15、今日は投槍を作ってみましょう
採石場は今や武器庫として変貌を遂げた。
円盤投げ用の四角い石板はもう数えられない程にある。
10年分ぐらいだ。しらんけど。
苦無、投げナイフ、槍の穂先、斧の刃も10セットはあります。
投げごろサイズの岩のかけらは、星の数ほど用意してます。
石組みの小屋もありますよ。
地震がきたらヤバいですが、雨風はしのげるでしょう。
ゴブリンなんぞ、なにするものぞ!
どんと来い!
これだけ用意してこなかったら寂しいぞ!
「ん?夕方か…」
この世界の太陽が地平線に向かって落ちようとしている。
今日も色々あったから確信は持てないが、地球の一日の時間とこの世界の一日の時間はだいたい同じぐらいに感じる。
暗くなる前に夕食の鯉を食べて、高台の寝床戻ろう。
相変わらず燃え続けている流木。
だいぶ水分が抜けて干物のようになってきた。
いわゆる『焼き枯らし』というやつだ。
肉厚過ぎる部分を食べ、生っぽいところに火の熱があたるようにセットし直す。
そして獣のように行儀が悪く豪快に水を飲んだ。
「ふ〜水がうまい!」
ザバッ!バシャバシャバシャ!
『うわっ!』
湖の少し沖のほうで何かが跳ねた。
何かはわからないが、とてつもなくデカそうな音だ。
魚っぼい。
急いで水から離れる。
心臓がバクバクする。
少し待ってみたが、もう何も起こらずに静かな湖面があるのみとなった。
「あの鯉よりもデカいやつがいる…」
魚なら水に入らない限り危険はないが、もし狩ることができればかなりの量の食料となるはずだ。
明日は槍か銛を作ろう。
ゴブリンの槍が3本あるが、もう少し数が欲しい。
暗くなる前に高台に戻り、念のためあたりを見渡した。
何もない。
さしあたっては安全なのだか、長期的には不毛過ぎて危険なところだ。
この圧倒的に何もない大地は、俺を縛るものもないんだ。
そして圧倒的な自由だけがある。
アスリート界からのプレッシャー、チャンネルの視聴回数の増減、鬼プロデューサーの視線、天現捨投流の後継者問題と秘匿されることへの不満、親戚との軋轢、将来の漠然とした不安。
ここでそれらから全て解き放たれた。
生きて、殺して、死んでいく、単純で根源的な行動原理しかない。
気に入ったよ。
もしかしたら望んだ結果、ここにいるのかもな。
いつの間にか夜空が広がり、現れた大小二つの月を見ながら、そんなことを思った。
ヘビトンボの羽3枚を布団がわりにして寝転ぶ。
今日も月が綺麗だ。
大きい方の月はまん丸から少し欠けてる。
この月は見慣れた感がある普通の月だ。
記憶のなかの地球の月の模様と似ている。
小さいほうの満月の月はすごい違和感がある。
存在感が薄い。
少し透けているように見えて、幻のようだ。
色も青紫っぽくて、見ていると不吉な存在のように思えてくる。
二つの月のお陰で夜なのに真っ暗にならず、いざという時に動けるのは有り難いのだが…。
ヘビトンボの羽布団は心地よく、いつの間にか眠っていた。
「朝になりました!
おはようございます!
徹底投擲チャンネルの投神ですっ。
今日はね、魚を捕るための槍や銛を作るという企画でございます。
材料が乏しくてツラいですが、何とか作りあげて魚が突けるのか、というところまで検証したいと思います。
それでは〜、世界を投げ投げ!」
動画撮影している体でテンションを上げていく。
何もない世界で正気を保つためには必要なことなのだ!
さて、流木から切り出した木材の棒を柄にするとして、刃の部分をどうやって付けようか。
ゴブリンの赤いバンダナで巻き付けるか。
どうせ1回投げると壊れるだろうから、まぁ適当で良いか。
ヘビトンボの顎はトゲが鋭いので銛として使おう。
木材の先端を削り、石の根本を挟むようにセットしてバンダナで縛る。
これで投槍の完成だ。雑だけどね。
次は銛だ。
ヘビトンボの顎はパイプ状なので、柄を突っ込むようにして固定しよう。
すぐに抜けるだろうが、これも細かいことは気にしないでおこう。
先端が軽いので飛距離は出ないだろうが、魚を捕るのには良いだろう。
岩板から作った石槍は3本、顎銛は2本できた。
刃を固定する布か紐があればもっと量産できるのだが。
ゴブリンの槍も3本あるし、とりあえずは良しとしよう。
出来あがった槍を構えてみる。
陸上競技としての『やり投』の槍と比べるとだいぶ短い。
でも石の穂先が付いてるし、柄も太いから重さはこちらのほうが重い。
狩猟用だからこれで良い。
槍の重心を測るようにビョンビョンと軽く跳ねさせてみた。
重心は前方寄り、歪みも大きい。
でも異世界にきて投げの力が増した俺なら真っ直ぐに投げられるはず。
岩の壁に狙いをつけて集中してみる。
高まる集中に合わせ視界の中央が拡大されていく…!
望遠鏡を覗いたように壁が近くに見える。
「なんだこれ?」




