表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
129/177

129、道場

 俺たちは勇者である両親に連れられて城内の中庭にある建物にやってきた。

 小さいが小学校の体育館のような雰囲気だ。

 父さんはその建物に踏み入れ、一礼をした。

 続く母さんもそれに倣う。

 何たらチルドレンという、おそらく両親が設立した孤児院出身の冒険者たちも自然な様子で一礼をして入っていく。

 良いではないか。

 もちろん俺も一礼をし、心を糾して“道場”に入らせて頂いた。


 上座には祭壇があって女神像が祀られている。

 皆は揃って正座をして像を伏し拝んだ。

 この世界では本当に女神と呼ばれる存在がいるらしい。

 皆の祈りも真剣そのものだ。


「よしっ、ほな“試合”を始めよか」


「試合?」


 その言葉に何か特別な意味でもあるような言い方だ。

 

「せや、“試合”や

 ゲーム風に言えば“チュートリアル”やな」


「…俺はゲーマーじゃないから、そんなもんは知らん」


「……はぁ

 ここは初心者が戦い方を学ぶところなんや

 生命を失うほどのダメージを受けても、必ず瀕死状態で生き残ることができるんやで

 HP1でな

 この道場内で女神に祈りを捧げた者はな」


「何それ、超良いじゃん!

 前の世界でもあれば良かったのにな」


「だよね〜

 ちなみにこれはマジダン3で実装したシステムなんだよ

 初期段階でゲームを挫折する人が多かったからね…」


「そやな〜

 2から戦闘訓練用の木偶、通称“打ち込みくん”が登場して、初心者救済には力を入れてたんやけど…」


「ダンジョンに潜らずに、ひたすら打ち込みくんをしばき倒すゲームになっちゃったのよね…」


「よく分からんが、早く殺ろうぜ」


「あぁ、あんなに可愛かったワタルが…

 こんなに戦闘狂になってしまうなんて!

 ノボゥルの奴、どんな教育したのよ!」


「血や、脈々と受け継がれてきたアッカーミン家の血が悪いんや!」


「俺がこっち来たから赤峰家の血は絶えたがな」


「ノボゥルのミニーイェマ家も同じよ

 表向きに名字を変えてるだけで、アッカーミン家と同じ血筋なのよ」


「あ、だから宗家を峰山家に移譲する際に割とスムーズだったのか」


「えっ?!移譲したの…?

 よくあの頑固ジジババ連中が承諾したわね」


「大変だった…!

 って、そんなことより試合が殺りたい!」


「あぁなんて獰猛な笑みなの…!」


 母さんがニマニマと笑いながら頬に手を当てている。


「お父様お母様、戯言はそこまでにして頂けますか…!」


 あ〜イケメン犬貴族王子が牙を剥いてらっしゃる。

 今にもガウガウと吠えられそうだ。

 そんな事を言うと差別やひどい侮辱にあたるかも知れないので、容姿のことについて言及をしてはいけない。


「君から殺るのか?王子様」


「王子様?」


 あ、しまった。

 名前が分からないからイメージを口走っちゃった。

 キョトン顔もイケメンだな。

 種族差別にはならないから大丈夫と思いたい。


「あ〜何でも良いからかかってこい」


 誤魔化すように手招きしてしまう。


「……良いでしょう

 私が冒険者の強さ、厳しさを教えて差し上げます」


 ちょっとこっちが悪者っぽくなっちゃったけど、このまま勢いでいってしまおう。


「好戦的やな〜、ほないこか」


 細かい説明は無しか。

 アフガンハウンド王子は細長い剣を抜き、小さな円盾を構えた。

 真剣か〜、善き善き。

 それに対して俺が武器も出さずにコインを弾いているのを見て、王子は侮辱されたと思ったのか恐ろしい顔つきになっている。

 巨大な肉食動物を前にしたときのような恐怖を感じるな。

 まぁダンジョンで慣れたけど。


 父さんが俺と美犬王子の中央に立ち、軽く手刀を掲げた。

 まぁ、前の世界の道場内での試合と思えば良いか。

 ワクワクすっぞ!

 何をしても死なないなんて、超素敵仕様じゃないか!


「はじめっ!」


 手刀が振り下ろされ、父さんは素早くバックステップで離れた。


「身の程を知れ、下郎!

