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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
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131、テンゲイン・ストール

「絶対に貴様のインチキを暴いてやる…!」


 聖騎士ルアンは両腕をクロスしてから左腕を軽く突き出して右腕を腰溜めにし、腰を落とし気味にして構えた。

 口元はストールに覆われて見えない。

 †昇龍の素手における構え方だ。

 しかし彼の両腕には小盾から小剣が伸びていて、打撃と刺突が一体となった攻撃ができる筈。

 彼は少し珍しいが、闘士の魔技を継承した聖騎士のようだ。


「ホウ」


 先生は感心するように頷き、手にしていた石を白い袋にしまわれた。

 そしてコインを弾くのも辞めて、両手をだらりと脱力した。


「コノセカイノテンゲンシャトウリュウ、ミセてモラオウ」


 なまりがキツくて聞き取りにくいが、ワクワクとした目でルアンの方へ無造作に歩き出した。

 まるで散歩でもするような気軽さである。


「このっ!オレンジの無職野郎!」


 ルアンは緊張の欠片も見せない先生に異様なものを感じたのか鋭い突きを繰り出す。


「なっ?」


 完全に胸の中心を捉えたと思われた剣の先に先生はおらず、少しずれたところに立っている。

 避けたのではなく、最初からそこにいなかったような不思議な感覚だ。


「ワレはオボロナリテ」


「くそっ!連続攻撃だっっ!」


 闘士の魔技、連続攻撃!

 1つの攻撃は次の攻撃の助走でありどんどん繋がっていく。

 攻撃回数が増す毎に威力も増していく闘士の専用魔技だ。

 一般的には継承しない専用魔技なのだが、何故かルアンは聖騎士でありながら連続攻撃を保有しているようだ。

 普通の闘士にはない剣による刺突と薙ぎ払いを駆使するルアンの攻撃は、本職の闘士に勝るとも劣らない攻撃力があるだろう。


 …あたればな。


 先生は大きな動きをしていないのに、ルアンの攻撃を全て避けている。

 ルアンがわざと見当違いのところに攻撃を繰り出しているように見える。


「やるわね」


 勇者アッケミー様が満足そうに頷いている。

 離れた距離から見ている私には先生の動きの秘密が徐々に見えてきた…。

 足さばきだ。

 体重の重心を相手に悟られずに移動させている。

 だから右に踏み込んだように見えて、実際は左に移動していたりするのだ。

 そしてあのオレンジ色の奇抜な装束が余計に相手を騙す効果があるように思える。

 それだけでは説明のつかない現象もあるが、攻撃が当たらない主な理由がこれだろう。


 対する先生は攻撃を避けることに専念しているのか、得意の投げを打つ様子はない。

 ルアンの攻撃後の戻しも早く、手甲に剣があるから手を取りにくいのかも知れないが…。

 先生の顔を見るに、どんな攻撃をしてくるのか楽しんでるように見える。

 わざと攻撃を控えているのか。


 点や線での攻撃で先生を捉えられないなら、範囲攻撃しかないが…。

 一般的に闘士や聖騎士には強力な範囲攻撃手段はない。

 先生の勝ちは揺るがない。

 ルアンの連続攻撃が終わり、硬直状態になっても先生は手を出さない。


「くそっ、なめやがって!

 …それに父さん母さんのような動きをしやがって!」


「当たり前よ

 彼も私たちの子供で、†昇龍の“使い手”

 しかも師範クラスのね」


「なっ…?!」


 ルアンは驚きのあまり先生の事も忘れてアッケミー様の方に全ての意識を向けてしまう。


「シアイをナメルナ!」


 先生は叱責するといつの間にかルアンの懐に入り、顎に手をかけると二人で舞を舞うように回転する。

 首元からストールが外れ、優雅に流れていった。


 ゥゥゥズガンッッ!!!


 二人の体重と遠心力でルアンの後頭部を叩き潰すように地面に投げつけた!

 道場の床を破壊し、ルアンの頭部は完全に地中にめり込んでいる。


 パリィィィンン


 一撃死か…。

 この有様ならさもありなん。

 先生のこの強力な投げ技が魔技として昇華されていないのが不思議なぐらいだ。


 …いや、そうじゃない。

 発動すれば半自動で行われる1つの型として安直に固定してしまうことによって、多くの冒険者たちは自由な発想や臨機応変な対応力を失っているのだ。


「勝負あり」


 イィッタール様が静かに試合の終了を宣言した。

 先生はストールを拾い、ルアンの首元を隠すように置いた。


「ツギはオマエカ?」


 そして最後に残ったテンゲイン・チルドレンのバリンに視線を送る。


「ななななに言ってんたよ!

 俺っちは前衛職じゃないんだから戦闘はパスだ!」


「オマエガイチバンツヨイダロ」


「んな訳ねーだろ!

