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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第1章 岩ばっかりの異世界でスローライフ(Throw Life)!
52/177

52、即投

 幽霊小隊を倒した部屋を出る。

 いつもの罠を流星錘で潰しながら通路を進む。

 たまに出てくるスライムがアクセントとなって、適度な緊張感を保ってくれる。





「部屋だ…」


 門はないが、開けた場所がある。

 注意しながら進むと部屋の中央には岩でできた卵のようなものが生えている。

 宝箱だ。

 中に何か物品が入っているはずだ。


 そしてこの部屋に奥へと続く道は無く、行き止まりのようだ。


「ということは最初の分岐点を左に進まないといけないんだな」


 とりあえず宝箱を割り出してみると、そこには布と革でできた板のようなものが2枚出てきた。


「これは、もしかしてサンダルか?」


 板に足を乗せ、板に繋がっている布を足首に巻いて板を固定してみる。


「良いじゃん!

 これでマキビシも怖くないぞ!

 いや鉄製のは貫通するか…」


 靴を履くのは何だか久しぶりだ。

 ツルツルとした岩場ばっかりだったから気にならなかったが、戦闘するならしっかりとした靴が必要だ。

 サンダルでも有り難い。


 何より文化的にレベルアップしたぜぃ。



 この部屋はこれ以上の発見はなく引き返すことにした。





 通路の罠は全て発動させたが、たまに新たな罠が発生するので気は抜けない。


 ピキッ…


「んん?」


 ……ピキッ ピキ ピキッ


 何か硬い音が聞こえる。

 割れるような音だ。


 ピキピキッピキピキ…!


 壁だ!

 壁に亀裂が入っている。

 ポロポロと岩の破片が落ちてきたかと思うと、壁に魔法陣が発生した!

 光の中から生まれ落ちたのは、銀狼だ!

 前の銀狼もこうやって通路の壁から出てきてたのかな。


 グルルルルルルル…!


 出てきていきなり威嚇ですか。

 犬には好かれるタイプなのに!

 人と相容れない、そういう存在なのだろう。



「天現捨投流 投神、参る」


 犬好きだけど、全力でいかせてもらう!

 素早い敵には、その反射神経を上回る飽和攻撃だ。


「八つ石、力を!」


 ビニール袋に丸ごと投気を込めていく。

 そしてボトボトと床に落とした。

 石を撒いた中心に正座。


 敵の姿が小さくなって威圧感が減ったのを好機と捉えた銀狼が飛び出してきた!

 なんと素早い。

 しかし俺は心を乱すことなく、背筋を伸ばす。



「居合投げ」


 座ったままの姿勢を崩さず、無駄のない美しい所作で石を連続で投げて迎撃!


 赤石の炎に驚いたところに電撃を浴びせ、角石で足を破壊し縞石で深手を与えた。


 仕上げだ。


 片膝を立てて、大剣を肩に担ぐ。

 長大な剣だから切っ先は地面についたままだ。


 シュンン……ッ


 影を置いていくかのような神速の踏み込み!

 僅か数歩で銀狼に接近すると、大剣を一本背負いをするように投げつけた!


 ズバンッ‼


 大剣はさしたる抵抗もなく巨大な銀狼の頭を真っ二つに分断した。

 






 壁から生まれたばかりの銀狼は、床に溶けるように消えていった。

 謎の水溜まりに残されるのは、いつもの小石と牙2本。

 これで銀狼の牙は4本になったが、特に使い道は見つかってない。


 狼牙棒とか?


 んー、打撃武器は微妙だなぁ。


 牙に価値があって文明圏に行ったときに換金できた、なんてことになればラッキーなんだが。

 牙をネックレスの飾りに採用する民族は結構いるしな。

 捨てずに残しておこう。




 ダンジョンの敵の出現パターンだが…、門のある部屋は確定で敵が出てくる。

 それ以外にもランダムで壁からも敵が出てくる。

 そしてその敵は通路内を自由に徘徊している…。


 という感じか。

 初めて戦った銀狼は走っできたからな。








 最初の分岐点に戻ってきた。

 これを左に行くと未開拓方面だ。

 体、精神、装備、時間。

 全て問題なし。


「進むか」





 ふむ…。

 罠はあるんだけど、数が極端に減ったな。

 スライムもいない。

 逆に緊張感が高まるわ〜。

 知らない間に巧妙な罠にかけられているんじゃないか…?

 あり得る。

 投げ集中が途切れないよう注意しなければ。



 右方面は全て行き止まりだった。

 あの少女をおそらく救出しに来た6人組は、この左方面から来たと思われる。

 まぁテレポーテーションなんか使えるから奴らだから、どこにも繋がってないかもしれないが…。

 あの囚われていた少女…、なんて呼ばれてたかな?

