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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
119/177

119、宴

「ホイッホイッホイッホイッ」


 橙色の男は歩きながら煉瓦を職人の手元に投げ続けた。

 煉瓦が積んである場所に自ら移動しながら。

 再び仕事場に戻された職人の親方は釈然としないものの、手元に現れる煉瓦に追われて次第に集中していった。


 剣呑で好戦的な雰囲気を壊された一部の若い冒険者が、怒りの矛先をこの奇妙な男に向けた。


「なに勝手なことしてくれてんだよ!」


 戦士系の男が詰め寄る。


 橙色の男を庇うように、凛とした美しい竜人族の女が進みでた。


「お前たちはここに何をしに来たのだ?」


「竜騎士か!」


 竜騎士は強力な攻撃力を誇る上位職。

 しかも高レベルの雰囲気に圧倒されたように若い男は後退った。


「お、俺たちは勇者の要請で警護を手伝いに来たんだよ」

「城壁を修復するのに兵士も動かすから、警護が手薄になるからって…」


 先ほどの勢いは消え、大人に叱られた子供のように口を尖らせて説明をする。


「ホウ、テツダッテクレルノカ…」


 橙色の男の目が、怪しく橙色に光ったように見えた。


「ひっ?」


 シュウンッ! ポフ


「うわあぁぁぁぁぁ……ぁあ?」


「ちょっ、投神先生…」


 投神先生と呼ばれた橙色の男は、若い冒険者を先ほどの職人と同じように作りかけの城壁の上に投げてしまった。


 そして足元に置かれる一つの煉瓦。


「ヨロシク!」


「ぇえーっ?!」


 投神はもう1人の若い男も同じように城壁の上に投げて、煉瓦を足元に置いた。


「ちょっとおっさん、何してんだ!」


「オマエモテツダッテクレルノカ」


 突っかかってきた冒険者も問答無用で投げ飛ばす。


「あぁ!フェイまで…」


「ってか、面白そうじゃん!

 オレンジのおっちゃん、俺も手伝うわ」


「オウ、ヨロシク、ホイッ」


「イヤッホー!」


 何を思ったか自発的に手伝う者が現れた。

 その男は早速現れた煉瓦を見様見真似で積み上げてみる。


 勇者の子供たちは毒気を抜かれたのか、協力する者は残り、協力しない者は去って行く。


 その後、投神は数人を城壁に投げ上げ、指導員として嫌がる頑樽族の職人も追加で投げ上げた。 

 そして全ての者の手元に必要なタイミングで煉瓦を届けるという仕事を独りでこなす。


 地上ではあっと言う間に消費されていく煉瓦を補充する為、若い冒険者たちも一緒になって煉瓦を抱えて奔走した。





「か、完成だ…!」

「すげぇ!」


 数時間後、魔人によって最初に破られた城壁が修復された。

 驚異の復元スピードであり、職人たちは自分たちで成し遂げたにもかかわらずに呆然としている。


「やっぱり職人の親方がやった場所って、美しいな!」

「はははっ、お前のやったとこガタガタじゃん!」


 若い冒険者も完成した城壁を誇らしげに見上げて談笑している。

 種族や職種を超えて協力し合えたこの城壁は、人類の団結の象徴に思えた。



「お前ぇら、よくやった!完成だ!」


 1人の職人として没頭していた親方が、どこか照れながら大声を上げた。

 そして全ての者に届くガラガラ声で訴えかけた。


「この壁は単なる壁じゃねぇ!

 全人類が滅びの運命に抗うための意志だ!

 俺たちは挫けても立ち上がる闘志がある!

 たとえ壁を壊されようが、こうやって何度でも建てる!

 この壁が要らなくなる日が来るまでな

 だから俺たちは為すべきことをやるのみだ!

 女神の加護があらんことを!」


「「女神の加護があらんことを!」」


 皆の唱和に応えるように復活した城壁は一瞬輝きを放った。


「それと!

 壊れた城壁はあと2箇所ある!