 俺っちはしがない斥候なんだからっ!」


「…ヨクワカラン」


「とにかく俺っちは3人に連れられてきただけだから、パスだパス!」


「フーン…、デはオワリカ?」


「待ちなさい

 私が相手をするわ」


 勇者アッケミー様が進み出られた…!

 獰猛な笑みを浮かべて指を鳴らしている。


「ホウ…?」


 まさか勇者が直々に試合をするなんて…。

 数十年前までは勇者様がたは各地の道場や施設でよく稽古をつけていたというが、最近は実年齢が御高齢なこともあり控えていると聞いていた。

 息子であるという先生の力の魅力に惹かれたのだろう。

 アッケミー様は単純な戦闘力でいえば勇者イィッタール様よりも数段上という噂だ。

 そんな彼女相手に先生はどう対処なさるのか…。


 まぁ投げるだけだろうが。


「解析は試合の後にするわ

 フェアじゃないものね」


 アッケミー様は準備万端という感じで身体中から闘気か吹き出しているかのようだ。


「ナゼ、“テンゲイン”ナノダ?」


「えっ…⁉ あ、†昇龍(テンゲイン)…?

 この世界ではこう発音したほうが通じやすいのよ

 それと…かっこいいかなってゴニョゴニョ」


「ホウ…?」


「イィッタールとこの世界にテンゲインを広めようと決めたときのテンションがおかしかったのよね…

 で、ある程度習得できた者にはストールを授けようって」


「ダジャレカ」


「は、はい…スミマセン」


 無表情でコインを弾く先生は怖い…。

 アッケミー様は助けを求めるようにチラチラとイィッタール様を見ている。


「…はじめ」


 あ、逃げた。


「ちょっと、イィッタール!

 …もぉっ、締まらないけど始めるわよ、ワッタール」


「エ、ア、ウン…」


 アッケミー様は収納から大剣を出して装備した。

 身の丈程もある無骨な大剣だ。

 対人用のものではなく、明らかに魔物用のものだ。

 アッケミー様のか細い腕には不釣り合いだが、超高レベルの勇者の能力値なら余裕で振り回せる。


「この世界で花開いたテンゲインストールの力、見せてあげるわ」


「タノム」


 アッケミー様が神速で踏みこみ、棒切でも振り回すように大剣を真横に薙いだ!

 空気が斬れる破裂音。

 先生の胴を切り裂いたかに見えたが、片手で剣の腹を叩くようにして少し後ろに飛び退いた。

 アッケミー様は少しバランスを崩されたようで、剣の勢いでくるりと回転した。


「……今のは何?」


 回転をビタリと止めて先生と向き合うアッケミー様。


「投ゲタダケダ、ケンをナ゙」


 あの音速を超えるような剣筋に手を添えて、投げたのか。

 理解不能だが、素晴らしい。


「…無職のワッタールがなぜ剣を捉えられる訳?」


「ケンは投ゲルモノ」


「ワケ分かんない」


「オマエノチカラはソンナモンジャナイノダロウ?」


「生意気ねー!

 母さんが再教育してあげるわ

 ……闘気!」


 闘士の専用魔技である闘気を発動した。

 アッケミー様は本気だ。


「いくわよ、連続攻撃」


 ドンッ!と地面を陥没させる程の爆発的な踏み込み!

 草を薙ぐような低い薙ぎ払い。

 先生は片足を上げてやり過ごしたが、その斬撃は次へと続く攻撃の序章。


「ワレはオボロナリテ」


「ハッソウジンは通じないわよ!」


 アッケミー様はさらに回転して剣を跳ね上げる。

 先生の立ち位置から少し離れた場所に突きを入れたように見えたが、剣先は先生を浅く捉えた。


「ヤルナ」


「当たり前でしょ

 前世では一流の使い手だったんだから、ねっ!」


 まだ攻撃は止まらない。

 連続攻撃はどんどん威力を増していく。


「とったー!」


 バチィンッ!


「ちっ…!」


 先生を追い詰めたように見えたが、先生ではない何かを斬りつけてアッケミー様は距離を取った。

 当然連続攻撃は解除されている。


 チリーン…


 コインだ。

 二人の間にコインが落ちてきた。

 いつの間にか先生が指で弾いたに違いない。


「指弾で目を狙うなんて、平和ボケはしてないようね」


「イロイロアッタカラナ゙」


「良い師に恵まれたのね…」


「ソウカ?」


「転移してきてこの世界の価値観に馴染めてるのか心配したけど、大丈夫なようね」


「ヨクワカランガ…

 コロシテモシナナイナンテ、サイコウジャナイカ」


「うふふふ、良いわねぇ

 まだまだ母さんの力はこんなもんじゃないわよ?」


 アッケミー様は嬉しそうに舌なめずりをした。


 先生は同じように獰猛な笑みを返す。


「キタイシテイル」


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