126、マジ?
「やっぱりワッタールなんた…!」
この世界で勇者と呼ばれる存在である母さんがワナワナと震えている。
記憶にある母さんの姿とはかけ離れているので変な感じなんだが、それでも自分の母親だと魂で理解できるのが不思議だ。
「ワッタールッ!」
「ぐわっ…!」
凄まじい踏み込みの速さ!
あっという間に組みつかれられて締め上げられてしまう!
翡翠より強いぞ、こりゃ。
骨が軋んできた。
だが、同じ轍は踏まんぞ!
「投げる!」
ズガーンッ!
コインを指弾で弾いて母さんの内足を刈り、バランスを崩したところに腰投げで背面側に投げ落とした!
「どうだ!」
頑丈そうな床が母さんを中心に放射状にひび割れ、砕けている。
「ななな何やってんですか、投神様!」
「どういう親子の再会の仕方よ…」
組みつかれた際に頭の上から振り落とされたチュイが呆れ、クノイチさんが抗議の声を上げる。
「いたたたた…」
後頭部をさすりながら母さんは起き上がった。
「いきなり母親を投げ飛ばすとは、どういう教育を受けた訳ぇ?!」
手加減したとはいえ、なかなか強烈な投げが決まったのにダメージは少ないようだ。
やるな。
「しかも今のは天現捨投流の投げだね」
入口から穏やかな男の声がかかる。
父さんのようだ。
こちらも前の世界の姿とは違う。
相変わらずイケメンだが。
「やぁ父さん
生命の危険を感じたから投げた
正当防衛だよ」
「その技、誰から学んだんだい?」
「お師さん…
峰山昇おじさんだよ」
「アイツか…」
父さんは目を閉じて、何をか想う。
しばらくすると、顔を上げて俺を見る。
「ワッタール、大きくなったね
ちょっと場所を変えて落ち着いて話そうか
アッケミー、大丈夫かい?」
「大丈夫よ、イィッタール
じゃワッタール、ついてきて!」
母さんは何事もなかったように父さんの後を追う。
「私もついて行ってもよろしいでしょうか?」
「いいわよ、でも他言無用ね」
「はい!」
こうして一部破壊された部屋を離れ、皆は小さな応接間のようなところに入った。
全員が席につくとメイドさんがお茶を出してくれた。
本物のメイドだ。
ダンジョン内で戦ったことのあるメイドと違って優しげだ。
いや、このメイドも戦えば強いかもしれないが…。
「やっぱりメイドに興味があるのね、ワタル」
何故かニヤニヤしながら母さんが悪戯っ子のように聞いてきた。
「あ、いや、ダンジョンで戦ったメイドと随分違うなと思って…」
「あぁ…」
「この世界はゲームのシステムが反映されているからね…」
「ゲーム?」
「ワッタールもびっくりしたでしょ?あまりにもゲームの世界とそっくりで」
「僕も記憶を取り戻した時は混乱したけど、テンション上がったね!」
何だか二人が盛り上がっている。
「っていうかワッタールは何でそんなザ日本人みたいな姿なの?」
「は?俺、日本人だし…」
「ちょっと待て、ワッタールは“∠Ω∝∂”してないのか?」
「あ!」
コイントスして投げ耳を立てていても聞き取れない言葉。
そもそもちょっと両親との会話が噛み合ってない。
ここは俺の事情から話すべきだな。
「父さん母さん、ちょっと待ってくれ
先ずは俺の話しを聞いてくれ」
そう言うと、前のめり気味だった両親は椅子に深く座り直した。
「そうだな…軽く報告は受けているが、ワッタールから直接話してくれ」
「あぁ
…俺は投神という名でブロキャサーをしていたんだが…
イベントで来ていた湖で石を投げたら湖が割れて、湖の水ごとこの世界に落ちてきたんだ
何もない岩ばかりの大地で独りでサバイバルしていたが、水がなくなったからダンジョンを通って文明圏へ向かった
途中で運良く冒険者と出会って文明圏に来ることができたんだ
で、お偉いさんの指示でこの街に来たら死んだ筈の両親が居た…、姿は何故か西洋人風になってるけどね」
俺が話しを切ると部屋の者が全員ポカンとした表情で呆気にとられている。
チュイは頭の上で表情は見えないけどね。
「“∠Ω∝∂”じゃなくて“∠Ω∂”か…」
「こ、この世界にのは偶然…?」
「あ〜、俺は持たざる者って奴らしくて、この世界の言葉の聞き取りや発音が不完全だ
俺が喋ると爆笑されることがあるし…」
「あっ、ワッタールの言葉は古代語なのよ
だから古めかしく感じちゃうの」
「古代語?