 明日また頼むぜ、お前ぇら!」


「「はい!」」

「「えぇ〜!」」


 無理やり手伝わされた一部の冒険者から不満の声が上がったが、概ね使命感に燃えているようだ。



 城壁の上にいた者たちが所々に設置されている階段で降りてきた。


「おお、橙色の相棒!

 お前ぇの仕事は最高だったぜ!」


「アンタモスゴカッタゼ!」


 固い握手を交わして互いの仕事を称え合う。


「んっ?お前ぇの職業は何だ?

 てっきり超高レベル冒険者と思ってたが、妙な気配だ」


「オレは投神

 ブロキャサーダ

 ゲイニンミタイナモンダ」 


「よく分からねぇが、お前ぇがすげぇのには変わりねぇな

 儂は職人のダルハだ

 宜しくな!」


「ヨロシク」


 職人の名前を聞いた外野がザワついた。


「職人のダルハって、あのダルハ爺?」

「もしかして職人レベル300オーバーの?」

「ヤバい奴じゃん!」

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を造るためにダンジョン行ってドラゴン狩りをするっていう噂の…」

「何それウケる」

「ケンカしてたら俺ら負けてたんじゃね?」

「やべぇ…」


「はっ!今ごろ誰に喧嘩売ったか知ってビビってんのか

 まぁでも手伝ってくれてありがとよ!

 お前ぇらの想いも籠もった良い壁ができた」


 面と向かって礼を言われるとは思わなかったのか、少し挙動不審になる若い冒険者たち。


「い、いやぁまぁ、俺らも魔人に対抗する気持ちは一緒だし?」

「魔人が仕返しにくるって噂もあるし…、早く完成できて良かったわ」

「意外に楽しかった!」


「そうか!ガッハッハ!

 明日も手伝える奴は頼むぜ

 投神もな!」


「ヨイゾ」


 あれだけ煉瓦を投げて疲れた様子を見せない投神の異常さに冒険者も引き気味である。


「そうと決まれば、宴会じゃ!」


「「え〜?!」」


「どうせ新たに煉瓦が搬入されて来なけりゃ仕事はできん!

 ならば酒を呑んで待つのが作法じゃ!」


「「頑樽族だなぁ〜」」


 頑樽族は手先が器用で屈強なのだが、とにかく酒好きな種族として有名なのだ。

 ずんぐりむっくりした樽型の体型は、酒樽からきているのではないかと言われる程である。


「儂の奢りじゃ!

 皆の衆、行くぞ!」


「「「おお!」」」


 まだ明るいのに城壁の修復に携わった職人や冒険者たちは酒場へと雪崩込んだ。


 もちろん投神も竜騎士のスーディも一緒である。


 この時間帯から大勢の客が来ると思っていなかった酒場の亭主は一瞬固まったが、黙って貸し切りの看板を店表に吊るした。

 この亭主も頑樽族である。

 昼間から水の代わりに酒を呑む種族だから、もしかしたらよくあることなのかもしれない。


「ダルハ爺、えらいご機嫌だな」


「おおよ!久しぶりに職人として良い仕事が出来たぜ!」


 ダブルは亭主と握手を交わす。

 常連なのだろう。


「珍しいな…

 まぁ酒だけはある

 適当に始めといてくれ」


「おおよ!

 普人族の若い衆も多いから、食べもんも多めに作っといてくれ」


「ああ」


 そう言うと亭主は厨房に消えていった。

 ダルハは酒樽を引っ張り出してきて、蓋を叩き割った。

 ニヤリと凄惨な笑みを浮かべ、木製の器を勢いよく突っ込んで酒を掬い上げた。


「さあ!おっぱじめるぞ!」


 こうして頑樽族式の宴会が始まったのだ。



✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢



 この世界の酒は初めてだ。

 これは黒ビールか?

 それとも蒸留酒?

