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綺麗じゃない愛だって…

作者: 春風 咲来

それは、執事として財閥に潜入中の暗殺者と望まない結婚が決まった財閥の社長令嬢、その婚前パーティーにて、酒の勢いに飲み込まれたまま互いに社長に対する復讐心が引き起こした…一夜の過ち。


それはほんのでき心、

婚前パーティーにかこつけ陽気に飲んだくれる参加者達の中、唯一つまらなそうな顔をしている主役、お嬢様を誘惑した。

政略結婚を控えた大事な一人娘をこの手で汚す。それこそ、暗殺よりも甘美な復讐であるかのように思えた。


それはちょっとした反抗心、

父の権力を恐れず、私を誘う仮面の男。

主役だともてはやしておきながら私を注目している者なんて誰もいない。

だったら、この男の手をとってしまっても何も変わらない。

この手をとってしまえば、私は初めて父に抗える。

その先がわからないほど、私は子供ではないが、せめて今だけは自由を味わってみたかった。


余裕の表情を浮かべ、小さく会釈しながら男の手をとった女を、気づかれぬように男はにやりと見下ろし「光栄です」と囁きながら腰を抱いた。


一つの部屋に入り、鍵を閉めると、なだれ込むように男は女をベッドに組み敷く。

早急に女を求め、あっという間に下着姿にさせると、熱を帯びた瞳でその姿をじっくりと見つめ、吐息混じりにつぶやいた「やはり美しい」

女は、頬を赤らめながら、怯えて涙目になった瞳で男を見上げ、力なく抵抗している。


男は、女の首筋に赤い花弁を一つ咲かせるとくすりと笑い、

「逃げるなら、今のうちですよ?」と微笑んだ。

恥ずかしがってさらに身を縮める姿に「初心いですね。可愛らしい、これから私の手でそれを奪えるのだと思うと、ゾクゾクします。」とあえて本音を話した。

「これくらいの事、平気ですわ。」興味がないとでもいうように強気に言い返す女に、かえって快楽に与えたい気持ちが増すばかりだった。


目が覚めると、隣には仮面の男が寝ていて、自分も男も服を着ていない、その事実がこの一夜は夢ではないと突きつけているようだった。

痛む腰を抑えながら、慌てて室内のシャワーを浴びに行くお嬢様の背中を狸寝入りをしていた瞳で見送っていた。

体に残る倦怠感がそれが嘘ではないと再認識させ、支配欲が満たされた。


それから何度も体を重ね、腹を割って話すうちに、二人の間にはいつしか心からの愛が芽生えていた。


政略結婚まで最後の夜

(時を見て、必ずや暗殺を成功させ、彼女を攫いに行こう。そうしたら誰にも見つからない静かな場所で一から二人で愛を育み直して…)

(願わくば彼の子を宿していて欲しい。その子をこれから嫁がされる相手との子として彼の子を育てる事ができたら、それだけで救いとなるのに。)

深く繋がったところで互いの熱を感じながら、愛してるという言葉が溢れてしまわないように、どちらともなく何度も深く唇を塞いだ。

二人が果てる頃、朝日は無情にも二人を照らしていた。


10ヶ月後…

「おめでとうございます!旦那様!奥様が無事、男児を出産されました‼︎」

産婆からの報告に慌てて駆けつけると、赤子を抱いた妻の姿があった。出産の疲れもあってか、妻は遠くを見つめていた。

ところが十分もしないうちに、使用人が次々と駆けつけた。

「大変です!奥様のお父様が‼︎」「何者かに殺害されました‼︎」

「何!?」誰もが慌てふためく中、妻は聞こえていないかのように「この子の名前は、なんとつけましょう…」と独り言を言っていた。

「侵入者が‼︎そちらへ‼︎」騒ぎに託けて、警備を突破し、確保しようとする者達を次々と薙ぎ倒す侵入者、しかしその姿を見て、妻は今まで見た事のないような笑顔を浮かべた。


「お迎えにあがりました。」侵入者は、少し仮面を上げるとあっという間に妻と息子を攫い、窓から逃げ出してしまった。心なしか、その目元は息子に似ているような気がした…

侵入者を追おうとする使用人達に、「追わなくていい」と気づけばこう言っていた。


「誰も私達の事を知らぬ地で、3人仲良く暮らしましょう?今日の依頼を最後にもう暗殺者はやめますから…」いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべ、生まれたばかりの我が子の頭を撫でた。

「あら、3人だけ?私を攫ってくれた王子様との子なら、何人でもこの子に兄弟を作ってあげたいのに。」冗談っぽく艶っぽい声色で、彼女が過ごすことができなかったやんちゃな幼女のような口調で笑い返した。

「子を成すというのは、危険な事でもあるので…でも、そう言っていただけるなんて嬉しいです。お姫様ともども、大切にいたしますよ。」

抱きしめる力を強めると、彼女は照れたように微笑み、赤子も少し笑っているように見えた。

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