116、二人の勇者
思わず投げの熱血指導をしてしまった。
何故なら素晴らしい才能を秘めた素材を見つけてしまったからだ。
この娘は磨けば光るぞ!
あまり表情を変えないが凛とした美しい女性だ。
顔の両端、こめかみから頬にかけて翡翠色の美しい鱗に覆われているが、キリリとした意志の強い大きな目が印象的だ。
腕にも鱗が生えていて、指先には頑丈で鋭い爪がある。
それが良いのだ!
繊細な投げには不向きではあるが、このグリップ力は大きな威力を発揮する。
強い投げ、そして変化球を投げやすいのだ!
しかも、腕が長い!
この娘の身長の比率でいえば、およそ10センチは長く感じる。
これは投擲種目で世界を狙える逸材!
はっ、この世界には陸上競技が無かったか…。
しかも戦争中だし。
…まあ、投げは戦いにも使えるから彼女にとってプラスになったと思っておこう。
なんか目をキラキラさせてるし。
いつの間にか離れたところで行われていた戦闘も終わっていたようだ。
街の中から喜びの声が聞こえる。
「良かった」
俺は俺の投げで人々を笑顔にする。
それがこの世界で生かされる存在意義だ。
人々に笑顔を与えられれば、いつかその人々は賛同者(視聴者さん)になってくれる。
もちろんアンチはつきものだが、真面目にやっていけば必ずアンチの声は小さくなっていく筈だ。
この娘のように、投げがプラスになると信じて。
これが俺のこの世界での生きる術。
魔人は別の世界から来て侵略してるらしい。
それでは駄目なんだよ。
互いに不幸しか生まれない。
街の人々に投げで魔人がどうにか受け入れられる存在になればと思ったが…。
無理だな。
先ずは戦争を終わらせなければならない。
「投神さまー!」
崩れた城壁を登ってくる者がいる。
クノイチさんだ。
「こんなところに居られたんですか!」
クノイチさんは俺を探していたようだ。
「どうかしたか?」
「どうかしたかじゃないですよ!
∈λ∵∟に飛んで行かれるんですから、探しましたよ!」
ちょっと怒ってらっしゃる。
クールビューティだが背は低めで可愛らしく、小動物に威嚇された感じでほっこりする。
「すまんすまん」
「って何か笑ってません?
…で、こちらは?」
「あ、私は竜騎士のスーディと申す
投神先生の∨∶∠だ」
「は?」
クノイチさんが固まってる。
何と説明したんだろう?
まぁ何でも良いか。
投げ耳を発動してないと、やはり聞き取りにくいようだ。
「ちょっと投神様、石を投げて誤魔化さないで下さい」
「いや、これは話しを理解する為であって…」
「素晴らしい技ですね、投神先生!」
翡翠色の鱗の娘の食いつきが良い。
「わかってるじゃないか、翡翠」
「ヒスイ…?それは私のあだ名ですか?」
名前は聞いたんだけど、発音が難しいんだよね。
翡翠で宜しく。
「親密そうですね…」
クノイチさんがさらにクールな目をさらにクールにさせて睨んでくる。
やめてっ!
その目は前の世界のあの御方を思い出させるぅ!
「…っと、そんなことより大勢の人がこちらにやって来るぞ」
投げ耳は遠くから響く無数の二足歩行の足音を捉えていた。
別の魔人やモンスターたちと戦っていた正規軍だろう。
「あ、あれは勇者様がた率いる軍ですね
救援に来られたのでしょうか…
そういえば一本足の魔人はどこに行ったのですか?」
「どこに行ったもなにも、既に投神先生が一人で魔人を倒されたぞ」
「えっ?!