 †昇龍・抜刀っ!」


 ふらりと身体が沈んだかと思うと、爆発的な早さで踏み込んで剣を突き出してきた!

 まるで瞬間移動、これは縮地だ!


「あー悪ぃ、これ知ってるわ」


 シュンッ ズガーンッッ!


 無駄を一切削ぎ落とした神速の突きは、恐ろしく早いのだが素直過ぎる。

 伸び切った腕を捉えて、その勢いを利用してやれば簡単に投げられる。

 激しく背中を打ち付けた美犬王子は大の字になったまま呆然としている。

 そして俺は落ちてきたコインをキャッチしてまた弾き上げた。


「な…、なんだと?

 初見殺しの抜刀に返し技を合わせやがった⁉」


 爽やか青年くんが驚いてる。

 確かに初っ端にあれをやられると対応が遅れることもあるだろう。


「初見じゃないんだよね…

 残念ながら」


「それでも無職のお前が投げ飛ばせる訳がないだろ!?」


「起きろっ!アイラ!」


 筋肉くんが重低音で叫ぶ。

 その轟音が届いたのか、美犬王子が上体を起こした。


「な、なにが…?」


 軽い脳震盪ですね。

 お師さんならバケツの水をぶっかけやがる。

 おのれっ!


「滑って転んだんだよ

 さぁ仕切り直しだ」


「くそっ」


 悪態をついて美犬王子は力強く立ち上がり、剣を構えた。

 善き善き。


「この私に恥をかかせたことを後悔させてくれるっ!」


「はーい」


 俺は一定のリズムでコイントスを繰り返す。

 相手は意識的にも、無意識でもこのリズムでタイミングを計ってしまう。

 つまり俺はこの場のタイミングを支配していると言える。


「いくぞっ!、?」


 シュンッ ズダンッ!


「ぐわっ!?」


 さっきと同じ所に同じポーズで投げ付けてやる。

 流石に脳震盪は起こしてないようた。


「な、何故?!」


 それはね、踏み込む瞬間にコイントスのタイミングに変化をつけたから、身体が反応しちゃったんだよ。

 それに気を取られた瞬間を捉えれば、投げることは簡単なのである。

 単純過ぎてタネ明かしするほどでもないよね?


「どんどん来い

 お主はまだ死んでない」


 HP1で生き残る、というのを見せてくれ。


「ひ…」


 美犬王子は顔を引き攣らせ、飛び上がって距離を取った。

 ちょっと笑い方が怖かったかな?

 反省、反省。


「準備運動は終わりにして、さぁ始めようか!」


 身体もほぐれてきただろうし、侮りも消えただろう。

 お前の実力を見せてくれ。


「ぐ…!

 私は!栄えあるテンゲインチルドレンの中でも三大聖騎士に数えられる超高レベル冒険者だ!

 無職の一般人に劣る筈がない!」


 恐怖を振り払うように高らかに宣言すると、華麗なステップを刻みだした。

 美しい長髪を弾ませて躍動する姿に見惚れてしまう。

 次第に大きな動きになり、距離感や呼吸が取りにくくなった。

 動きに取ってつけた感がなく、これか本来の彼のスタイルなんだろう。


「ふふふっ、アイラは軽戦士の魔技を引き継いだ聖騎士なのよ?

 無職のワタルはどう戦うかしら」


 母親に無職と言われると精神にダメージを食らうのは何故だろうか?

 前の世界ではブロキャサーとして結構稼いでたしぃ!

 今は無職でお金もあんまり持ってませんが!


「いくぞ、下郎!」


 華麗なるステップで自信を取り戻したような美犬王子が壁を蹴って三角飛びで襲ってくる。

 おーおー立体的!


「指弾」


 パキィン!


「なっ」


 シュン ズダーンッ!


 はい、また同じところに同じポーズで投げ落としました。

 指弾でコインを投げつけて剣に当て、少しバランスを崩してあげました。

 この世界の人はジャンプ力がエグいんだけど、ジャンプしてからの軌道はホント読みやすいんだよね。

 空中で軌道を変える工夫がないと、的にしかならないよ?


「じゃあ、互いの実力も推し量れたところで、HP1状態を見せてもらうよ…

 ぐふふふ…」


 コインをトスしながらゆっくり美犬王子に近づいてく。


 すると静まり返った道場内に甲高い悲鳴が響き渡るのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