 セ何とか…ちゃんは、子供の足で歩いてきただろうから、何か方法がある筈なんだ。

 なげ池の水を使い切るまでに、それが見つからないとアウトだ。

 モンスターに勝てても乾きには勝てない。


 タイムリミットは近い。









「門だ…」


 通路にようやく変化が現れた。

 ここに入ると魔法陣が強敵を呼び出す筈だ。

 気合を入れ、ミズカマキリ槍に投気を込める。


 門を潜り、何もない部屋の中央付近に進む。

 やはり魔法陣が光り、敵影を産んだ。


「こりゃまた珍妙な!」


 ライオンの胴体にライオンの頭がついてるんだが、山羊の頭を無理やり生やしてる。

 頭が二つのモンスターが多いな…、いや!

 尻尾が蛇だ!

 3匹の生き物を何者かが悪戯に合体させたような、不自然なモンスターだ。

 絶対喧嘩になるって!

 ライオンと蛇は肉食で山羊は草食。

 山羊さん逃げて!


「誰が産み出したのか分からんが、生命に対する冒涜だ

 先手必勝!

 切り裂けっ、水の刃!」


 バシュンッ ズバァーーーー!


 尻尾の蛇がミズカマキリ槍に向かって火を吐いたが、投気をたっぷり纏った槍は止まらず、水の刃で3頭の頭を跳ね飛ばした。


「お、おおー!

 やったか?」


 フラグを立てるようなことを言ってしまったが、無事に速攻で怪物を倒せたようで、怪物は水となって消えていった。

 怪物の強さは分からなかったが、相手の実力を発揮させないまま屠るのは流派の教えに沿うものだ。

 これで良い。


「しかし、あの怪物どっかで見たことあるような…?」

 フィフドラではない。

 どこかの国の神話に出てくる怪物に似てるような…。


「まぁ良いか」


 何者であろうと出現したら、“即投”だ。


 謎の水溜まりの中にはいつもの小石と、爪のようなものが3枚残されていた。

 これもとりあえずキープ。




 さらに奥へと進む。

 やはり罠は少ない。


「お、スライム」


 壁に擬態しているスライムではなく、床にボヨンとした塊で蠢いている。

 これぞスライムという感じだ。

 鮮やかな黄色で、よく見ると核のようなものが体内で動いてる。


 試しに核を突いてみよう。


「流星錘っ」


 シュワッ! パシッ


「ありゃ?」


 溶けた…。

 小石が出現する。


「弱い…?」


 核を小突くだけで倒せるなんて、これはスライムの幼体かもしれないな…。

 いやいや侮ってはいけない。

 ゴブリンの群れのように、何百匹と一斉に襲ってこられたら厄介だ。

 気合を入れて進もう。




 その後、もう一度あのピキピキ音が聞こえてきたが、フライング気味で角石をぶち込んでしまった。


「即投!」


 シュンッ! バギンッ!


「あ、すまん」


 光り始めた魔法陣を破壊したようで、敵が出る前に終わってしまったようだ…。

 申し訳ないが、楽チンで良いか。







「分岐点か…」


 左方面で初の分岐点。

 まだ進めるが、時間的に帰り道を考えると帰るべきだな。

 右方面はどこにも繋がってないことが分かったから、良しとしよう。


 魚皮紙に簡易な地図を書き込み、引き返した。








 スライム以外の敵には出会うことなく、地上に戻ることができた。


「夕暮れだ」


 雄大だな。

 生きてるぜ、シュナイデック!

 朱に染まる大地にサムズアップを決めていると違和感に気付いた。


「あら?」


 拠点の武器庫近くに巨大なモニュメントになっていた塔が見えない。

 最近はあれを目印にしてたんだが。


 何か異変でもあったのか。

 流星錘走法で拠点に向かった。





「っあー、崩れたのかぁ…」


 巨大亀を大地に縫い付けていた塔は、高熱によって急速に劣化、風化して倒れたようだ。

 そして倒れた衝撃で粉々に砕け、軽石のような脆い小石がぶちまけられている。

 亀の灰やら燃えカスのようなものも一緒に散乱しており、辺りはひどい有り様だ。

 そういった塵の一部は風に飛ばされ、かつて湖だった窪みに吹き溜まっている。 


 これは掃除が大変!

 いや掃除しなくて良いか。

 幸い高台に作ったなげ池には、塵は入っておらず安心した。

 水を飲み、アクエルオー様に補給して早めに休むことにした。








「何だこれ?」


 次の日の朝起きると、湖があった場所の風景が一変してしまっていた…。


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