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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
125/177

125、控えの間にて

「投神様、今日は勇者様がたとの面会の日です

 城に参りましょう」


 個人用冒険者テントから出てきた投神様に声をかけます。

 昨日はふらっとダンジョンに潜っちゃったので、放置しておくとまたどこかに行ってしまいそうです。

 早めに城で待機してもらいましょう。


「アア、勇者ネ゙…

 リョウカイシタ」


「…ひょっとして忘れてました?」


 なんか微妙な反応ですが。


「忘れる訳ないわよ 

 妾がついてるんだから」


「チュイ様、お帰りなさいませ」


 投神様の橙色の頭髪の中からニョキリと顔を出したのは妖精女王のチュイ様だ。

 最近はそこが定位置となっているようです。

 勇者様がたとは懇意にされておられますし、面会の日を聞いておられたようです。


「ふふふっ、今日はどんな話しになるか妾も楽しみだわ

 さ、行きましょ」


「先生、私もついて参ります」


 竜騎士スーディ様が投神様の近衛兵のように斜め後ろに控えています。


「アア、ヨイゾ」


「ちょっ、勝手に人員を増やさないでくださいよ…」


「???」


 敵対はしてませんが、聖竜神国のスパイとの噂もあるスーディ様を城に入れるのは避けたいところなんですが。

 反対する理由が分からないのか、それとも聞き取れなかったのか投神様は首を傾げておられます。


「もお、何でも良いから早く行くわよっ」


「は、はい…」





「ホウ、コレガシロカ…」


 長い路地を通って城に辿り着きました。

 投神様は物珍しそうに感心されていますが、レンガでできた城はどこに行ってもだいたい同じ造りになってて、私たちにとっては見慣れたものです。


 街の規模によって数種類に分かれていますが、城壁も含めて“街”の構造は規格統一されてます。

 その規格に沿うように作れば“神の力”によって城壁は強化され、宿やギルドの機能が働きだす、ということです。

 その街を一定の間隔に配置することによって大地に巨大な魔法陣を敷き、魔人の侵攻に対抗していると、ギルド開発部の“狂気之創造者”のアオボ様がおっしゃってました。

 ですから街をひっくり返されると物理的、地政学的リスクだけでなく魔術的な面で危機に瀕するとか…。


 今回の戦争で城壁は壊されたものの、勇者様がたや冒険者の力で何とか押し返しましたが、このアルターは魔人支配地域に接する最前線。

 全人類が力を合わせて魔人に対抗すべき場所なのですが…。

 この違和感というか、危険な気配はいったいどこからやってくるのでしょうか…。



「女忍者!ボヤっとしてないでさっさと行く!」


 またチュイ様に叱られてしまいました。


「すみません、こちらです」


 全人類の希望の星である勇者様がたに面会を希望する者は多く、そういう人々の為に控えの間が用意してあります。


「こちらでお待ち下さい」


 面会の日は今日と決定しているが、時間ははっきりとは決まっていません。

 なんせ勇者様がたは王国の武のトップであり、しかもアルターでは内政の実務も担当されていて多忙を極めておいでです。

 勇者様がたの手の空いた時間に呼ばれることでしょう。


 女中がお茶や軽食を用意してくれました。

 チュイ様は待たされることに少しイライラとされておいでのようでしたが、今は投神様の頭の上でお休みになられたようですね…。

 投神様は頭にチュイ様を乗せたまま静かに軽食を食べてます。

 

