3 舞台衣装を着ていても
これで完結です!
馬車の中でもケインは私に見惚れて褒めてくれていた。
「エミ様…本当によく似合っています」
「様はいらないから、エミでいいよ。フィオナもそう呼んでくれるし」
「は、はい…エ、エミ…似合っています」
「ありがと。ケインもカッコいいよ。昨日の騎士服?も似合ってたけど、今日のほうがケインらしい気がする」
ケインの白シャツ、黒スラックス、黒ジャケットはすっきりしていてお洒落だ。髪も昨日はカッチリ上げていたけれど今日はサラッと下ろしていて前髪が少し顔にかかるのがニクい。
「か、カッコいい、なんて…エミ、のほうが…」
ケインは顔を赤くしながらモゴモゴ言っている。うん、可愛い。
「お金を預けたら、少し自分用に服を買うつもり。一緒に見てくれる?」
「もちろん!…です。ただ、お…私は女性の服を選んだことなんてないので、よければフィオナがよく行く店に行ってみませんか」
「うん、じゃあそうしよう。それから、私には敬語はいらないよ?ね、本当はケイン自分のこと『俺』って言うんじゃない?」
「あ…はい…いや、うん」
その後は練習を兼ねて、街の中心に着くまで馬車の窓から見えるものを尋ねてはケインに答えてもらうことを繰り返した。
到着して、だいぶまずはお金を預けようということになって銀行に向かったのだが、ケインが自分が付いているから危ないことはないと思うが、万が一のためにと腰ベルトと短剣を渡してくれたので驚いた。
「フィオナが普段使っているものだから、その服でもあまり悪目立ちはしないと思う」
確かに濃い緑のワンピースに焦げ茶の腰ベルト、小物入れ付きはいかにも『剣持ってます!』という風ではない。でもこの世界で女性が剣を持つのは、いいのだろうか?
「フィオナの話からすると、神殿はドラゴンスレイヤーを探しているかもしれない。もちろんエミは強いから、連れて行かれるような心配はないけど…」
身を守る物を持っていてほしいのだと言われて嬉しくなった。ケインは本当に私のことを思いやってくれているのだと感じるから。思わずニコッとしたら、
「でも、そんなことになったら俺が守るから、大丈夫!あ、あの、エミの方が強いんだけど、でも!俺が守るから」
とケインが真っ赤になりながら説明してくれたので、ますます私は嬉しくなった。
ケインは守りの家の人で聖騎士だから、連れが短剣くらい持っていても、そう不思議には思われないということだったのでそのまま銀行に入った。
洋服や身の回りの物を買うには大型金貨の5枚程度あれば十分だというので、手元に10枚残してそれ以外は全部預けた。さあお買い物だ。
と、思って外に出ると、エントランス前に人だかりができていて何やら怒鳴り声が聞こえる。ケインがサッと私の前に立つ。ヤダ、カッコいい。
でも騒ぎが気になった私は、ちょっとだけ、とのぞいてみた。すると、昨日の私に似た服装の男性が憲兵隊に捕まっていた。
「わーお。あの格好、いつ見たんだろう?」
「昨日、城から出て俺に声をかけられる前だろう。神殿もドラゴンスレイヤーを探そうと人相書きを撒いているようだから、いい仕事になるやも、と思う奴も出てくる」
「なるほどねぇ」
なんて言っていたら、ドラゴンスレイヤーもどきが憲兵隊の手を振り払ってこちらに逃げてきた。必死の形相で手にした剣を振り回している。危ないって!
