12、ゴブリンに石を投げます
グゲッ!グゲゲッゲェ!
この世界に落ちてきて初めて出会った、この世界の生き物。
頭に赤いバンダナみたいなのを巻きつけたこちらの3人組です。
何か喚いておいでです。
世界が違うんだから、美醜の価値観も違うでしょう。
いくら醜悪な顔をしてらっしゃるからといって、醜悪な存在とは限らないのです。
でも俺は現在…
「襲われているんだってぇ〜!」
ゲギャ!ググゲゲ!
3人?はそれぞれ粗末ながらも短い槍を持っていて、それを突き出してくる。
明確な殺意を持って。
しかも3人とも手練れだ!
背後に回り込まれないように逃げることしかできない。
身長は俺よりも低く、子供ぐらい。
おかげで全速力で走れば多分俺のほうが早く、何とか状況は拮抗している。
平和は幻想か!
小柄ながらも醜悪な顔を歪ませて襲ってくる姿を見て、RPGゲーム『フィフス・ドラゴン・ファンタジア』を思い出した。
それのオープニングに出てくる「ゴブリン」というモンスターで、主人公シュナイデックを襲うやつに似ている。
シュナイデックはゴブリンに敗北するものの、師匠に助けられて修行に励み、のちに勇者となるというストーリーだ。
成長したシュナイデックには、ゴブリンは雑魚中の雑魚として扱われてしまう哀れなモンスター。
ゲーム内では可愛らしいドット絵なのだが、パッケージは劇画タッチ。
男らしいマッチョなシュナイデックと戦う醜悪なゴブリンもおどろおどろしく描かれていた。
それを見て脳内補完し、燃えていたものだ…。
その雑魚扱いのゴブリン、リアルならこんな感じなのだろうが…。
めちゃくちゃ強いじゃないですかっ!
3人から繰り出される短槍を避け損ね、体中が傷だらけになってきた。
天現捨投流の稽古でも殺気まじりに戦うこともあるが、この攻撃的で獣じみた殺気は背中がゾクゾクする。
恐怖か、歓喜か。
殺しの技を磨き続けるも、殺しはできない。
そんなジレンマを誰しもが抱えていたと思う。
地球から離れ、いま命の遣り取りをしている。
お師さんならどうするか。
嬉々として立ち向かったに違いない。
俺は投げしかしないと決めた不甲斐ない弟子だけど、天現捨投流を修めた者としてせめて雄々しく戦いましょう。
腹は決まった。
避けつつ、逃げつつ石を置いたところに戻る。
鋭く突き出された槍をバックステップで避けると同時に地面の角石を拾った!
「投げる…!」
シュッ ズガッ!
額に角石が直撃したゴブリン(仮)は声をあげることもなく後方に吹っ飛んでいった。
他の2人が怯んだ隙に地面の石苦無を拾う。
「投げる!」
シュッ ズダン!
石苦無が胸を貫通したゴブリンも崩れ落ちた。
最後の1人になったゴブリンは怒りに顔をどす黒くさせながら突っ込んできた。
もう投げる得物がない。
胸元めがけ槍が突き出される。
直線的な動きだ。
突き出すという運動エネルギーを生み出す際には、反動がある。
その反動を捉えるのだ。
反動を利用すれば、簡単に
「投げられる!」
シュッ ズダーンッ!
槍を突きだす腕がピンと伸び切る寸前に槍と腕を巻き取り、その勢いのまま一本背負のような形で地面に投げつけた。
受身は取らせない。
後頭部から地面に突き刺さり、しばし逆立ちのように佇んだあと、ばたりと倒れた。
もう動くものはいない。
せっかく人型の生き物に出会えたというのに、殺し合いになろうとは。
明確に命を狙ってきたからか、命を奪ったというのに何故かヘビトンボよりも罪悪感が少ない。
ほったらかしにできないので亡骸を集め、湖から離れたところで荼毘に付そう。
ここは土に還らない岩の大地だ。
晒し続けるのは忍びない。
「南無阿弥陀仏」
シュッ ガッ ボオォオォォォォォ…
3人のゴブリンを並べ赤石で弔う。
彼らの短槍と、頭に巻きつけていた赤い布は比較的きれいだったのでもらっておくことにした。
彼らは俺と同じように上半身は裸だが腰に毛皮を巻いていた。
…やたら汚いが。
毛皮があるということは、どこかに獣がいる。
見渡す限りのこの岩場に獣がいるのか?
そういえば、このゴブリン達は急に現れたような気がする。
もしかしたらまた襲ってくるかも…。
3人だったから何とかなったが、もっと大勢でこられたらヤバいな。
何気に鼻が良さそうだし、 こんなに燃やしてたら臭いで引き寄せてるようなものだ。
「対策を立てねば…」