 それ程アルコール度数は高くなさそうだが、独特な苦みと甘さを感じる。

 酒には詳しくないのだが、これはこれで美味しい思える。

 どこかで飲んだ、いや食べたことがあるような甘い香りなんだがはっきりと思い出せなくてモヤモヤする。


「なんだっけ…」


「どうかされましたか?投神先生」


 テーブルには酒と料理が並び、隣には翡翠が座っている。

 俺以上に飲んでいるはずだが、表情や動きはいつもと変わらない。

 いや少し頬が赤いか?


「?私の顔に何か付いてますか

 はっそれとも私に⊂∠∌∶γ∷∃されたとか

 流石は普人族…!」


「よく分からないけど、それは違うと思います」


 やっぱりちょっと酔っぱらってるな、こりゃ。

 まぁ良いけど…。


 周りのテーブルはどんちゃん騒ぎである。

 マナーもクソもない原始的な飲み食い。

 楽しく飲んでる奴が多いが、軽い取っ組み合いに発展する者もいる。

 勢い余ってテーブルをひっくり返す者もいるほどだ。


「それで食器が全て木製なのか…」


 床下はいつの間にかゴミが溜まってきた。

 なかなかのカオスだ。

 せっかくの異世界の酒と料理をじっくり味わいたいところだが、まぁ郷に入れば郷に従えだ。

 しかし一向に酔えそうにないのが残念なところだ。


「投神先生、ちゃんと飲んでまスか?」


 少し目の座った翡翠が俺の顔を覗き込んでくる。

 翡翠色の鱗で縁取られた美しい顔が近くにきてビビってしまった。


「あ、あぁ飲んでる飲んでる

 何故か酔えないけどな」


「あ〜それは猛毒∟∂∝∂が高い方あるあるでツね

 私も低くないのでツが、酔いを遮断ツる程ではないでツ」


「ほう…?」


 よく分からないが、よくある事ならしょうがない。

 ってか、“す”が言えなくなってるけど大丈夫か?



 外が暗くなって宴会はさらにヒートアップしている。

 絵に描いたようなへべれけになっている奴がいっぱいいて、それを肴に酒を飲む。

 いつしか翡翠はテーブルに突っ伏してスヤスヤと眠っていた。

 美しい鱗に触りたいが、セクハラ案件であろうから自重しよう。


「橙の!アンタは一体何者なの!」


 気の強そうな若い女の冒険者が赤い顔をして、俺のテーブルに雪崩込んできた。


「そうだそうだ!気になってたんだよ!」

「職業は?レベルは?」

「鑑定していい?」

「竜騎士さんとの関係は?」


 一気に大勢の冒険者に囲まれてしまう。

 酔っぱらいが口々に喋るから聞き取れない。

 仕方なくテーブルの上にあった小さな硬貨をコイントスして投げ耳を発動させた。


「オレは投神

 職業はブロキャサー

 芸人みたいなもんかな」


 自己紹介をすると皆はキョトンとした顔になり、次いで大爆笑となった。

 またこのパターンか…。


「アハハハッ、あんた歌劇団の男優かよ!」

「古代かっ!ウケる!」

「オレハ投神デゴザル…」

「やめろっ!ヒヒヒー!」

「ゴザルは言ってねーだろ」

「腹がいてぇー!」


 腹を抱えて汚い床に転がる奴までいる。

 そんなに楽しんでもらえて何よりだ…。


 話しを聞くと彼らが住んでいる都会では歌劇がすごく流行っていて、俺の言葉はその歌劇役者の言葉遣いと似ているそうだ。

 劇の時代設定が古いやつ、時代劇ってやつかな。

 だから俺はウケ狙いでその真似をしたと思われたようだ。


 まぁいきなり武士のござるや公家のおじゃるを使って自己紹介すれば、笑われたりバカにされたりするわな。

 ツカミはオッケーだったようで、そいつらとはすぐに仲良くなれた。

 ちょっと背伸びしたい年頃の大学生って感じで、打ち解けると良い奴らだ。



「俺はお前の事が気に入らねぇな!」


 また別のやんちゃそうな若い冒険者たちが絡んできた。



 なかなか刺激的な夜になりそうだ…。



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