思わず腰の短剣を抜いて、私達の脇を抜けようとした男の太ももを柄で打ち据える。こんなことサラッとできるなんて、すごい、私の戦闘力。グッと呻いて躓いた男をすかさずケインが倒して押さえる。
「ケイン様!」
憲兵達が走り寄って来て、男を捕まえる。
「申し訳ありません!」
「何をしているっ!」
ケインの叱責に私は驚いたが、憲兵達はもっと驚いたようだった。
「俺の大切な人に、何かあったらどうする気だ!怪我の1つでもさせていたら…」
憲兵の1人に迫るケインの剣幕と気迫に彼らが震え上がった。
「ケイン、大丈夫だよ。ほら、全然怪我なんてしていないし、ケインがすぐに押さえてくれたから平気。怖くもなかったよ。ケインが守ってくれるって言ってたから」
私がケインの腕をひいてニコッと笑うと、ケインはハッとしたように憲兵から離れた。
「憲兵隊の皆さん、お疲れ様です。お仕事頑張ってくださいね。さ、ケインもう行こう?何だかお腹がすいちゃった」
私はそう言って憲兵たちに頭を下げると、ケインの手を取ってその場を離れた。ケインはちょっとしょんぼりしているみたいにトボトボとついてきた。
「大声を出して、すまなかった」
「ううん、嬉しかったよ。『俺の大切な人』って言ってくれたよね?」
「…っ!」
「でも、いつものケインと違いすぎるのはみんなを驚かせちゃうよ」
「ごめん」
「私のために、ケインのことを好きな人や尊敬している人を困らせたり傷つけたりしないでね」
「うん」
私はクルッと振り返って、繋いでいたケインの手を両手で包んで顔を見る。
「昨日から、ケインは私のことを大事にしてくれる。私が異世界から召喚されて、ドラゴンスレイヤーで、すごく強いってわかっているのに、守ってくれようとして」
ああ、きっと聖女補正?が働いている。こんなにすぐに人を好きになるなんて普通はないから。でも、ここに聖女として召喚された私はここで生きていくのだから、自分のカンは信じたい。
ケインはこれから、きっと私にとってもっともっと大切な人になっていく。
「ねえ、私、ケインが好き。ケインは?」
「わ、わた、お、俺も、エミが好きだ!」
私はケインに抱きついた。
「これから、ずっと、よろしくね!」
「ああ!」
ケインもギュッと抱きしめてくれた。
二人して幸せな気持ちで買い物をして、ゆっくり屋敷に戻ったら、フィオナがニヤニヤしながら待っていた。どうやら私達の街中での告白を見ていた人から連絡が来たらしい。それはそうか、憲兵隊の人たちもいたしね。
「冷静で温厚な聖騎士ケインが『大切な人』を守って暴れたって、大騒ぎみたいよ?」
「…暴れてなんかいない」
「まあいいわ。それで?」
「私達、ずっと一緒にいたいの。フィオナはどう思う?」
ケインが答える前に私がそう言うと、彼女はニッコリして
「大歓迎よ、お義姉様!私の狙い通りだわ!」
と駆け寄って私達二人をギュウギュウ抱きしめた。よく似た二人で愛おしさも2倍だ。
その後はトントン拍子に婚約が整った。フィオナはこれで自分もやっと結婚できると満足そうだった。辺境で任務にあたっているという彼女の相手の人に会うのが楽しみだ。
さて、神殿はと言えば、ドラゴンスレイヤー探しを続けていて街が落ち着かないので、もう一度舞台衣装を着てお城に行くことにした。私の衣装姿を見たケインからは、なぜかすごい尊敬の念が感じられた。
お城には召喚された時の神官や王子がいて、神官たちはきちんとお礼を言ってくれたけど、王子はまだフガフガ言っていた。聖女が来るはずだったのに男が来たからもう一回召喚の儀式をしろとか言っているようで、神官たちから『無理ですって』とたしなめられていた。
本当にしょうがない人みたいだけど、周りやケインの様子から、そこまで嫌われてはいないようだったので、本当に国が大変な時にだけ助けに来てやるからもう探すなと伝えた。
連絡役は一緒にドラゴンを倒したケインに頼んでおくと言った時に、王子が
「なぜケインなのだ。お前は王太子である私の近くにいるべきではないか!」
とゴチャゴチャうるさかったので、顎を掴んで
「ケインなら私を止めることができるが、お前はどうかな?私が城に留まらないのは、時々思い切り暴れないとエネルギーが爆発するからだ。ぅん?一緒に魔物の退治にでも行ってくれるのか?ん?」
