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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
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118、乱入者

 アルターの街は復興へ向けての活気に溢れている。


 壊された城壁や建物を修復するため、ゲートダンジョンを通って職人たちや日雇い労働者、そして各種の物資が集まってきていた。

 そしてそれを目当てにした露店が建ち、魔人襲撃前よりも人口が一気に増えている。

 恐ろしい適応種の魔人が3体も討伐され、人々はアルターの街が再び侵攻されることは暫くないだろうと捉えているのだ。


 人々は大戦果を上げた勇者や冒険者たちの偉業を讃えた。


 そこに橙色の奇人の活躍は含まれておらず、一部の人々の中で胡散臭い笑い話として語られるのみであった。





「投神先生、おはようございます」


「オハヨウ、ヒスイ」


 1人用の簡易テントから出てきた投神に竜騎士のスーディは声をかけた。


「眠れましたか?」


「アア、カイテキダッタヨ」



 崩された城壁付近の城壁外の原っぱにできたバラックやテントが建ち並んでいるところに投神たちも寝泊まりしていた。

 急激に膨れ上がった人口を街の中だけでは吸収できず、外に溢れ出したのだ。

 投神たち冒険者はダンジョンに籠もる際に使用するテントを持っているので、率先して壁外で寝泊まりする者が多い。

 万が一魔物が襲ってきても冒険者なら対処できるし、城壁の代わりに魔物から街を守っているとも言える。


 投神もオウブルの街で耳長族の二人組に半強制的に買わされた冒険者装備セットの中に簡易テントが入っていたので、それを使っている。

 三角錐を倒したような形状のテントは狭いながらも寝るのには十分で、畳むと非常にコンパクトになる優れものだ。

 前の世界で放浪生活を経験した投神にとっては、このテントでの寝泊まりに不満はなかった。


「今日も復興のお手伝いですか?」


「アア」



 投神は戦が終わるとすぐ崩された瓦礫を撤去し始めた。

 それはもう周囲の者がドン引きする程の異常やスピードで。

 他の冒険者や街の人々も負けじと撤去に加わり、僅か2日間で瓦礫はほとんど無くなっている。


 瓦礫が取り除かれてポッカリと空いた城壁を埋めるため、今日から職人たちが新たに煉瓦を積み、延長させるという作業が始められることになっていた。




 職人の多くは背の低い頑樽族(ガンタルぞく)で、手先が器用で屈強なのだが、高所での作業には向いていないとされる種族である。

 それゆえ普人族などの身軽な者が高所に立ち、下から作られた煉瓦を引き上げている。

 それはなかなか時間のかかる作業のようで、城壁に積まれるのを待つ煉瓦で広場は埋め尽くされている。



「このへっぴり腰どもがっ!早く煉瓦を持ってこんかー!」


 四尋にまで積み上がった煉瓦の上で怒鳴り散らしている者がいる。

 頑樽族の職人である。

 一般的には自らの背より高い所に立つのを恐れるのだが、この職人は高所でも全く恐怖を感じてないようで、各所に指示を飛ばしながら自らも煉瓦を積んでいる。


 簡易的な滑車を使っているが、高所での煉瓦の受け取りなどが上手く連携を取れていないようで資材の流れが滞っている。


「親方〜、ちょっと待って下さいよぉ」


 無理やり高所に連れてこられた若い頑樽族の職人が、青い顔をして情けない声を上げる。


「馬鹿野郎!魔人は待ってくれねぇ!」


「勇者様が魔人を3体もやっつけたから大丈夫ですって」


「だから急いでんだ!

 この街で3体もやられたんだから、絶対に仕返しに来るわい!」


「そ、そうですかね…」


「絶対だ!この街には何かがあるのさ…魔人にとって重要なモンがよ…」


「………」


「だから早く持ってこい!」


「ひぇっ!」


 手が止まっている弟子を叱り飛ばした。


「ったく…!」


 親方は瓦礫がこんなにも早く撤去されたというのに、職人の作業が遅々として進まないことにイライラしていた。



「オーイ」


「あ?」


 下から声を掛けてくる者がいる。

 橙色の奇妙な装備をした普人族の男だ。


「投ゲテワタソウカ?」


 その男は足元の煉瓦を手に取り、軽く投げ上げて回し始めた。

 しかも3個同時に。


「何だお前ぇ…、大道芸人か?」


「タブン」


「ちっ、おかしな野郎だな

 俺の手元に投げられるなら、やってみろ!

