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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
130/177

130、試合

「圧倒的だ…!」


 投神先生は聖騎士アイラを歯牙にもかけないで地面に投げつけている。

 傍から見ていると、わざとアイラが投げられにいっているようにさえ見える。

 それほど自然な流れなのだ。

 他のテンゲイン・チルドレンたちは投神先生の強さを理解できず、アイラのほうを責めている。


「アイラ、何をやっている!」

「しっかりしろ!自滅してるだけだぞ!」


 そう、そのようにしか見えないだろうな。

 レベルや職業だけに囚われた者には。


「オマエノチカラはソンナモノカ?」


 先生が煽る。

 これも精神的な崩しの一環に違いない。


「くそぉぉぉーっ!」


 高く飛んでは的になるだけど理解したようで、高速でジグザグに移動して先生に接近する。

 先生は動けていない。

 背後を取られた!


()った!」


 高速移動からの斬り下ろしは先生の脳天を唐竹割りにしたように見えた!


「アマイ」


 シュンッ! ズガガーンッッ!


「な…?」


 何が起こったか分からないが、アイラは頭から地面にめり込んで逆立ちするような格好になっている…。


 パリィィィンン…


 何か硬いものが割れるような音が響く。

 生命を落とす程のダメージを受け、道場内における試合時の加護が発動したのだ。

 戦闘不能だが瀕死状態で生き残ったのだ。


「ホホウ…!」


 先生が興味深そうに観察している。

 私も試合で何度か瀕死状態になったことがあるが、心が折れそうになるキツい体験だった。

 生き残ってはいるのだが、何か心の大事な部分が壊されていく気がするのだ。


 アイラは薄っすらと光を纏い、静かに横たわった。


「……オワリカ?」


「しょ、勝負ありっ!」


 先生は物足りないのか、それともまだ戦えると思っているのか戦意に満ちた目でアイラを見ている。


「な、何て奴だ!」

「試合のマナーも知らんのか!」


 聖騎士の二人が先生を非難する。

 道場の加護が発動した場合は速やかに戦闘を辞めて相手を救護しなければならないとされている。

 異世界からきた先生はそんなマナーを知らないだろうが、テンゲイン・チルドレンたちは先生の事情を知らない。

 勇者イィッタール様も驚かれたのか、判定が遅れたように思える。


「許せん!俺が相手だ!」


「ボウヂャ、頼むぞ!」


 筋骨隆々のボウヂャと呼ばれた聖騎士が進み出た。

 見た目はほぼ重戦士のそれだ。

 重戦士の魔技を継承しているのだろう。

 転職する際に一部の前職魔技を継承することができる。

 上級職である聖騎士は重戦士から転職する者が多く、その場合は重装備で固めてタンク、もしくは一撃必殺のアタッカーを担う。

 この者は巨大な盾を装備しているからタンクよりのスタイルなのだろう。


 隙の少ない超重量のこのタンクは先生にとってやりにくい相手に思えるのだが、大丈夫だろうか…。


「ツギはオマエカ…」


「続けて大丈夫か?

 …問題なさそうだな、それでは

 はじめっ!」


 勇者が再び手刀を斬り、試合開始の合図を出す。


 ボウヂャは盾を構え、不動の姿勢だ。

 今まで見た先生の技は全て後の先、カウンターだ。

 ボウヂャも武器は持っておらず、相手の攻撃に合わせてシールドバッシュを当ててくるカウンター狙いだ。

 膠着状態になるだろう。

 先に仕掛けたほうが不利なだから。


「コンノカ…?」


 先生は動きがない相手に戸惑っているようだ。


「投ゲテヨイノカ?」


 先生は勇者イィッタール様に恐る恐る確認をとっている。

 マナー違反とならないか気にされているようだ。


「大丈夫ヤデ、ナニをシテモ」


 イィッタール様は古代語と思しき不思議な響きのする口調で答えられた。


「ナニをシテモ…?

