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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
86/177

86、契


「チュイ様、投神殿と契を交わされたのですか…?」


 衝撃のあまり、つい口を挟んでしまう。


『そうよ、悪い?』


「い、いえ…、滅相もございませんが…

 余りにも急な展開で置いてかれてしまって…」


 “妖精女王”と呼ばれるあの妖精族最強のチュイ様がこうも簡単に契を交わすことに理解が追いつかない。

 あの勇者様方にさえ契を交わすことを拒否されたというのに…!

 

『それより教会とギルドに行くんでしょ?

 さっさと行きましょ』


「そうでした

 首を断たれたこの家政婦は…、武装解除して所持品を検めましょうか

 ジンズ、頼む」


「………」


「マテ、ワガシンセイナタタカイヲオカスナ」


 ジンズに指示を与えると、投神殿が立ちはだかった。

 何やら怒っておられる様子。

 所持品を我らが横取りすると勘違いされたか。


「投神、この家政婦は貴重なアイテムを所持していると思われます

 ギルドで検査した後に投神殿に返却致しますので、回収させて頂けませんでしょうか?」


「ナラヌ、カノジョハスベテカラカイホウサレタ

 シシャヲボウトクスルナ」


 ボロボロほ投神殿からの威圧感が増し、よく分からないがオーラのようなものが発せられた。


『アハハハッ!やるなら妾もやるわよ!

 もちろん投神の相棒としてね』


「ひっ!?

 しかしチュイ様、この者は悪のギルドに所属しており、アイテムから推察されることも多いと思われます」


『残ったアイテムは、それを倒した冒険者に権利がある

 そのルールを守る為にどれ程の血が流れてきたか、アンタも知ってるでしょ!?』


「!」


 少女めいたお姿のチュイ様だが、永い時を経てきた伝説的な存在で、その片鱗を感じさせる深い眼差しを感じた。


「ここは引こう、リーダー」

「そうだにゃ、チュイ様の言う通りだにゃ」


 皆にもそう言われれば仕方がない。

 混迷の様相を呈してきた戦争を優位に進められるヒントが家政婦の所持品にあるかも知れないが、ルールはルールだ。


「承知致しました

 チュイ様の意向に従います」


『投神の、でしょうに

 ま、良いわ』


 投神殿は家政婦の離れた首の位置を直してやり、手を合わせて冥福を祈っている。

 

 その古の神官のような祈りを見ていると、私たちがとうの昔に失くした感覚を思い出させた。


 悪堕ちした者はもう討伐対象の害獣でしかなく、同じ人間という意識はない。

 持っていたら討てないからだ。


 それなのに投神殿は自ら討伐された悪堕ちされた者を悼む気持ちを持ち続けようとしている。

 投神殿はこれからも忘れないのだろう。

 悲しみや後悔、自己嫌悪などの負の感情が見えない。

 只々神聖な行いがそこにあったとしか思えない泰然とした姿がそこにある。


 私たちにはその境地には至れない。

 でももしその境地に至っていれば、私は悪堕ちしたヨゥトを救うことが出来たように思えるのだ…。


 いや、しっかりしろハルゥーカ!

 悪は討ち、戦争に勝つ。

 それだけだ。

 全てはそこからだ。



「あっ……」


 誰かが小さな声をあげた。

 家政婦がダンジョンに吸収されていったのだ。

 人がダンジョンに吸収されるとダンジョンが成長するとされ、タブー視されている。

 それもあって早く処理したかったのだが…。


 巨大な斧だけが残った。


「投神殿、この斧は貴殿の物です」


「イラヌ」


『まぁまぁ投神、あなた教会で治療を受けないといけないんだし、持って行って売れば?

 お金がかかるんだし』


「ソウカ、ワカッタ」


 そう言って投神殿は巨大な斧を軽々と投げるように持ち上げた。


『それじゃあ行きましょ

 オウブルのギルドと教会に』


 こうして私たちはオウブルの街のゲートダンジョンに転移したのだった。



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『チュイ、何かすごく注目を浴びてるんだけど?』


 チュイは俺の頭の上に乗り、転移の魔術を使って跳んでからというもの、ずっと乗ったままだ。


 この街は見覚えがある。

 一番最初に来た街だが、何故か半裸で来たその時よりも注目を浴びまくっているんですけど…。


『当たり前じゃない!