じゃこの世界は未来になるなのか?」
「単純にそういう訳でもないみたいなんだが…」
「私たちもできるだけ古代語で話すわね
もう随分使ってないから忘れちゃったけど…」
「コイントスをしてると結構聞き取れるんだが、難しい単語は無理なようだ」
「だからずっとコイントスしてんだ…」
「ぇえ〜と、ワタルは女神には会ってないのでござるか?」
「忍者かっ!」
「えっ?!何か変か?
日本語を話すのは何せ久しぶりでごわす故に…」
「……まぁ聞き取れるから良いケド」
突っ込んでいても話しが進まない。
でもこんな感じで俺の言葉もこの世界の人々にとっては可笑しなものに聞こえるんだろう。
「んっんー、本日はセイテンなり、晴天なり…
それでワタルはテンセイ、転生じゃなくて生きたままテンイ、転移でこの世界に来たのね
しかも偶然に…」
「おお〜異世界転移!それそれ!
忍者先輩が言ってたヤツ!俺ツエーって叫ぶヤツ!」
「…一部意味が分からぬで候」
「私たちは女神に呼ばれて転生したのよ
この“マザージェル”と呼ばれる世界にね」
「某国の暗殺者に首相の身代わりとなって爆殺された時に女神が現れたでおます」
「スカウトされたのよね…
それで二人揃って転生することにしたのよ」
「二人とも貴族の子として離れた地域で生まれ、記憶を取り戻したのが11才でありんす」
「16才の時に漸く私たちは再会して、もう二度と離れ離れにならないと誓ったわ」
二人はグッと手を握りあった。
そう言えば前の世界でも二人はこんな感じだったっけ。
死んで世界を超えても二人の愛が変わらずに強いものなのを見せつけられると、少し照れくさいが感動してしまった。
「お、俺は二人が死んで大変だったんだぜ!」
少し疎外感を感じてトゲのある言い方してしまう。
「…ごめんね、ワタル」
「苦労をかけてしもうたぎゃ」
……親父の語尾!
せめてどれかに統一してくれ。
イケメンの真顔で語尾を変えてくるのはシュールで笑えます。
「お師さんが育ててくれたから問題ない」
「ノボゥルが…」
「ノボゥルて…」
お師さんの名前、昇のことだろうけど。
「この世界ではノボゥルにしたほうが発音しやすいのよ
喉に魔声帯があるからだと思うわ」
「で、至はイィッタール、明美はアッケミーと」
「そうズラ
記憶を取り戻したときに、改名したズラ」
「俺はワッタールが言いやすいと…
でも俺はこの世界では投神と呼ばれてるぞ」
「みたいね
投神は言いやすいわね
あ、あとで解析かけさせて」
「あぁ、あのスキャンするやつね、オッケー」
「それで、天現捨投流の技を習ったでおじゃるか」
「あぁ、俺のほうから頼み込んでな
だが投げ技のみだ」
「何故?」
「……それが俺の流儀だからだ」
「そうでっか…」
「お師さんは厳しかったけど、俺はあの人に育ててもらって良かったと思ってる」
「………」
「天現捨投流がその後どうなったかは聞かないわ
私たちにどうしようもないもの…
あの世界では、私たちは使い手として精一杯生きた
それだけだもの」
父さんとお師さんは兄弟のように育ったと聞いている。
もしもの時のことも互いに話し合う仲だったと。
自分の亡き後、息子を育ててくれた友のことを想っているようだ。
母さんは前だけを向いているように見える。
「で、俺は会ってないが女神ってのは本当に神様なのか?」
「あぁ
前の世界との繋がりは不明どすが、この世界が危機に瀕してますさかいに、わてらを呼ばはったんどす」
「神様的には正式な手順を踏んでのスカウトみたいよ
で、ワタルは完全な事故…、イレギュラーなのかも…」
「世界が歪むほど異常な力を終絶の地の方向に感じたぜよ
だから信頼できるパーティーに調査を依頼したぜよ」
「そしたら稀人が現ると…
それがまさかワタルだったなんて」
「偶然と割り切るには出来過ぎているでござる…」
「最近、女神の声が届いていないというし…」
「それで、ゲームとは?」
「ゲームよ、ゲーム!
この世界はゲームの世界を再現してるのよ!
知ってるでしょ、“マジダン”!」
「マジダン…?」
「RPGの金字塔、マジック・ザ・ダンジョンに決まってるじゃない!」
「……俺、やってねーわ、それ」
「「はぁーーー?!マジで???」」
何でか今日一番驚かれてしまうのであった。




