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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
117/177

117、「橙色の瓦礫投げ」はこうして生まれました

「ヨカッタ!ホントにヨカッタ!」


 橙色の奇抜な衣装の男が泣き笑いしながら、男の子を異常に高く空に投げ上げている。


 異様な光景だが、投げられている男の子は楽しげに笑い声を上げているので、大丈夫なんだろうと街の人々は思うことにした。


 橙色の男の近くには母親と思しき女性が立っており、オロオロと心配気に見上げている。


「…投神様、そろそろ降ろしてあげては…」


 地味な装束に身を包んでいる小柄な女性が控えめに声をかけた。

 ショートボブで切りそろえだ髪がさらさらと輝き、大きな目がクールな印象を与えるがどこか小動物の可愛さがある。


「さすが投神先生

 素晴らしい投げです」


 投げを褒めるのは竜人族の女性。

 厳しい青色の竜騎士のフルアーマーを装備しているが、凛とした可憐な美しさがある。

 蒼碧色の長い髪に、同色の竜人族の特徴である鱗が顔の両端にある。

 竜人族の竜騎士はあまり聖竜神国から離れないので珍しく、人々の注目を浴びていた。


「アンタ、いい加減にしなよ

 いま怪我されてもMP切れてるんだから治せないわよ」


 少し気だるげにそうぼやくのは黒くて長い髪の白魔術師の女性。

 一見して教会の聖職者ではない冒険者の白魔術師とわかる荒々しさがあるが、瞳には慈愛の光をたたえている。

 高いレベルにあることを示す強力な魔導の杖に寄り掛かるようにして立っている。


「ソウカ…、ホイッ

 オモシロカッタカ、ボウズ」


「うん!」


 男は男の子を地面に降ろして頭を撫でる。

 橙色の頭髪に黒い瞳。

 極東の普人族のような顔立ちで、整ってはいるが濃い顔立ちの多い地域なので人々の評価は別れるだろう。


「シンダカとオモッタゾ」


「うん、死んじゃったよ」


「エッ?!」


「ミーンお姉ちゃんに助けてもらわなかったら完全に死んでたよ」


「感謝しなさいよ、アンタ

 レベルと引き換えに復活の白魔術を使ったんだからね!」


 男は固まっている。

 事態を全く理解できていないようだ。


「あ!あの、投神様はギルドも教会もないド田舎から来られたばかりなので、白魔術も見たことないようなんです…!」


 ショートボブの女性が慌てて説明する。


「そんなド田舎、どこにあるんだいっ!

 けどまぁアンタみたいな非常識な奴、この辺じゃ見かけたことないわね…」


 白魔術師ミーンはひとり納得した。


「私は白魔術師のミーンよ

 宜しくね」


「オレは投神ダ

 チャンネルトウロクヨロシク」


「はあ?」


「な、投神様はよく理解できない言動をとられますが、まだこの国の文化に慣れておられませんので…」


「そ、そうなの…」


「クロカミのオンナ」


「はぁっ?ワタシのこと?」


「アリガトウ…!」


 投神は深く深く頭を下げた。

 親子に起こった現象を理解してはいないが、この黒髪の白魔術師が生命を削って助けたくれたことは分かったのだ。


「ちょっ、辞めてよ…

 アタシは白魔術師としての本懐を果たしただけだわ」


 男の真摯な感謝を受けて少し照れたのを隠すように早口で答えた。


「それよりレベルをかなり消失したから、レベル上げを手伝ってよね!

 固定パーティーが解散しちゃって困ってんのよ」


「ヨイゾ

 ダンジョンにイクノカ?」


「ええ

 白魔術師は教会内で治療をしててもレベル上がるんたけど、性に合わないのよね」


「ソウカー」


「弟子たる私もついて参ります」


 竜騎士も参加を表明する。

 

