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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
124/177

124、システム

「おおお『飛礫』っ!」


 シュンッ ガンッ!


「ホホウ、ヨイデはナイカ」


「ありがとうございます、投神先生!」


 私は石を投げてゴブリンの上位種であるゴブリンファイターを倒すことに成功した。

 投神先生も満足そうに頷いて下さっている。


「竜騎士なのに石を投げるってどうなのよ…」


 妖精女王の二つ名を持つチュイ様が投神先生の頭の上で呆れておいでです。


 ここはアルターのゲートダンジョンに連なる中級に分類されるダンジョン。

 私とチュイ様でパーティーを組み、投神先生にゲスト枠で参加してもらってダンジョンアタックにやってきました。


 投神先生の大活躍によりアルターの城壁は予想を遥かに上回るスピードで修復できました。

 竜騎士としての殻を破る手がかりを得た私は、そのきっかけを与えて下さった投神先生をダンジョンに誘いました。

 明日は勇者様がたと会合があるとのことで、軽く潜るつもりでしたが、投神先生のお力で深層まで来てしまいました。


 チュイ様の職業は黒魔術師ですし、このパーティーには斥候がいません。

 斥候系の能力を持たない状態でダンジョンアタックするなど自殺行為に等しいのですが、何と投神先生は斥候役もこなすことができることが判明しました!

 縄のついた苦無を投げることで投神先生は全ての罠をわざと発動させて進まれます。

 全く意味がわかりません!

 私の常識はまた軽く壊されました。

 投神先生の投げをもってすれば、この方法が確かに最適解だと理解できるのですが、常識が邪魔をするのです。

 まるで誰かが決めたであろうルールに従わなければならないという強制力があるかのようです。


 投神先生の強さの本質は、そのルールから逸脱することのできる自由さにあるんですね。

 私もその境地に至れれば、竜騎士団を、国を飛び出した甲斐がある。

 それが求めていた“答え”なんじゃないだろうか。



「ヒスイ、オヌシはナゼヤリを投ゲヌノダ?」


「はっ?」


 不意に投神先生が問う。

 その問いは何故か私にとって危険な気配がした。


「ヤリは投ゲルモノ」


「な!」


 なんという暴論!

 私の全身に最上級雷系魔術を食らったような衝撃が走った!

 竜騎士にとってこの禁忌の言葉は聞いてはいけない!

 それでも常識を投げ捨てると決めた私は震えながら立ち向かう…!


「槍は…投げる…も、の」


「アタリマエダ」


 事もなげに何という…!

 この我が愛槍、一角獣の魂が宿りし槍を投げる?


「ど、どうして…」


 竜騎士たるもの、どうして槍を投げられようか…という思考が働く!


「ドウッテ…、コウダ」


 シュバンッ!  ドガーンッ!!!


 投神先生は私の中の葛藤などお構いなしに、槍をひったくっていつの間にか出現していた魔物に投げつけた!