「おっ、二人だけ先に走ってきたぞ?」
軍勢を置き去りにして異常なスピードで近づいてくる二人。
「おーい!大丈夫かー?」
女性の声だ。
無事を知らせる為に手を振り返す。
はっきりと姿が見えてきた。
「勇者様がたです!」
慌ててクノイチさんと翡翠が地に片膝をつけてお辞儀をしている。
空気の読める日本出身の俺は同じポーズをクールに取るぜ。
「戦時だから礼はいらないよ
状況は?」
穏やかで人を安心させる声は男性の勇者。
「魔人はいないね
って何でキミはお手玉してんの?」
ハキハキとした明るい感じの口調は女性の勇者だ。
「あ、これは、彼の癖というか…
やめて下さい投神様っ!」
「投神?」
「あ、はい
彼が∆∃⊄∶ζのギルド長から報告致しました、∑γ∴∝∶∣の地で保護された投神でございます」
「キミが……」
二人の勇者が俺をガン見してくる。
やんのかコラッ…って、嫌な感じはしない。
むしろ懐かしい感じだ。
二人とも金髪碧眼だが、柔和でどこか日本人顔…。
ふと、何かを思い出したような気がした。
「投神様、こちらが勇者のイィッタール様、アッケミー様です
ご挨拶を」
「あ、あぁ
俺は投神、宜しくな」
「!その発音は!『日本語』?!」
「えっ?日本語知ってんの?」
「知ってるも何も…」
「キミは一体…」
「ってか、もしかしてお父さんお母さんじゃね?」
「「はぁ?」」
「俺だよ、赤峰渉だよ!」
「「何だってーーー‼‼」」
激しい戦闘で更地になった大地に二人の勇者の絶叫が響き渡った。
勇者の絶叫を聞きつけた軍の精鋭が駆けつけて、事態はさらに混乱した。
勇者の無事を確認すると首根っこを捕まえるようにして、そのまま連行されていく。
この世界の勇者であり、俺の両親の面影を残す二人は「後で城に来て〜!」と悲しい声を上げながら城壁の方へ消えてていった…。
ドナドナ〜。
戦いが終わっても崩された城壁などの被害状況の把握、内部に入り込んだモンスターの残党狩り、軍の再編などの戦後処理がワンサカ待ち構えているのだろう。
「大変そうだな…」
「って、勇者様が両親ってどういうことなんですか?!」
「あー、俺もよく分からん…!」
何となく気づいただけで、顔も人種も変わってた。
しかも若いし。
てゆーか死んだハズだし。
「投神先生は†昇龍・チルドレンだったんですか?」
「……分からん」
固有名詞は聞き取りにくいんだよね…。
テンゲイン・チルドレンって聞こえたんだけど、意味不明だ。
「投神先生の強さなら納得です」
「いえ、そんな事はないと思われますが…」
「まぁ、後で城に行けば分かるだろう
俺もあの二人に聞きたい事は山ほどあるし」
「そうですね…
元々投神様を勇者様がたに引き合わせる為に着たのですが、戦争に巻き込まれるとは思いませんでした」
「ああ!俺ってあの二人に会いに来たの!?」
「…分かってなかったんですか?」
「ははっ、まぁね
会えて良かったね」
「………」
冷たい視線はスルーだ。
慣れてる。
「投神先生は勇者に会えるまで待ち、ですか?」
「そうみたいだね」
「なるほど
しばらくお供させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「良いぞ」
「えっ? まぁギルドとしては勇者様に引き合わせることが任務ですし、冒険者の自由行動を∞∇∶∂してはなりませんし…」
ちょっとクノイチさんがブツブツ言ってるが、とりあえず俺たちは城壁内に戻ることにした。
「派手にやられたな…」
城壁は大きく崩れ、瓦礫が散乱している。
外に向けて放射状に大きく飛び散っているのは、俺が投げたせいである。
相当量のモンスターの死骸があった筈だが、炎の蛾によって燃やし尽くされたようだ。
瓦礫の山が低くなっているところを登って街の中に入る。
冒険者や兵士、そして街の人々が活発に働いている。
こういった戦争に慣れているのか、もう復興に向けて動き出しているようだ。
「あ!橙色の大道芸人!」
「アンタ生きてたのか!」「おぉ!」
幾人かの街の人や冒険者に声を掛けられる。
投芸や魔人との戦いを観ていてくれた視聴者さんだ。
嬉しいんだが、助けられなかったあの親子を思い出して辛くなる。
「……俺も手伝おう」
今は身体を動かしていたほうが良い。
瓦礫撤去は得意だから率先してやろう。
「ありがとう!」
街の人々の表情は意外に明るい。
翡翠とクノイチさんも街の人々を手伝っている。
落ち込むよりは良いことなんだろうけど、俺には犠牲者を悼む気持ちが先にあった。
彼らのことがこのまま忘れられていきそうで、寂しいんだ。
復興に向けた力強い騒音のなか、俺はひとり孤独を強く感じていた。
「おーい、アンタ!」
女性の声が聞こえる。
瓦礫から人々を救出する時に手伝ってくれてた魔術師っぽい人だ。
少し疲れているようだが、明るい顔で俺のところにやって来る。
「連れてきたよ…
アンタに頼まれたからね!」
魔術師の後ろには二つの影。
「オレンジ色のおじちゃん!」
「お、お前は第一視聴者さん!
生きてたのか…!」
この街で最初に俺に投げられに来てくれた子だ!
母親も元気そうだ。
二人とも心臓の鼓動は聞こえなかったが、生きていたのか…!
「良かった!」
俺のところに駆け込んできた子供を抱きしめた。
そして何度も何度も上空に放り投げてやった。
戦が終わった祝砲のように、男の子の笑い声が街に高く高く響くのであった。




