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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
115/177

115、初めての生徒

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……



 神が放った槍と化したヤリムカデは、奇妙な男を簡単に飲み込むと思われた。

 しかし訳の分からない掛声に反応するように、何故か直角に進む方向を変えてしまった。

 そしてその槍が進む先には魔人。

 巨大な穂先はさしたる抵抗もなく魔人を粉々に砕いた。

 勢いを減じることなく槍は進み、轟音を上げて地面に深く深く突き刺ささっていく。


 ガガガガガガガガァンン……


 体の大部分が大地にめり込んだとき、終に槍はその突進力を失った。

 暫く棒状に固まっていたヤリムカデの体はとうとう脱力し、しなりながら尻尾が地面に激突していき、また地響きを盛大に立てた。



 辺りに静寂が訪れて土煙が落ち着くころ、漸く思い出したように私は声を絞り出した。


「な、何が、どうして……?」


 ヤリムカデはあの男を捉えたように見えた。

 それなのに進む方向をくるりと変えた。

 それも無理やりではなく、最初からそうするように。

 さらに勢いを増して…。


 先ほどこの男と空を飛び、地面に激突する寸前で起こった現象と似ている。


 この男は「投げ」ただけと言ったが…。


 巨大な槍と化したヤリムカデも「投げ」たと言うのか…?




 男が近づいてくる。


「ドクはダイジョウブカ?」


「あ、あぁ

 貴殿のお陰で助かった

 即効性はないが素晴らしい効き目だな

 って、魔技使用回数が1つ回復してるような……?」


「ソレはヨカッタ

 オレは投神

 チャンネルトウロクヨロシク」


「投神…、チャン、ネル…?

 それが貴殿の名前か…なるほど

 私は竜人族のスーディ・ジェ・スラン

 竜騎士だ」


 奇妙な男、投神・チャン・ネル殿と握手を交わした。

 ゴツゴツとした手は永い時を戦いに身を置いてきた証だ。


「貴殿には助けて頂いた

 私にできることなら何でもしよう」


「ホウ…

 デは、タノミガアル」


「頼み…?」


 竜人族にとって生命を救ってもらった恩義は重く、どんな要求でも受け入れるつもりだ。

 しかし、普人族は種族を超えても欲情するという…。

 ソッチ方面での恩義の返し方は容赦してもらいたい。

 いや、どうしてもと言うのなら仕方がな…


「イッショにイシをサガシテクレ!」


「い、石…?」


「アァ

 サッキ投ゲタ、オレのイシダ

 ワカンナクナッチャッタ」


「………良かろう」


 また少し怒りが湧いてきたのは何故だろうか…。






「それが貴殿の石か」


「ソウダ、タスカッタヨ」


「普通の石ころに見えるが…」


「コキョウのイシナンダ」


「そうか…

 この石には不思議な力があるのか?」


「アルゾ」


「私が投げてみても?」


「ヨイゾ」


 炎蛾を真っ二つにする程の強力な力を秘めた石ころを手に持たせてもらう。

 その辺りに落ちている石ころと何ら変わらないが…。


 ふむ…、私には装備やアイテム使用はできない、と。


 魔導具や特別なアイテムには思えないが、かの有名なEXダンジョンでは稀に意味不明なアイテムが産出するという。

 これもそういった類か。


 もしくは未知の魔技を使ったか、だが…。



「では、投げさせてもらおう

 えいっ!」


 シュ  ドムッ…


「………何も起きない

 普通の石だ」


「チガウ!」


「ひぃっ!」


 私が石を投げた瞬間、投神殿の目か怪しく光ったような…。


「な、何が違うのだ?

 やはり魔技を使うのか?」


「コシガハイッテオラン!」


「はぁ…

 腰を入れると効果が発動するのか?」


「コウダ!」


 シュンッ! バガンッ!ボオオオォォォォォォォォ…!


「炎っ?!

 貴殿は火系も操れるのか!?」


 しかも最高位黒魔術に匹敵する程の強烈な炎だ。


「ソンナコトヨリ、投ゲテミロ」


「あの炎がそんな事扱いで良いのか?

 …こ、こうか?」


 シュッ  ドムッ…


 やはり私が投げても何も起こらない。


「…スジはヨイ

 ヨイモノをモッテイルンダ

 シカシ、オマエノチカラはソンナモンジャナイ!」


「そ、そうか?」


「オマエにアッタ、フサワシイフォーム、タタキコンデヤル!」


「…ちょっとよく理解できていないのだが、宜しく頼む」


「アァ、オマエナラキロクをネラエルゾ!」


 こうしてよく分からない特訓がいつの間にか開始されていたのだった…。







 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……


「オマエノチカラはソンナモンジャナイ」


「くっ…!