「ウマイ」


「投神先生、こちらもどうぞ」


「モラオウ」


 甲斐甲斐しくスーディ様が軽食を取り分けています。

 表面上は穏やか時間が流れているのですが、影から監視の目が注がれている気配がするので落ち着きません。


 む、少し監視の目に動きがあります。


 しばらくするとノックの音がなり、ひとりの老人が入ってきました。


「じょ、城主様…!」


「やぁやぁ、お邪魔するよ

 勇者様がたの手が空くのはもう少しかかるじゃろうて」


 ニコニコと優しげな笑みを浮かべて入ってきたのはこのアルターの城主。

 呆気にとられていると、自ら椅子を引いて投神様の正面に座られました。

 城主と聞いたスーディは立ち上がって礼をしようとしますが、にこりと笑ってそれを制されました。


「儂は城主であるが、“雇われ”でのぅ、ホッホッホ

 まぁ形式だけのものであるから気を遣わなくて結構じゃ」


「???」


 投神様は状況を理解できていない様子で、少し驚いた顔をされてます。


「なに、暇じゃろうと思うて、この爺の相手をしてもらおうと思ってな」


 アルター城主は非常にお茶目な方なようで、ウィンクをしながら軽食に手を伸ばした。

 服装も城主にしては質素で護衛すらいないので、どこにでも居る気の良い普通のお爺さんという感じだ。


「おや、チュイ様は寝ておられるようだの」


「アア、オレノアタマノウエガキニイッタミタイダ」


「ホッホッホ、そこが落ち着くんじゃろうて」


 城主は手ずから淹れた茶をゆっくりと飲まれました。

 指輪の宝石がキラリと光ります。

 服装は質素ですが、その指輪だけは城主の証なのか豪奢なもので少し違和感があります。


「…………」


「お主たちは魔人を撃退してくれたらしいの…

 城主としての前に、ひとりの人間として礼を言っておきたかったのじゃ

 お主たちのお陰でたくさんの人々が救われた

 ありがとう」


 城主はそう言うとカップを置き、深々と頭を下げた。


「いえいえ、冒険者として当然のことです!

 ね、先生!」

「…ア、アア、トウゼンダナ」


 スーディが慌てて応える。


「勇者様がたとの面会の後にある戦勝式典の場では儂もちょいと偉そうにしておるがの、許してくれ」


「許すなんてそんな、滅相もございません」


 上下関係に厳しいという噂の聖竜王国の竜騎士団出身のスーディは、城主というに目上の者に対して恐縮しきりの様子です。

 投神様はぼやっとしてますが…。


「ふむ…、そろそろ爺は退散するかの」


「お会いできて光栄でした」


「なんの

 散歩のついでに立ち寄っただけじゃて」


 城主はそう言うと部屋を出ていかれました。

 共もつけずに身軽ですね。


「偉い人の割には気さくで良い方ですね…」


 貴族などの支配階級に対してあまり良いイメージがなかったのか、スーディ様は意外そうな顔をされています。


「我が国の辺境では城主は血筋よりも人柄で選ばれることが多いようです」


「…なる程、前線の街ではそういうこともありますか」

「…ナルホド」


 本当に理解してるのか分かりませんが、投神様も腑に落ちたご様子です。


 ようやくお腹がいっぱいになったのか、投神様は食事をやめて銅貨を親指で弾き始めました。

 静かな部屋に銅貨を弾くピーンという音だけが定期的に流れていきます。

 それを聞いていると段々眠くなってくるようです…。

 任務中なので必死にあくびを噛み殺します。


「ムッ…」


 投神様が何かに反応されました。

 しばらくするとドタドタという足音が聞こえてきました。


 そしてその勢いのまま、この部屋に飛び込んできます。


「渉!あなたは本当に渉なの?」


 現れたのは勇者アッケミー様です。

 夫である勇者イィッタール様と共に長年全人類を守り、導いてこられた、正しく勇者という職業に相応しいお方。

 イィッタール様より快活で肉弾戦を好まれますが、魔術創造にも定評があります。

 勇者様が創造された魔術の多くはイィッタール様の手によるものらしいのですが、究極魔術といわれる「ハズィーロ・リ・アージュ」はアッケミー様が創り出されたということです。

 この魔術の普及により滅亡に瀕していた人類が再び盛り返すきっかけとなった希望の魔術です。

 当時はこの魔術を最も高威力で発することができる初級職業である黒魔術師が爆発的に増えたということです。


 そのアッケミー様が投神様のことを聞き慣れない名前で呼んでおられます。

 ワッタール?



「アァ、オレはアカミネワタルダヨ

 アナタはオレノハハオヤ、アカミネアケミジャナイノカ?」



 勇者様が母親とは一体…!


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