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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
123/177

123、誰かが報告した

「異世界からこんにちは!

 徹底投擲チャンネルの投神です

 今日もね、引き続きこの世界の職人さんのお手伝いをしております

 と言っても瓦礫を投げるだけの簡単なお仕事ですっ

 粉々に砕けたほうが良いらしいので、思いっきり投げつけちゃってまーす

 ストレス解消ぉぉー!


 俺が粉々にした瓦礫を職人さんや冒険者がさらにハンマーで細かくしてますねー

 それを魔術師が地面を泥状にしたところに混ぜ込んでます

 これは粘土を作ってるようですよぉ

 それを捏ねまくって木型に押し込み、また何か魔術をかける…

 で、木型を外すと煉瓦っぼい塊の出来上がりぃっ

 それをね、ダンジョンに運んで魔術で豪快に焼き上げるらしい…

 流石は異世界っ!

 魔術はこうやって日常生活にも使われているんだね〜

 この世界の何となく歪な発展の仕方は、やっぱり便利な魔術があるからなんだろうね…

 おっと、手が止まってました?

 はいはい、投げますとも!


 今日も張り切っていきましょう


 それでは、世界を〜投げ投げ!」



 最近はバタバタしててオープニングを撮るのがなんか久しぶりな気がする。


 第一工程の瓦礫を粉々にするのを担当するのは何故か俺ひとりだ。

 それでも俺の粉々瓦礫の生産ペースは充分なようだ。

 魔術で泥沼を作るのが難しい、というか疲れるらしく、そこで仕事の流れが滞っているからだ。

 俺には残念ながら泥沼を作り出すことはできないから、マイペースで投げている。


 ひと投げで瓦礫を粉々にするのはなかなか難しく、奥が深い。

 瓦礫の形状や重心、その素材の“目”を捉えないと上手く破壊できないのだよ。

 読み切って粉々に粉砕できた時の爽快感は癖になるぜ!

 八つ石の力を使えば簡単に粉にできそうだが、あんまり手の内を明かすのは良くないようだし自重。

 とにかく働いてたら食事は出るし、日当も貰えるらしいから、このまま投げを追求していこう。


「ほいっとな!」


 ズバーンッ!


「おっ、ナイスゥー!