 グフフフ…」


 先生はいっそ邪悪に見える程の凄惨な笑みを浮かべている。

 また圧倒的な技を披露されるのだろう。


「キョウミガアッタノダ…

 冒険者に“イシ”ノチカラガドコマでツウジルノカ」


 先生は腰の不思議な白い袋に手を突っ込んで、石を1つ取り出した。

 ただの石ころではない。

 先生の故郷、異世界の不思議な力を持った石だ。


「ふんっ、石に何ができる?」


 ボウヂャが嘲笑う。

 先生はピョンと一飛びしてボウヂャから距離をとった。

 軽く飛んだだけで何故こんなにも飛距離が出るのか不思議だ。

 果たしてその異様さに彼は気づいたのだろうか?

 気づいたなら最大限の警戒心を抱く筈だが…。


「そんなに離れてどうした?

 怖じ気付いたか!」


 …駄目だな。

 慢心は身を滅ぼすという典型例になるだろう。


 先生は静かに構える。

 ボウヂャは嘲笑を隠さない。

 一般的に、この二人の距離ではほとんどの魔術、魔技の効果範囲外なのだから彼の油断も理解できなくはない。

 道場内は魔素含有量も多く、数回なら大規模な魔術も使うことができる。

 そして魔素には伝達限界があり、その効果範囲は冒険者なら敏感に感じとることができる。

 だから彼はこの距離なら何も起こらないと判断してしまったのだ。


「愚かな」


 私の呟きに、彼は我が意を得たりという顔を向けた。

 救いようがないな。


「………………」


 先生が小声で何かを唱えている…?

 何かの呪文なのだろうか。

 魔素に動きはないから魔術や魔技ではないようだが…。

 でも、何かが先生の中で高まっているような気がする…!


「…絶対切断!分かて“縞石”!」


 シュンッッ! ピィンッッッ…


「「「あっ…」」」


 パリィィィンン…


 一撃…!

 石の一撃でボウヂャの装備が全て上下に分断されてしまった。

 もちろん中身の彼も分断された筈だが、道場の加護で死んではいない。

 瀕死状態で踏みとどまって、ゆっくりと横たわっていく。


「ホホウ…?」


 また先生はその加護が発動される様子を興味深そうに観察している。


「お、お前っ!何をしたっ!!」


 みな魔素伝達限界を超えて不思議な力が発現したことに呆気に取られていたが、残る三大聖騎士の一人であるルアンが叫んだ。


「イシを投ゲタダケタ」


「五月蝿いっ!石を投げただけでボウヂャが真っ二つにされる訳がないだろっ!

 イカサマだ!何かイカサマをしたんだっ!」


 その主張は先生に向けたようでいて、勇者様に何か言い訳をしているように感じる。

 彼らテンゲイン・チルドレンは良くも悪くも勇者様がたにしか興味を持っていない。

 愛に飢えた子供のように。

 今回の件も勇者様がたが興味を示した者を排除して、勇者様がたを独占したいが為の行動…。


「チルドレン…か」


「…勝負あり

 また宣言が遅れてしまったね」


 静かにイィッタール様がルワンの追求を無視して声をかける。


「さてルアン、君も投神と試合をするかい?」


「あ、当たり前ですっ!

 僕がこの無職の化けの皮を剥がしてくれます!」


 名前を呼ばれて落ち着きを取り戻したルアンがビシッと先生を指差した。


「ツギはオマエカ」


 倒れたボウヂャを観察していた先生がゆらりと立ち上がる。

 それだけで私にはわかる、先生は強者だ…。


 職業やレベル、その者の装備、そこから推察される魔術や魔技の構成を感じ取ろうとするあまり、我々は大事なところを見る力が衰えているのではないだろうか。

 だから先生の強さを理解できない。

 これが試合ではなく、本当の生命のやり取りならば先生はもっと辛辣に効率良く生命を刈り取ってくるだろう。

 先生や勇者様がおられた異世界というのは、魔人の世界よりも殺伐とした修羅の世界に違いないな。


「いくぞ無職!

 貴様のイカサマを暴いてやるっ!」


 ルアンは装備から小盾と剣が合体したような手甲を出現させて両手に装置し、高らかに宣言した。


 そしてイィッタール様が試合開始を告げる。


「はじめっ!」


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