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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
112/177

112、劇

 瓦礫の上のひょうげた男が喜劇役者のように笑い、場違いにもお客を呼び込むような聞きなれない言葉を放つ。


「トザイ、トーザーイ」


 太陽之果実(オレンジ)の化身のような衣装を身にまとい、悲劇のどん底にいる人々に笑いかける様はいっそシュールである。


 魔人もいきなり現れた奇妙な男を警戒してるのか、人でいう口のあたりについている目をギョロリと動かして見上げた。


 屈強な高レベル冒険者でも魔人に睨まれたら恐怖で立ち竦むというのに、彼は全く気にした様子もなくニコニコとしている。


「オットット」


 調子に乗りすぎたのか、足を滑らして瓦礫から転げ落ちた。


 バッ


「ナンテネ」


 ありえない程の跳躍!

 全ての者が完全に虚を突かれ、気づくと男は魔人とへたり込んだ男の間に立っていた。


「は?」


 へたり込んでいた男は思わず間抜けな声をあげる。


「お前、いま、飛んだのか?」


「トンデモナイ

 投ゲタダケダ、ミズカラをナ」


「はぁ…?」


 訳のわからん男の行動に業を煮やしたのか、魔人が背後から斬りつける!


 シュウンッ! バゴンッ!


「えっ…、魔人は…?あれ?」


 斬りかかった筈の魔人は何故か瓦礫の山に突っ込んでいる。

 この奇妙な男が何かしたように見えたが、一瞬のことで誰もが現状を把握できていない…。


「トザイ、トーザイ

 トリイダシタルはタダのイシ!」


「ただの石ぃ?

 って、オレンジのあんちゃん、魔人が来るぞ!」


 激突して身体に覆いかぶさっていた瓦礫を爆破するのように魔人が突っ込んでくる!


「ハイ、コレを投ゲマス」


「ただの石投げてどーすん…」


 シュンッ! ズバンッ!


「……はい?」


 ほとんど目で追えないスピードの石が魔人に吸い込まれたかと思うと、鋭い音と共に魔人を上と下に真っ二つにしてしまった。

 あの恐ろしい魔人が、ただの石で…。


「あ、あ、あ、あんちゃん、一体何者だ?」


「オレは投神

 ブロキャサーダ!

 チャンネルトウロク、ヨロシク!」


「ブロキャサーダって何だ?聞いたこともねぇ」


「ブロキャサー!」


「よく分からんが、とにかくすげぇな!」


「スゴイノはコレカラダ

 『投ゲデマチをスクッテミタ』」


 オレンジ色の男はそう言って指を差し示した。

 その先には切断面がグニャグニャと蠢き、合体しようとしている魔人がいた。


「ひえぇぇ〜!アイツは不死身かよ?!」


「シチョウシャサンはサガッテテ」


「何言ってるか分かんねぇが、任せた!」


「…ソレデはハジメヨウカ

 セカイを〜投ゲ投ゲ!」


 どこまでもおちゃらけた態度の男は、完全に上半身と下半身が合体した魔人と対峙する。


 引っ付いた部分からは不自然に足と腕が生えてきている。

 これでこの魔人は腕が4本で足が3本となり、禍々しさが増えたように見える。

 この個体は再生能力に特化しているのかもしれない。


 かなりの高レベル冒険者でも魔人のソロ討伐は不可能とされている。

 それなのにこの橙色の男は何ら恐ろしいことなど起きていないような態度だ。

 むしろ楽しい遊戯の始まりを告げる道化のような振舞いである。


「トリイダシタルは!」


 橙色の道化師が白い不思議な袋から何かを取り出そうとしたが、それに反応して魔人が襲いかかる。

 4本の腕に持つ2本の剣を振り下ろす!


 シュンッ「アブナイ!」

 シュンッ「キケン!」


 男は魔人の剣をギリギリのところで躱していく。


「ボウリョクハンタイ!」


 そして独り喚いている…。


 街の人々は目の前で行われている光景にひどく混乱した。

 異形の魔人が剣を振り下ろし、腹のあたりから生えた足で蹴りを繰り出しても、橙色の道化師はギャーギャー喚きながら躱していく。

 それはまるで剣舞。

 いや、やはり見世物小屋の喜劇だ。

 奇抜な格好をした二人のドタバタとした喧嘩の滑稽劇(パロディー)