と凄んで言い、ついでに耳元で
「まぁ、他にも仲良く一緒にできることはあるけどなぁ、どうする?」
と甘く囁くと
「ヒィッ!!」
と尻もちをついて後ずさったので、カラカラと笑って見せた。何を想像したんだか。私は筋トレ、体力づくりのつもりだったけど?役者にとって体力は重要だからね。
城からの帰り道、ケインがジト目で見てくるので何かと訊くと、あんなに王太子に近付くのは嫌だと言うから、両手を挙げて、もうしないと言った。ちょっと拗ねるケインが可愛くて、本当は手を繋ぎたかったけど、今はドラゴンスレイヤーの役だから我慢した。
そこで、ふと、元の世界のことを話していなかったことに気付いたので帰りの馬車の中で説明した。
「あのねケイン、私本当はドラゴンスレイヤーじゃないの。この世界ではなぜか魔力があって戦えるけど、元の世界ではただの役者だったんだ」
「えっ、役者?聖女じゃあないのか?」
驚くのも当然だよね。でも異世界モノを沢山読んだ私にはわかる。この力は異世界に転生・転移した人のチートというものだということが。
「そう。舞台の最終リハーサルで男役の魔法竜騎士の衣装を着ていたから、そういう役で召喚されちゃったのかも。そして魔力は召喚で生まれたのかな?前はそんな力なかったよ」
「それは演劇の衣装だったのか…」
「何だと思ってたの?」
「え?戦いの時はそういう装備を身につける世界なのかと。そしてすごく立派だから強い戦士なのだと思っていた。女性だから変だなぁとは思ったけれど戦いの装備は男女同じなのかもしれないし、男性の装束の方が力が出ると信じられているのかもって」
ああ、だからさっき尊敬の眼差しだったんだね。
でもこの世界のケインだって仕事の時は聖騎士の制服だし、ドラゴン退治では武器や装備もあって着替えてたから、そう思ったのも無理はないかも。文化には違いがあるし。何にせよ、そういうところで偏見なく私を見てくれるケインは本当にステキな人だと思う。
そこから少し元の世界の話をした。平和で魔物やドラゴンは想像上の生き物なこと。大学で演劇サークルに入って、卒業してからはバイトをしながら頑張って、ようやく名前のある役ができるようになってきて、今回はようやく主役だったこと。
「元の世界では女性が男性役をする劇団があって、私はそこの男役なの。まあまあ人気あるんだよ。ああようやく主役だったのになぁ…」
ちょっとだけ、いや、実はかなり残念な気がして、ため息をつくと、ケインがガバっと抱きしめてきた。
「エミっ、帰ってはいけない。いや、ここにいてほしいんだ。演劇がしたいなら一緒に何か考える。だから、ずっと俺と一緒にここで暮らしてほしい!!」
必死なケインの姿に、不安にさせたと反省した。
「ごめんねケイン、大丈夫、私はここにいる。ずっと一緒だよ。私、前向きなのがいいところなんだ。演劇もいつかまた演りたくなるかもしれないけど、とりあえず魔力の使い方を覚えて、ここでできることを頑張るよ」
「エミ…」
「治癒とかできるようになったら、便利そうじゃない?聖騎士のケインのことも治してあげられそうだし」
そう言ったらケインが
「だ、ダメだ!それでは別の意味で聖女と評判になるかもしれないじゃないか!」
と慌てて言ったので、それもそうかと思った。
「じゃあ、何がいいか帰ってゆっくり二人で考えよう」
ケインの手を握って笑いかけたら、真っ赤な顔のケインが頷いた。可愛くて思わず頬にキスをしたら、ケインの喉から変な音が出たので、もう一回、今度は唇にキスをした。ケインの目が丸くなって、今度はケインからのキスが私に降り注いだ。
舞台衣装のままの私でも好きだと言ってくれるケイン。私もケインが大好きだよ!
お読みくださり、どうもありがとうございました。短編でさらっと余韻を持たせて終わらせたつもりでしたが、それが良いのか、しっかりハピエンまでにするのが良いのか、難しいなと思いながら書きました。短編版と比較して、いかがだったでしょうか。
「小説家になろう・読もう」は読んでくださった方とのやり取りやフィードバックが面白い媒体だと思うところもあるので、今回はこうして自分の作品が変化するのもアリだなと楽しんで書きました。
これからもゆっくり頑張ります。ありがとうございました。




