンを手にして立つんだ、と言うので、鍛冶屋に注文してやった。でき上がった百貫目のプレスマンは、馬に引かせて三日もかかるほどであったが、寝たきりの子供に握らせてやると、百貫目のプレスマンをつえにして、うんとこさと立ち上がると、次の日には百貫目のプレスマンを振り回せるようになり、次の日には投げたプレスマンを落とさずに受け止められるようになり、その次の日には、プレスマンの本来の使い方である速記が書けるようになった。プレスマン自体が百貫目もあるので、速記文字が重厚だ、と村人たちにも好評であった。いつしか、誰言うとなく、寝たきりの子は、速記力太郎と呼ばれるようになった。

 速記力太郎は、速記の力で天下を安らかにしようと、いかにも速記者らしいことを考えるようになり、百貫目のプレスマンを持って旅に出ることにした。百貫目のプレスマンをペン回ししながら、田んぼのあぜ道を歩いておりますと、向こうから、メクールの入れ物のような形の、平たく言えば車輪のような形の、牛よりも大きい石を足で蹴りながら、大男がやってきました。速記力太郎の目の前に石が転がってきましたので、百貫目のプレスマンで一はじきしますと、メクール岩は、向こうの田んぼまで吹き飛んでいきました。大男が怒って勝負を挑んできましたので、速記力太郎が地面に速記を書いてみせますと、大男は恐れ入って家来になりました。速記力太郎が名を尋ねますと、名はないと言いましたので、速記力太郎は、メクール次郎と名づけました。メクール次郎が難色を示したので、メクール太郎にしてやりました。

 速記力太郎とメクール太郎が連れ立って歩いておりますと、頭の上に大量の半紙を担いだ大男がやってきました。速記を職業とする人が一生かかっても使い切れないほどの大量の半紙でした。とんでもない高さの半紙を担いでいるので、こちらへ倒れてきたら嫌だなと思って、道を譲ってやろうとしましたが、半紙男がよろめいて、半紙が崩れそうになったので、半紙男を向こうへ突き飛ばして、危ない目に遭うのを避けました。大量の半紙がばらまかれましたので、速記力太郎は、半分ほどの半紙に速記を書いてしまいました、半紙男は怒って、戦いを挑んできましたが、速記力太郎が、残りの半紙に速記を書きますと、半紙男は、恐れ入って、家来になりました。半紙は原文帳に使いますので、原文帳と名づけようとしましたが、銀粉蝶みたいで、切りどころがわからない、と遠慮しましたので、半紙太郎と名づけることにしました。ところで銀粉蝶とは何のことか、と速記力太郎は尋ねましたが、半紙太郎は答えませんでした。

 三人が連れ立って歩いておりますと、長者の屋敷がありました。屋敷の中で、長者主従が声を上げて泣いている様子が、外まで聞こえていましたので、どうしたのか尋ねますと、満月の夜に山から化け物が下りてきて、村の娘を一人ずつさらってまいります。今宵がその満月で、村に娘といえば、もう長者様の姫様よりほかにいらっしゃいませんので、このように泣いております、とのことであったので、どんな化け物だろうと倒してやるから泣くのはよせといって、三人が長者の屋敷で待ち伏せをしておりますと、満月が一番高くに上がったころ、うめき声とも叫び声ともつかない声を上げながら、大きな化け物が屋敷に押し入ってきたので、速記力太郎は、半紙太郎に命じて組ませますと、なかなかに強い化け物であったので、メクール太郎と交代させますと、これもやや劣勢であったので、みずから組んで、ようやくねじ伏せました。月明かりでよく確かめますと、猿の化け物のようでした。速記力太郎は、半紙男に命じて、始末を命じましたので、その後の詳しいことはよくわかりません。

 翌朝、長者親子は、泣きながら無事を喜び合い、速記力太郎を婿に取りたいと申し出ました。速記力太郎は固持しましたが、どうしてもと言われたので、メクール太郎と原文帳太郎の嫁も世話してくれるなら、と条件を出し、村には娘が一人もいませんでしたので、結構な時間を要したものの、速記力太郎は村の長者の婿、メクール太郎と原文帳太郎は、長者の分家として、長く村を盛り立てたということです。



教訓:メクール次郎、を変えてもらうなら、メクールのほうを変えてもらったほうが無難である。もちろん、無難な道を選ばなければならないということはない。

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