 この妾が人に触れさせるなんて、超珍しいんだからね

 感謝しなさい!』


『ふぅ〜ん、そっかぁ、ありがとうな

 俺ってこの世界の常識を知らないから、色々教えてくれ』


『任せなさい!』


『ははー!』


 俺は大袈裟にチュイを伏し拝んだ。

 チュイは頭に乗ったままだが。


『あはははっ!苦しゅうない!』


 あ、みんなに白い目で見られてる…。


「投神殿、行きますよ」


 はいはい、すみません。

 鎧美女のパーティーが俺を囲みながら移動する。

 これじゃ護送される犯人みたいだな。

 逃げませんて。


 門をくぐり、どんどん進むとフウと出会った女神像の前にきた。

 無論フウはいないが、彼女…とまた一緒にバスキングしたい。

 心からそう願った。


『チュイはフウのこと知ってるのか?』


『もちろん知ってるわよ

 あの子も冒険者生活が長いからね』


『ユニット組んでたんだけど、急に消えちゃったんだ…』


『まだユニットは継続してるから、また会えるわよ』


『そうか、なら良いんだけど…』


 女神像のある建物を通り過ぎ、もう一つの大きな建物に入る。

 これがこの街のギルドか。

 フウと行ったギルドよりも随分と大きい。


 あの九ノ一以外の忍者ズはギルドに入らずに消えていった。

 ホールの中の冒険者たちは俺たちを見てギョッとした様子で、近くの者とひそひそと話し合っている。

 それを横目に九ノ一は俺たちを2階に導き、重厚な造りの扉をノックした。


 どうやら偉い人と会うようだ。


 チュイが頭の上に乗ったままだけど、良いのだろうか?


『良いわよ、ここのギルド長はよく知ってる子だし

 それにオレンジ色の髪の毛が気に入ったのよ』


「そうか?

 あれ?もしかして髪の毛の根本までオレンジ?」


『当たり前じゃない

 これ地毛でしよ?』


「いてっ!抜くなよ、ハゲたらどうすんだ

 って、マジだ、毛根から橙色…!」


 チュイが見せてきた毛は染めたんじゃなく、最初から鮮やかな橙色をしている。

 ちょっと怖いな…。

 知らぬ間に身体を改造されたようで気味が悪い。


 そのとき部屋の中から渋い声が響いた。


「入れ」



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 ノックが聞こえる。

 ようやく彼が見つかったのか。


「入れ」


 忍者のカイファーがドアを開けて入ってきた。


「投神様と未だ見ぬ地平線パーティー、それにチュイ様をお連れ致しました」


「うむ、ご苦労

 ってチュイ様ぁ?」


 橙色の頭髪をした男が投神なのだろうが、その彼の頭にはチュイ様が乗って悪戯っぽい目をキラキラと輝かせている。

 これは非常にやりにくい…。

 誰だよ連れてきたのは。


「ジャハン様、状況を報告致します

 こちらの投神様とフウ様とゲートダンジョンにいるところに悪ギルドのパーティーに襲撃されました

 敵の開幕ハズィーロをアーティファクトの障壁で防ぎましたが、不十分で多大なダメージを受けました。

 私は意識が朦朧としていまして、その間に何があったかは不明でございますが、フウ様は瞬間移動を使用されました

 その為、パーティーを組んでいた私は彼女と共に戦場を離脱

 その後各方面に連絡をし、配下の忍者と未だ見ぬ地平線、偶然居合わせたチュイ様と共に投神殿を救出に向かいました

 再び戦場に戻った頃には戦闘は終了しており、投神様は一人で敵パーティーを撃退された模様です。

 私たちが確認できたのは敵パーティーの家政婦の死体1体のみで、詳細は分かりません

 以上です」


「無職の者が悪パーティーを撃退するとは、俄かには信じられんが…、そういうことなんだろう…

 投神殿、ワシがオウブルのギルド長のジャハンだ

 お主に聞きたいことがあって着て頂いたのだ…」


『なにを偉そうにしてんのよ、ジャハン!』


 チュイ様が橙色の頭の上に立ち、ビシっと指を差してくる。

 だからやりにくいんだよ…。


「チュイ様、ちょっと黙ってて下さいませんか

 投神殿は非常に奇妙な経歴をお持ちなので、ギルドとしては確認しておかなければならない事が色々ありまして…」


『この子は善よ』


「それはそうなんでしょうが…

 属性を操るアイテムも発見されましたし…」


『ステータスの話しじゃないわ

 妾が妖精之契を交わした相手なんだから、この子は問題ないの!』


「妖精之契…!

 あのチュイ様が…?!

 それ程の者なんですか、投神殿は?」


『面白いわよ!

 投神に酷いことするなら、妾が相手になるわよ!』


「これはまた…」


 前代未聞だぜ…。

 妖精女王が契を交わした相手が、持たざる者の異世界人なんてギルド会議で言ったら揉めるだろうな。


「ならば余計に投神殿を見極めねばなりません」


 話しの内容を理解してるのか分からない、涼しい顔でこの状況を眺めている投神殿にぐっと覗き込み、問う。



「投神殿は何の為にこの世界に来られたのですか?」


 彼の答えいかんでは、混迷しつつある人の未来がさらに混沌としたものになる。



 ワシは固唾をのんで投神殿の言葉を待った…。


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