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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
132/177

132、勇者アッケミー

「さて、そろそろ勇者の力を見せてやろうじゃないの」


 とは言ったものの…。

 前の世界の実の息子である渉の力は異質で理解不能で、彼の力を引き出したいというのが本音だわ。

 ギルドを通して大まかな報告は受けているけど、無職ってのが本当に信じられない。

 そもそも能力値が低いんだから、こんなに動けるはずもないし。

 それにさっき私が斬ったコイン。

 あの恐ろしいEXダンジョンで手に入れたこの大剣、虚潰(きょかい)の一撃を受けて傷ひとつ付いてないのも意味が分からないわ。


 全人類の頂点たる勇者を前に平然と、むしろワクテカな顔して私の攻撃を待つ我が息子。

 記憶にある小学生の可愛らしい面影を残しつつ、逞しい漢に成長してる。

 昇には苦労をかけたわね…。

 あんな異常な家に生まれて、立派な人間として育ててくれた。

 ちょっと偏ってるし投げに固執してるけど、まぁ、あの家の者にしてはまともな方だわ…。うん。

 昇が宗家を継いでくれるっていうのもビックリだわ。

 あんなに嫌がってたのに…。

 多分、渉を守るためね。


 ありがとう。


 でもこの感謝の念は届くこともない、隔絶された世界に私たちは存在しているのよ。

 私たちが死んでも、魂はこの世界の大きな循環に還元されて、前の世界とは何ら交じることはない。

 だから私たちはこの世界を守るわ。

 もちろんこの世界に来てしまった渉も、ね。


「ドウシタ、コンノカ?」


 不敵な顔で煽ってくる渉。

 勇者に対してムカツクほど傲慢な態度だけど、同じ流派の使い手には通じないわよ。


「その挑発()には乗らないわ

 でも…、こんなのはどうかしら?」


 左手で魔素を操り魔術を行使する。

 魔声帯という特殊な器官から紡がれる呪文(コマンド)

 習熟すれば短縮(ショートカット)も可能。

 連射(コピペ)もね。


「【火球】【火球】【火球】

 からの〜、【魔剣・炎之剣】」


 初級黒魔術の火球を4連発し、最後の1発は魔剣化に使う。

 だが、これは超高レベル魔剣士ならできるものだ。

 勇者の戦い方を見せてあげる。


「歌唱・【頌歌焔山櫻雲島】」


 吟遊詩人の火系魔術の効果を高める“歌”を歌う。

 道場内とはいえ魔素量が豊富にある訳じゃないから、強い魔術をボンボン使えない。

 でも吟遊詩人の歌は魔素自体の活性を上げることができる。

 ただの火球が中級以上の威力になったわ。

 無職の一般人なら一瞬で黒焦げよ?

 どうする、渉。


「アッツゥッ!

 ダがシカシ…、マホウは投ゲルモノ」


 シュオンッ! ブォウッ


「なっ!?ぐっ…」


 火球を3つとも投げ返してきた!

 非常識にも程があるわっ!


「キャッチボールじゃないんだから!」


 1発目を食らっちゃったじゃない。


「魔剣っ」


 二つの火球は魔剣で斬り、火属性の魔力を吸収させた。

 同属性に限るけど魔剣の真骨頂よ。


 燃え盛る魔剣は恐ろしい程に火属性の魔力を溢れさせ、周囲を明るく照らす。

 中級火球四発程度の火じゃない。

 渉の投げたものは何でも威力を増すようね。

 ……意味がわからない。

 魔素を操作した気配がないのに、その力の源泉は一体何なのよ!

 この世界の魔術や魔技はこの世界の法則に従った厳格なものであり、荒唐無稽な超常現象じゃないわ。

 魔法じゃないんだから。

 魔法にしたって魔素を操るんだし。

 これじゃまるで神の力みたい…


「ドウシタ?コンノカ」


 思考の波に飲まれていた私を煽る渉。

 そうね、今は試合中を楽しませてもらうわ。


「ふふふっ、まだまだ始まったばかりよ?」


 魔素を使わないのに戦える渉は異質。

 優れた冒険者ほどその違和感に惑わされてドツボにはまるわね。

 強者と認めて戦い方を変えないといけないわね。


「【魔剣】・【連続攻撃】」


 魔剣士と闘士の合わせ技よ。

 最強の職業である勇者は、全ての職業の技を使える。

 組み合わせでは非常に強力な効果が生まれる。


「からの【飛剣】」


 飛剣は斬撃を飛ばす戦士の魔技。

 威力はそこそこだけど前衛の複数の対象を攻撃できる優良魔技なのよ。

 それが勇者にかかれば…


「【魔剣乱舞】」


 途切れることのない強力な範囲斬撃攻撃と火属性攻撃との嵐になる!