「竜騎士か、珍しいわね」


「スーディだ、宜しく

 そなたのような高レベルの白魔術師も珍しいと思うが」


「そうね

 普通は賢者や他の職業に転職するわね…」


 ほんの少し声のトーンが落ちたことを察して、皆はそれ以上は踏み込まない。


「とりあえず今はアルターの街の復興を手伝いましょう」


「そうだな」


「僕も手伝うよ!」


「カラダはダイジョウブナノカ?」


「大丈夫だよ!」


 ころころと笑う子供の明るい笑顔に皆が救われたようだ。

 橙色の男はもう一度男の子の頭をくしゃっと撫でた。


「ヨシッ、オレのガレキ投ゲをミセテヤル!」




 こうしてアルターの街は復興に向けて街の人々や冒険者、兵士たちが一丸となって急ピッチで作業が行われた。


 その中でひと際異彩を放つオレンジ色の男がひとり。


 魔法のように瓦礫撤去を行う姿を見た人々は驚きのあまり後世まで語り継ぐのだ。


 そしていつしか『橙色の瓦礫投げ』とは『嘘のように早い』『実際に見ないと信じられない』という意味の慣用句として普く使われるようになるのであった。







「びぇ〜んっ!残務処理が終わんないよー!」


 アルターの城の勇者の間ではアッケミーの叫び声か響き渡っている。


「くっ、何故だ!何故終わらんっ!」


 いつも穏やかで冷静沈着なイィッタールでさえ頭をガリガリと掻きむしって書類に数字を書き殴っている。


「おぉ勇者様がた、大変そうですな

 お茶でもいかがですかな?」


「あぁん?!」


「ひぃっ⁉」


 勇者の間にやってきた呑気なアルター城主は殺気をぶつけられて後退った。


 前線の城壁都市である街の城主はお飾りである場合が多い。

 街がひっくり返る条件の1つに城主の殺害が含まれているので、戦となれば城の奥深くに囲われて外部から遮断される。

 実質的なアルターの支配者は勇者であり、実務も担当している。

 それは前世の知識があり、この世界の人々に比べて計算や数字の管理などの技能が飛び抜けて優れていたからだ。


 勇者は各地に寺子屋を建設し、孤児や有志の子供に戦う術や文字、四則演算などの文武両道の教育を普及させている。

 そこで育った者の中から文官への道に進むことも多いのだが、辺境へはいまだ配置されることは少ない。

 そこでアルターでは勇者が文官としての実務も担当している状況なのだ。


 突出した何の能力も持たないが、ひたすら良い人の城主を勇者たちはたまに恨めしく思ってしまうのだ。


「まぁまぁ勇者様がた、落ち着いて下され

 お二人の好きなカーフェイを煎れましたよってに」


「………頂きましょう」


 この世界では貴重なコーヒーに冷静さを取り戻したイィッタールは乱雑に積み上がった書類まみれの机から離れ、高齢の城主自らが持ってきたコーヒーがセットされたテーブルに移動する。


「根を詰め過ぎもいかんですよってに」


「……良い香りだわ」


 テーブルにはコーヒーの他に甘いクッキーや揚げ菓子がある。

 そう言えば昨日から何も食べていないことに二人は気づいた。


 しばらく無言でコーヒーと菓子を食べる勇者たち。


「それで、城壁の修復にはどれぐらいの時間がかかりそうなんですかな?」


 二人の食いっぶりをニコニコと眺めた後に老城主は尋ねた。


「…瓦礫の撤去が異常に早く進んでいてね

 中央から資材と工員が到着すれば1週間ほどで元通りになるだろう」


「ほう、それは早いですのぉ」


「まぁ兵士も総動員させての計算だけどね」


「適応種の魔人を討ち取られたということですので、一息つけるんじゃないんですかの?」


「ちょっと未確認なんだけど、僕たちが倒した1体以外に2体の魔人が討伐されたみたいなんだ」


「それは素晴らしい戦果ではないですかの!」


「本当ならね…

 それに誰が討伐したのか判明してないのよね」


「召喚特化型の1本足の魔人は竜騎士か倒したみたいだが…」


「街に侵入してきた再生特化型の魔人がどうもね…」


「不明なんですかの?」


「目撃情報はある

 あり過ぎる程にな」


「それが魔人じゃなかったともいわれてるのよね」


「魔人じゃない、とな?」


「そう…

 街の人々は魔人と橙色の大道芸人の戦いを観て楽しんだ、っていう報告があがってるのよ…」


「楽しんだ、ですかの?」


「滑稽劇というか、見世物の芸を観た感じで誰もが怖がっていなかったという話しだ」


「有り得ないですのぉ…」


「そうだね

 我々とは理解し合えない存在の魔人を見て楽しいという感情が浮かんでくるなんて、俄かには信じられない」


「その橙色の大道芸人という者に事情を聞かれてはどうですかの?」


「そう、その大道芸人が…!」


「何か問題でも?」


「問題というか、問題なんだけど…

 とにかく彼と一刻も早く話しがしたいから焦ってるんだよ」


「なる程、そうでしたかの

 しかしいくら勇者といっても休憩も取らずにいては身体を壊されてしまいますぞい」


「そうだね…、僕らはもう若くないんだし」


「実年齢はワシのほうが若いですからの」


「くっ!それは言わないでっ」


 アッケミーが顔をしかめる。


「ふぉっふぉっふぉっ

 肉体はお若いですが、魂は老います

 少し睡眠を取られてからのほうが仕事の効率も上がると思いますぞい」


「……そうですね」

「……そうね」


 張り詰めていた気が緩んだのか急に眠気を感じる二人。

 文武に優れた訳ではないが、この老城主の細やかな心配りに感謝しつつ仮眠を取ることに決めたのであった。




 静かに勇者の間を辞する城主。

 戦時中に殺されないようにする事だけが仕事の名誉職であり、普段は警護の者もつかない。

 白い髭を靡かせて城内を歩む。


「橙色の大道芸人とな…」



 城主の呟きは誰に聞かれることもなく、ただ石壁に当たって消えていった…。


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