「ああぁ、ぁ、ぁ、ぁ……⁉」


 私の愛槍は魔物を軽く貫通し、後ろのダンジョンの壁を派手に破壊した。

 あまりの威力と暴挙に踏みしめている地面が崩れ落ちた感覚に陥る。

 ボロボロに崩れた常識と共に私はひっくり返ってしまった。







「もう大丈夫です…」


 しばらく気絶していたようだ。


 投神先生はエルフのマントを掛けてくれていたようで、心配そうな顔で私を見つめている。

 礼を言ってマントを返し、立ち上がる。


「ちょっとアンタ、無理しないでね」


 ぞんざいな口調だが、チュイ様も私のことを心配してくれている。


「はい、ありがとうございます」


 気絶していたのはほんの少しの時間のはずだが、何かが私の中で変わった気がする。

 まるで一気に9以上もレベルアップをした宿の朝のようだ。

 先生が回収してくれたのか、槍を手渡してくれた。


 槍を握る。

 これも今までとどこか感覚が違うような気がする。


 先生が倒されたのは放浪する巨大なサソリ、毒蝎アンダであったが、もうすでにダンジョンに還元された後のようでドロップアイテムの巨大な尻尾の先端が転がっている。

 毒蝎アンダは四尋ほどもある巨体に似合わぬ素早さで近づき、鋏で掴んで毒針を打ち込んで一撃死させる恐ろしい魔物だ。

 この中級ダンジョンでは出できてはいけないほどの危険度で、恐らくダンジョンボスよりも手強い。

 ファーストアタックを防いだとしても、その分厚い装甲を打ち破ることは高レベル冒険者でもなかなか難しい。

 私でさえ、この低い天井のダンジョンでは飛翔からの槍攻撃の威力が半減するから戦えば梃子摺った筈だ。

 一般的には状態異常耐性高いものがタンクとなって引き付け、後衛の黒魔術攻撃で倒すのがセオリーなのだ。

 それを槍の一撃でオーバーキルしてしまうとは…。


 そもそもこの槍は私が装備中であり、斥候系の魔技である武装解除をしないと奪えないし、使えない筈だ。


 何故だ?


 先生は装備して武器の攻撃力を上乗せするという、冒険者なら当然の行為を経ていない。

 単なる鉄の塊を投げてあの毒蝎アンダを倒したということか…?



「ソノヤリ…スゴイナ

 ヒスイノチカラガヤドッテタ」


「……!」


 一角獣之槍はいまだ私が装備中だ。

 私の攻撃力が乗ったままの状態で、たまたま手から離れた槍が敵を攻撃した、という状況になるのか…。


「投神先生、よく分からないのですが先ほどのはどうやら私が倒した扱いになるようで…」


 先生に不思議な現象のことを説明する。


「ナルホド、ソウイウ“システム”カ…」


「システム…?」


 聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまう。


「…………」


 チュイ様は何故か少し怖いほど真剣な顔で何かを考えておられる。


「…トニカク、オヌシモアレグライ投ゲルコトガデキルハズダ」


「…はいっ!

 その境地に辿り着いて見せます!」


 槍を投げただけで毒蝎アンダを一撃死させる技があれば、竜騎士はもっとダンジョンで活躍できる!


「ジャア、ヤリを投ゲテミロ」


「……はい」


 槍を投げる…。

 何という背徳感のある響きだ。

 聖竜王国の竜騎士が聞けば敵に回してしまいそうな言葉だ。

 しかし私は変わると決めた。

 槍と共に生き槍と共に死すべしという竜騎士の本能のような教えを投げ捨てるのだ!

 見本は先ほど見た。

 今こそ竜騎士という呪縛の鎖を断ち切り、私が目指す真の強者となるのだ!


「おおおおおおおおお!投げる!」


 シュンッ ドコッ


「……………投げた」


 投げてしまった。

 半身が引き裂かれたような、それでいて大人の階段を登ったような、何とも言えない感情が沸き起こり、涙が溢れる。


「先生ぇ〜、投げばじだ!」


「ソ、ソウダネ…

 ダガ、オヌシノ投ゲはソンナモンジャナイ

 トックンダ!」


「…はいっ!」


 ダンジョンの中で槍投げの特訓が始まった。

 先生の手を借りて常識を壊し、また新たな常識を構築していく。

 悪と善の両方に同時にアッドするような感覚だ。

 手本を何度も見せてくれる先生を見ていると、今までどうして投げという選択肢がなかったのだろうと不思議に思えてくる。

 こうして厳しくも暖かい先生の指導は次第に熱を帯び、ダンジョン内に槍を投げる音が繰り返し響くのであった。






「もう…、またシステムの穴をついてくるし…」


 槍を投げ続ける二人から少し離れたところで宙に浮かぶ小さな影がため息交じりに呟いた。



「へぇ、あれが噂の投神…」


「なかなかイケメンじゃん!」


 1つの光が分裂して幾つかの光がダンジョンに舞う。


「ちょっと、何しに来たのよ!投神は私の担当よ!」


「まぁまぁ、ちょっと拝見しに来ただけよ」

「生投神」

「ありがたや~ありがたや~」

「ほんとに上から下までオレンジだぁ」


 複数の光がせわしなく乱舞する。

 それぞれの光が声を発するが、何故か全く同じ声である。


「ったく…」


「フフフ…、このイレギュラーな因子がこの世界にどう影響を及ぼすのかしら?」


「システムの大崩壊が起こったり…」


「やめて!過労死しちゃうわ!」

「クワバラクワバラ」


「それでも……」


 いつの間にか光は1つに戻っていた。


「だからこそ……!」


 その小さな声は、誰にも届かずにダンジョンの壁に当たって消えていった。


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