 ドラゴンだって削り切れる大技よ。

 流石に全てを受け流すことは不可能!


「ヤベェナ」


 渉は腰に下げたコンビニの白いビニール袋に両手を突っ込んだ。


「……トウキ」


 は?闘気?


「シマイシ、ドロイシ」


 渉は石を床に投げつけて破壊し、床石を引っぺがして身を隠した!


「タタミガエシ」


「畳じゃないしっ!」


 土煙と吹き荒れる炎でよく見えない。

 でも私の魔剣乱舞は床石程度で防げるようなもんじゃないわ。

 鉄すら切り裂く斬撃に荒れ狂う火属性攻撃。

 渉が居るところを中心に逃れられない圧倒的な暴力が渦巻いた。


「連続攻撃が切れたわ…って、やり過ぎた!」


 道場内は激しく破壊されている。

 …これは完全に怒られるヤツだ。

 連続攻撃後の硬直と相まって刹那のあいだ頭が真っ白になる。


「カミナリイシ」


「ぎゃんっ!」


 石を投げつけられた?!

 しかもこれは雷属性っ?!


「あばばばばばば…!」


 私の状態異常耐性を超える麻痺攻撃って有り得ないんですけどっ!

 目の端にキラキラとオレンジ色に光る渉が見えた。


 ぬるり…


 これはダメなヤツ!

 冷たい腕が首に絡みついたと思ったら視界がくるりと回転しだす。


 首をねじ切るように投げる天現捨投流の投げ技ね。

 首の骨の関節を外して脊髄を断絶させるという、命を奪う為の冷酷な技。

 これは久しぶりに道場死だわ。


「そこまで」


 あと少しで脊髄が破壊されるところでイィッタールが私の体を同方向に捻りを加えて首に負荷がかかるのを相殺した。

 荒っぽいように思えるけど天現捨投流の技を識っている者だからできる救済方法ね。


 でもなぜ介入したの?

 平衡感覚を完全に失い、一時的な強烈船酔い状態の気持ち悪さの中でそんなことをボンヤリと考えた。


「これ程までに道場が破壊してると加護が消失している可能性があるからね、介入させてもらった」


 確かに…。

 普通に死ぬところだったかも知れないわね。


「ツギはオマエカ?」


「まさか前世の母親を何の躊躇もなく殺しにくるとはね…

 アイツはどんな教育をしてきたんだ?

 宗家の継承者としてはそれで良いのかも知れないけど…」


「オシサンはイツモホンキでコロシにコイト」


「いや、そうなんだけどねっ!

 狂ってるんだよ、あの一族は!」


 前の世界でイィッタールはあまりにも殺伐としていた流派の使い手たちの環境を少しでも改善しようと奔走してたわね。

 保守的な爺婆に邪魔ばかりされていたけど。


「それにしても渉、あなたほんとに強いわね!

 イィッタール以外に道場で負けるなんて何十年ぶりかしら」


「ミンナ“ソンタク”シテンジャナイカ?」


「忖度?」


「ドウジョウアルアル

 デシはワザとシショウにマケル

 オシサンはイツモソレをキケンシシテイタ」


「…………」


 全く無いとは言い切れないわね。

 特にテンゲイン・チルドレン相手の場合は。

 そうやっていつの間にか対人戦の技術が落ちていく…。

 確かに危険だわ。


「……【完全回復】」


 念の為、高位白魔術を使って回復しておく。


「とにかく道場での試合は終了にしよう

 それからアッケミーとワッタール…、道場を破壊するとはどういうつもりなんだい?」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


「「ひぃぃ!」」


 イィッタールから本気の殺気が発せられる!

 これは本気で怒ってる!

 いつもは穏やかな微笑みを絶やさない、爽やかなイケメンが悪鬼羅刹の如き相貌と化している…。



 渉と二人で正座をして、こってり1時間ほど絞られるのであった…。


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