 ただし落としたらブン殴るぞ」


「ホイッ」


 シュッ


「なにっ?!」


 職人の親方はからかうつもりで手を出したのだが、その手のひらに一つの煉瓦が乗っていた。

 何の衝撃も感じさせない、放物線の頂点で()()ように、完璧に制御された投げ…。


「……やりやがる!」


 親方はその煉瓦をサッと積み、また手のひら出した。


「もう1個だ」


「ホイッ」


 少し意地悪して、あまり手を伸ばさなかった。

 それでもスッと置かれるように出現する一つの煉瓦。


「面白ぇ」


 親方はその煉瓦を積み、また手のひらを上に向ける。

 すると手品のように現れる煉瓦。

 親方はニヤリと笑うと、もうそこからは無言で作業の繰り返しが始まった。


 親方は作業ペースをどんどん上げるが、煉瓦は途切れることなく必要なタイミングで現れる。

 いつしか親方は1人の職人として没頭し、無我の境地に至った。

 より早く、より正確に。

 ただそれだけだ。


 望んだところに望んだタイミングで煉瓦を渡すことのできる、最高の相槌を打つ相棒がいるなら、どこまでも職人としての高みに至れると彼は思った。


 無駄のない、小さな作業音がリズミカルに流れている。

 周りの人々はただ時が止まったように、二人のまるで魔法のような共同作業を眺めた。

 どこか神秘的で神聖な空気が流れているとさえ皆は思った。


「……はっ!レ、煉瓦がなくなるっ!」

「誰か持ってこい!」

「急げっ!途切れさせるな!」


 人々は二人の作業を終わらせてはならないという使命感に駆られ、橙色の男の元に煉瓦を運んだ。


「よーし、ここに置くんだ!」

「向こうの広場に置いてあるのも持ってこい」

「煉瓦を接着する種の補充も忘れるな!」


 この付近はいつしか二人を中心にした役割分担が生まれ、効率よく回転をはじめた。

 そのスピードは凄まじく、あっと言う間に城壁が延長していく。


 休憩も食事も取らずに一心不乱に積み上げ、このまま城壁を塞ぐまで止まらないかと思われた。


 しかし唐突に終わりはやって来る。


 作業場となっている広場に突如として大勢の人が流れ込み、煉瓦の循環が途切れたのだ。




「あっれぇー?

 城壁がぶっ壊れたって言うから警護に来たのに、ほとんど直ってんじゃん」


 集団の中の若い男のひとりが大声を上げた。


「せっかく辺境まで跳んできたのにぃ」

「お父さんお母さんの要請だからって、こんな大勢で来ることなかったんじゃね?」

「田舎ねー」

「早く魔人来ないかな」

「だるーい、宿いこっ!」

「えー、それよかダンジョンに行こうよ」


 冒険者風の男女は口々に勝手なことを喚いている。

 装備はバラバラで様々な職業をしているようだが、皆若く、首元にストールを巻いているのが共通している。


勇者の(テンゲイン)子供たち(チルドレン)か…!」


 それに気づいた職人のひとりが、そう呟いた。





「………あんっ?!」


 手のひらを上に向けても現れない煉瓦を不思議に思い、頑樽族の男は夢から醒めたように地上を見下ろした。


 何やら冒険者たちがひしめき合っており、職人の動線を阻害しているようだ。

 煉瓦の上に乗ってい巫山戯ている奴もいる。



「ごぉらー!お前ぇら邪魔すんなー!」


 職人として自由な翼を与えられたような甘美な時を無遠慮に壊されて、彼は怒り狂った。


 ドッシィィィーンッ‼


「うわっ、頑樽族が落ちてきた!」


 およそ七尋の高さから飛び降りてきた親方は地響きを立てて石畳に激突し、地面にめり込んだ。



「だ、大丈夫か?職人のおっちゃん…」


「うるせぇ!

 勇者の子供たちだか何だか知らねぇが、仕事の邪魔すんじゃねぇぞゴォラ!」


 地面に激突したとき以上の威力の大喝が広場に響き渡たり、復旧間近の城壁をビリビリと震わせた。


 突然の出来事に若い冒険者は驚いていたが、次第に不穏な空気が流れ始める。


「はぁ?職人ごときが何エラソーに言ってくれてるの

 俺たちはテンゲイン・チルドレンだっつーのっ」


「俺たちはお前たち非戦闘員を守ってやってんだからさ、その態度はないんじゃない?」

「そうよ、誰のお陰で職人なんかやってられるのか考えてみてよ」

「オイラたちが必死で魔人や魔物と戦ってる間、キミたちはのうのうと平和に暮らせているんだよな〜」

「俺も農民か職人の職業を授かれば良かった…、ってのは嘘だけどサ」


 自分たちをテンゲイン・チルドレンと名乗る若い冒険者たちは挑発するように反論した。


「ほう…、ガキンチョどもが言ってくれるな…」


 コテを持つ頑樽族の男の腕がメキメキと音を立てて膨れ上がる。

 拗られた縄のような筋肉に絡む血管が浮かび上がる。


 殺気すらはらんだ空気が広場を支配する。

 他の職人や街の人々は固唾を飲んでただ見守るのみ。

 大勢の冒険者に独り対峙する職人。

 一触即発の緊張が高まる…。




「トザイトーザイ」


 場違いな明るい掛声が広場に響いた。


 橙色の装備の奇妙な男が見世物でも始めるような勢いだ。

 男は煉瓦を五つほど投げてはくるくると回し始めた。


「は…、はい?」


 呆気にとられた若い冒険者は気の抜けた声をあげる。

 それに構わず奇妙な男はにこやかに芸を見せつけた。

 規則正しく、ときにリズムを崩して繰り返される投げは、不思議と人々の視線を捉えて離さない。


「ハイ、オツギはコレ!」


「なっ?!」


 男は不意に職人の首根っこを掴んで持ち上げた。


「何をしやがるっ!」


「投ゲマス!」


「は?やめろおおおぉぉぉぉぉぁぁ…」


 シュウンッ! …ポフ


 職人の親方は天高く放り投げられ、さっきまでいた作りかけの城壁の上に戻されてしまった。


 そして尻もちを着いた姿勢の彼の足元に置かれる一つの煉瓦。


「ツヅキダ…!」



 広場にいる全ての人々は、温暖な地域なのに何故か冷たい風が吹いたように感じた。


 そして誰かが呟く。


「鬼だ…」


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