 次第に恐怖は薄れ、人々はいつしか祭日の観劇気分にすり替えられていった。



「頑張れー、橙色の!」


 1人の男が声をあげた。

 それが呼び水となり、街の人々は観客となったのだ。


「いいぞ!オレンジ野郎!」

「しっかりー、太陽の果物(オレンジ)さーん」

「うしろうしろ!」

「休むな!真面目にやれ!」

「どうした魔人!そんなもんか!?」

「魔人が聞いて呆れるぜ!」


 とうとう魔人にまでヤジを飛ばす始末だ。

 攻撃を躱す度に拍手が起こり、笑い声が生まれる。


 人々は熱狂した。

 その声を聞きつけてさらに観客は増えていき、狂乱の渦に飲み込まれる。

 誰もがこの喜劇は死と隣り合わせの戦いであることを知っている。

 だからこそ、異様なまでのスリルと技の冴えとユーモアにのめり込んでしまうのだ。


 奇妙な男に翻弄される魔人を観て、今や人々の世界観は変わってしまった。


 魔人は絶対的な恐怖の存在ではないことを、識ってしまったのだ。



「しかし、あの橙色の男は一体何者なんだ?」

「投神って言うらしいぜ」

「凄腕の冒険者か?」

「いや、大道芸人?」

「ブロキャサーダっていう職業らしいわ」

「武狼伽沙汰?」

「聞いたことねーな」

「そういやナジョウで吟遊詩人のフウと組んで奉納表演したオレンジ色の男がスゴイって噂になってたな…」

「あっ!私も聞いたことある!」

「両極の…コレか?」

「さあな

 とにかく、まぁすげぇ芸を披露したらしいぜ」

「じゃ彼は吟遊詩人?」

「……歌わねぇから、吟遊詩人の派生職業か?」

「う~ん…」


 街の一部の人々は異様な芸を披露する投神の正体を推察する。

 誰もがまさか無職とは考えていないが…。




 橙色の男にやりたい放題の喜劇に付き合わされた魔人はとうとう苛立ちと怒りを見せた。

 膨れ上がる殺気を剣に纏うように魔力が集まる。

 わらわらと集まっている観客を先に一掃する気なのだ!

 観客はそれに気づき、一斉に悲鳴をあげる。


「ソレはダメダロ」


 シュンッ ズガンッ!


 高い魔力が宿った剣が人々に向けて振り下ろされる直前、橙色の男は魔人を地面に深くめり込ませる程に投げ飛ばした!



 街がシンと静まりかえる。


 乱雑に組まれていた石畳は陥没し、ひび割れた。

 その中心には時おり痙攣を繰り返す魔人。



「や、やりやがった!」


 前線の街に割れんばかりの歓声が上がる。

 最後は悪者がやっつけられるお決まりの劇の結末のように、正しく悪が倒されたのだ!

 溜まっていた鬱憤をはらすように、手を叩き橙色の奇妙な男を褒め称えた。


 人々の浮かれた祝福のなか、その中心にいる男は独り沈んだ表情をしている。


「どうした、橙色の!

 さっきまでのおちゃらけた態度はどこいっ…」


 男の視線に誘われて地面に沈んだ魔人を見ると、人の形を無くしてアメーバのようにグニャグニャと動いている!


「何だこれは!?」


「ハナレテ」


 異変を感じた人々は潮が引くように素早く後退り、異形の成れの果てと奇妙な橙色の男だけが取り残された。


 男は静かに異形を見下ろす。


「オレモオマエトオナジダ

 イセカイカラキタ

 ダカラコソ、イワセテモラウ

 ゴウニイレバゴウニシタガエ、トナ

 ソレガイホウシャにユルサレタイキルミチダ」


 悲しげに男が異形に語りかける。

 しかしその言葉は、街の人々にとって大部分が意味の通じないものであった。


 男は白い袋から赤い石を取り出し、構えた。


「オレはコノセカイノカタスミにスマワセテモラウ

 ブロキャサートシテ、ヒトビトをエガオにカエテ、ナ」


 赤い石を握る男の手に、何かが集中していく…。

 魔素や方向性を与えられた魔力ではない。

 そんな異質なものではない、根源的で懐かしいような透明な力だ。


「モヤシツクセ、アカイシ」


 シュン ボオオオオオオオウウゥゥゥゥゥゥゥ…!


 巨大な火柱が上がる。

 オレンジがかった眩しい炎だ。

 全てを灰に帰す浄化の化身。

 その中心にいる魔人だったものは悲鳴を上げる口を構築できないままに悶え苦しんでいる。

 それを静かに見届ける橙色の男の姿は、煌々と炎の輝きを浴びてさらに自らが輝く太陽のように人々の目に映った。





 アルターの街の人々の心に強烈な衝動を与えた橙色の男によるこの魔人討伐劇は、その後数百年続く祭りとして象徴化されて受け継がれていくのはまた別の話…。




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