 ま、まだまだ…!」


 投神殿から渡された石を投げては拾うことをひたすら繰り返す。

 たまに細かい指導が入り、手本も見せてくれる。

 しかし自らが考え、自らが気づけるようなヒントの与え方だ。


「何か、掴めそうな、気がするっ…」


 魔技が生えそうな感覚。


 通常は宿でレベルアップの際に自動で獲得しているか、選択によって取得するのが普通なのだが、稀に技を習熟して魔技となったり、閃きにより魔技を思いつくこともある。

 そして伝承。

 これはパーティー内で非常に信頼度が高い関係のもの同士が宿でゴニョゴニョすると、ごく稀に自らの持つ魔技や魔術が相手に伝承されることがあるらしい。

 職業に関係なく伝承は発生するので、非常に冒険者にとっては有効なものなのだが、行為が行為故に後々トラブルに発展することもあるという…。


 それはさて置き、この特訓は私にとって有意義なものと感じている。

 投神殿のようなあの美しい投げに近づきたい…!


「おらぁ!」


 シュッ!  ガンッ!


「ホウ…

 ヨイデはナイカ」


「や、やったか…?!」


 ピローン♪【魔技『飛礫』を取得しました】


「お、おお!生えた!………って、あれ?」


 いつの間にか目的が不思議な石の能力を引き出すことではなく、投げること自体が目的となってしまっていたが…、新しい魔技を取得したようだ。


 飛礫…、石を投げる際に補正が入るのか…。


 正直、あまり使えない魔技のように思えるが、投神殿の投げを見ていると使い方によっては有効かもしれない。

 何よりこの短い時間で魔技を取得できたなんて世に知れ渡ったら、投神殿の元に冒険者が殺到しかねん。


「投神・チャン・ネル殿、いや投神先生!

 お陰様で魔技を取得できました

 ありがとうございます!

 …しかし私では石の能力を引き出すことはできないようですね…」


「ソウカ…

 ダガ、オマエはソンナモンジャナイ

 ショウジンセヨ」


「…! はいっ投神先生!」



 竜人族の多くは竜騎士になるべく槍一辺倒の修練を積む。

 そのほうが竜騎士の選択肢が生えやすいと信じられているからだ。

 私も冒険者登録する前の幼少の頃から、竜騎士になってからも槍1本でやってきた。

 もちろん我が愛槍は転職していない者しか持てない『一角獣之槍』。


 しかし聖竜神国の古い慣習に囚われた生活や、軍の中の男尊女卑の扱いに耐えかね、自由な冒険者に憧れて国を飛び出したのだ。


 石を投げる。

 ただこんな単純な行為すらしてこなかった自分が恥ずかしい。

 魔技・飛翔が切れた竜騎士は弱いとされている。

 確かに飛翔からの槍攻撃に全て賭け、飛翔が無くなれば潔く倒れるのを是とする国柄だ。


 だが私は冒険者。

 たとえ翼が折れても生を拾う存在だ。

 その手段の一つとして、石を投げるというものがあっても良いんだ!

 単純だが、何か真理に近付けたような気がする。



 オーオーオー…!


 離れた所から雄叫びが聞こえる。

 勇者率いる軍の勝鬨のようだ。


 どうやらこの街は戦に勝ったらしい。

 城壁の中からも喜びに満ちた歓声が上りだした。


 私の心は戦に勝った喜びよりも、長年求めていた答えの片鱗を掴めたことに感情が高ぶっている。


 誇り高き竜騎士ではない、もっと根源的な力だ。

 ただ石を投げるということではなく、生き残る為の戦い方を学んだのだ。


「私は変われる…!」






 この第七次アルター防衛戦は適応種の魔人が3体も現れた大規模なものであった。

 城壁を3箇所も破られるという危機的な状況に陥ったが、二人の勇者や城壁内に詰めていた高レベル冒険者の活躍により防ぎきることに成功した。


 輝かしい勇者の影に隠れて橙色奇人の奮闘があったことはあまり知られていない。



 しかし一部の人々は確かに魅了されたのだ。


 橙色の装備に身を包んだ男に。


 後の世の学者や吟遊詩人は言う。


 このアルターの街から投神の快進撃が始まったのだと。


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