 どんどん行くぜ〜」



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「やはり何かおかしいです…」


 オウブルのギルド所属の忍者、カイファーは投神とは別行動をしている。

 このアルターのギルドの情報部と接触したのだが、どことなく不穏なものを感じたのだ。

 この街は何かがおかしい。


 それで独自に調べているのだが、いまだ不穏なものの正体は掴めていない。




「何か問題でもありましたか?」


 背後に立つ影が問いかける。

 全く気配を感じさせずに現れたのは、アルターのギルド情報部所属の忍者だ。


「いえ、投神様は今日もおかしな事をしてるなと感想を申しただけです」


 内心の舌打ちを隠して平静を装います。

 高レベル忍者の隠形を見破るのは難しいものですが、私には全く察知できませんでした。

 隠形の熟練度からこの女忍者も私と同程度のレベル帯であると予想されます。

 私たちの視線の先の投神様は黙々と瓦礫を投げ続け、粉々に粉砕されたものを量産しています。

 魔力を使ってないのに魔術や魔法のような力に、周りの人々は呆れながら遠巻きに見物しています。


「非常に興味深いお力をお持ちですね、投神様は」


 アルターの女忍者の投神様を見る目が鋭いように思えます。

 まるで空中から獲物を見定める猛禽のようです。

 私たち以外に投神様を監視している勢力がいるのはもちろん気づいてます。

 ですがアルターのギルドや勇者様がたへは情報を入れておりますし、投神様を警戒する必要はないように思えます。

 ということは別の勢力でしょうか…。 


「目立ってますからね…

 皆さんの注目の的のようです」


「ふふふ…」


「勇者様がたへのお目通りの日時は決定しましたでしょうか?」


「明後日、ということです」


「承知致しました」


 それを伝えると女忍者の存在感は薄れていき、風景に溶け込むように消えていきました。


「あざやか…!」


 素晴らしい隠形の技に同じ忍者として素直に感心してしまいます。

 このように自分の力量をあえて見せるということは、敵対してないという意思表示でしょう。

 ということは、先ほどのは投神様に敵対勢力があるという、彼女なりの警告ですね。


「勇者様がたのお膝元で、謎の勢力ですか…」


 全人類の中心たる勇者よりも、裏の世界ではどうやら投神様のほうが注目されているようですね。

 勇者様がたと投神様の会談のときに何も起こらないと良いのですが…。


 心配そうなカイファーの視線の先では、投げる為の瓦礫がなくなったのかハンマーを連続で投げて瓦礫を砂に変える投神がいた。


「また目立ってます…」


 その無双ぶりに、例え問題が起こっても投神様なら軽く解決しちゃいそうな気がしてきます。

 頼もしいのか、無茶苦茶なのか…。


 複雑な気持ちで注目を浴びている投神を見つめるカイファーであった。




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 投神のいる世界とは隔絶された遠い世界。


 ここはかつて投神がいた世界である。


 数十億の人々が暮らすこの惑星は、いまや1つの大きな“根”によって普く覆い尽くされていた。


 インターネットである。


 それは見えざる世界がすっぽりと地球を包み込み、人々は同時に二つの世界を生きることができた。


 まるで魔法のように。


 多くの人々が持つ端末に流れては消えていく情報。


 そこにデータの所在が不明な動画が紛れ込んだ。


 それは無尽蔵に生み出されるデータの中で埋もれていく、取るに足らない情報にみえた。


 しかし、幾人かの者は気づいたのだ。


 異世界からの流れてきた動画に。


 失踪したといわれていた男が映る動画に。


 その短い動画はジワジワとネット上で噂になっていく。


 そしてとうとうある女性の耳にも届いたのだ…。







「投神が映ってるですって?!」


 チャンネルの視聴者で、リアルでも付き合いのある知人から送られてきたメールにあるURLをクリックする。

 趣味の悪い誰かのイタズラだとは思うのだが、念のため確認しよう。

 これはエムブロの新機能であるワンセカ動画のようだ。

 1分未満の短い動画で、関連する動画が自動的にピックアップされて次々にわんさかと流れてくるので中毒性のあるものだ。

 動画の作り手側としては採算性が低いので毛嫌いするブロキャサーも多いが、新たな視聴者さんを開拓できて本編の動画のほうに誘導できるのでメリットも大きい。



 パソコンのモニターに映るのは、低画質で途切れ途切れのものだがプロアウェイで撮影されたと思われる。


 広角の画角に目一杯の荒涼たる大地が映されている。

 見たことのないほど、岩ばかりの大地だ。

 少なくとも日本には存在しない風景。

 地平線まで見渡せる岩の大地を右にパンしていくと、突如として出現する美しい湖。

 ここで画面はズームしていき、ゆっくりと湖畔をなぞっていく。

 撮影者がプロアウェイを手に持って風景を映しているのだろう。


 音声は入っておらず、旅行で訪れた異国の風景をただ撮影しただけの動画にみえる。

 よく見ると異国情緒のある不思議な景色は心惹かれるものがあるが、これと投神は結びつかない。


 ガセネタか…。


 投神…、渉が消えて一ヶ月が過ぎた。


 徹底投擲チャンネルの配信は止まり、進行していた各種企画やイベントが全て飛んだ。

 トラブルになって違約金が発生したものがあったけど、そんなことはどうだっていい。

 ただただ投神が失踪したことがショックなのだ。



 私はチャンネルプロデューサーとして厳しい注文やきつい企画を演出してきたわ。


 でもそれは投神の素晴らしさを世界に知って欲しいから。


 彼の投げは本当に世界を変えてしまう力があるんじゃないかって思ってた。

 その舞台を作り、後押しをするのが私の使命だと思ってた。



 それなのに、全てを置いて私の前から消えてしまった。



 そうしてやっと認識してしまったわ。


 今の私の心には使命感じゃなくて、寂しさで占められている。


 渉に会いたいのだ。


 彼の驚異的な投げの能力も、少し影のある横顔も、屈託のないくしゃっとした笑顔も、鍛えあげられた肉体も、柄じゃないのに張り切って臨むオープニングも。


 世界じゃなくて、私()見たかったのよ。

 動画を作りながら私が一番ドキドキ、ワクワクしてたんだわ。

 本当はとっくに気づいてたのに、同じチャンネルクルーとしてこの心に蓋をし続けてきた。


 私の想いを渉に告げてたら失踪しなかった?


 …わからない。


 カメラマンの川上さんも同じ日に失踪してるから、もしかしたら二人で新しいチャンネルでも作る計画を裏で進行してたのかも知れないし…。

 彼の経歴詐称は最初から気づいてたけど、努力家だし向上心もあった。

 実際良い映像を撮ってくれるし、嫌味なツッコミを挟むのも視聴者に受けていたわ。

 でもその向上心が故に渉をそそのかしたんじゃ…。


 …ダメだわ。


 またネガティブな方に思考が向いてる。

 切り替えなくちゃ。


 いつの間にか考え込んでモニターから目を離していた。


 動画はまた岩の大地の地平線を映している。


 興味を失い動画を止めようとしたとき、急に画面が乱れた。

 撮影者がプロアウェイを落っことしたのだ。


 岩場を転がり、ようやく静止すると青空しか見えない。

 いや薄っすら月が映り込んでいる。


 そして駆け寄ってくる人影。


「わ、渉っ!? って、ギャー!!!」


 オレンジ色の髪の毛をなびかせて近づく渉が見えた。 

 そして広角のレンズは何故か素っ裸の彼の局部をしっかりと映していたのである。


「なんで裸なのよっ!」


 久しぶりに見た渉は少し痩せたように見えたが、今は局部のどアップしか映していないので分からない。

 混乱していると動画はそこで途切れた。

 自動でオーストラリアと思しき風景を映した動画が流れ始める。


「ちょっ、ちょっと!」


 慌ててカーソルを動かして前の動画に戻す。

 しかしエラー!

 何故っ!?


「…不適切な描写が含まれる為、動画は削除されました、ですって………!

 何やってんのよバカー!」



 徹底投擲チャンネルの動画編集室にプロデューサーの鬼塚琴音の金切り声が響くのであった。




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