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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
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110、瓦礫の山の冒険者たち

 突如として陽光の差す明るい地表に召喚されて戸惑っていたようたが、少し慣れたのかゲジグモたちは自らの脚を1本ずつ確かめるように丁寧に舐めている。

 大地を埋め尽くすほどのゲジグモが一斉に脚をゆらゆらと蠢かすのは、暖かい血を持つものに根源的な恐怖を呼び起こすものだ。

 その場から動く気配はなかったが、群れの前方にいる一匹のゲジグモが不意に眼の前にいるゴブリンソルジャーに飛びかかった。

 何の感情もない完全な反射的な行動である。

 不快な叫び声を上げるゴブリンにのしかかり、無慈悲に毒牙を突き立てる。

 それを見たゴブリンたちは恐怖に駆られて我先に逃げ出したが、それはゲジグモたちのさらなる反射行動を誘発するだけだった。

 動くものに飛びかかる、単純明快な行動原理。

 ゲジグモたちはその圧倒的なスピードでゴブリンたちを駆逐していく。

 魔人は魔物同士が喰い合うのを止めようともしない。

 むしろ自らが召喚したゲジグモに餌を与えているかのように見える。


 動くゴブリンが居なくなったのを確かめると、魔人は街を指差し、ゲジグモたちに命じた。


 次の獲物はあの檻の中だ、と。



 彼らは組み敷いて体液を啜っているこの貧弱な獲物よりも、遥かに美味なる獲物があの中には埋め尽くされているのを本能的に察知した。


 ゲジグモたちは一斉に動き出した。


 他の個体より多くの獲物を得る為に。

 大きくなってより多くの子孫を残す為に。

 柔らかい皮に包まれた暖かい血袋に牙を立てるのだ!



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「来た来た来た来た来た来た来た来た!」

「わかってるよ!うるせぇっ!」

「お姉様!どうしましょう⁈」


 冒険者が動揺した声できいてきます。

 激走蟲よりも攻撃力が高く、素早いゲジグモは一般人には抗うことができない危険な魔物です。


「ゲジグモがは何としてでもここで食い止めないといけません

 いずれ勇者様がた率いる軍が救援に来てくれる筈です

 その時まで頑張りましょう」


「「お、おう!」」


 実際には勇者様がたがすぐに助けにきてくれるというのは難しいと思われます。

 街をひっくり返す為に策略を巡らせてきたということは、勇者様がたを城外に足止めさせておく準備もしている筈。

 望みがあるとすれば、他の街から飛行騎士団が駆けつけてくれるか、ゲートダンジョンからの転移による救援でしょうか。

 どれも時間がかかりそうですね…。

 でもこの街がひっくり返れば、パタパタと連鎖的に他の街も魔人の手に落ちるかもしれません。


 全人類にとって分岐点となるかもしれない戦い…。

 ギルド情報部の前に1人の戦える者として命を賭して戦いましょう。


「カイファー、参ります!」



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 カイファーは両手に装備した忍者専用武器である苦無を投げる!

 弓矢と同じ射程範囲の苦無は瓦礫の山をものともせずに登ってくるゲジグモの頭部に突き刺さる。


「『戻れ(リターン)』!」


 カイファーが予め定められた鍵呪文を発する。

 苦無に付与された回帰機能が発動し、カイファーの手元に瞬時に戻ってきた。

 高純度の魔石と高レベル錬金魔術師の付与が必要だが、投擲武器には必須の機能である。


「お姉様に続けー!」


 遠距離攻撃手段を持つ他の冒険者も攻撃を始める。 

 ゲジグモは激走蟲と同じで、それほど強固な甲殻を持っている訳ではない。

 急所である脳天から体の中心を通る脊索を破壊すれば討伐可能だ。

 しかし12本の長い脚を動かして滑るように移動する(まと)に、正解に命中させるのは熟練の冒険者でも難しい。

 恐怖で腕が鈍る冒険者の中にあって、カイファーだけは臆することなく的確にキルカウントを稼いでいる。


「奥義『千手』」


 カイファーの魔技!

 投げた1本の苦無が何十本にも分裂した!

 魔技によって生み出された幻影なのだが、それぞれに本体と同じ攻撃力がある。

 瓦礫の山を登りきろうとしていた十数匹のゲジグモを一気に殲滅した。


「流石お姉様っ!」

「やるな女忍者!

 レベル200オーバーか?!」


 カイファーが“千手”と改名(カスタマイズ)している魔技・幻影魔投は低レベルの間は幻影の投擲物が1つ発生するだけだか、忍者の灮闡能力によりレベルに比例して生み出される幻影が増えていく。

 レベル200ほどの忍者になると発生する幻影の数は30以上。

 幻影は実体の投擲物の周囲にランダムに発生するので、全ての幻影が敵に命中する訳ではないが、それでも範囲攻撃魔術に匹敵するほどの効果がある強力な魔技である。


「『乱れ打ち』」


 負けじと狩人の代名詞といわれる弓矢の魔技が放たれた。

 幻影魔投と同じく、1本の矢が何本にも分裂して一斉攻撃を加えることができる強力な魔技である。

 矢の数はランダムであるが広範囲に降り注ぎ、多くのゲジグモを行動不能にした。


「流石、狩人!

 だが上級職として負けてられねーな…

 魔剣化!『炎之大切断』」


 魔剣士の最大の特徴である“魔剣化”。

 自ら装備している剣に魔術を付与することができ、その状態で魔技・大切断で剣の衝撃波を飛ばせば斬撃と同時に魔術攻撃を加えることができる。

 魔剣士の放った斬撃は火系黒魔術の追加攻撃で十数体のゲジグモを薙ぎ払い、燃やし尽くした。



 冒険者は魔技を惜しみなく使い這い上がってくるゲジグモを蹴散らす。

 それでも感情を持たない虫系魔物であるゲジグモは怯むことなく進軍する。


 倒しても倒しても、その分だけ屍と瓦礫を乗り越えてくるという拮抗状態が続く。

 しかし冒険者の魔技の多くは回数制限がある。

 強力な魔技を打てなくなった時に敵をどれだけ減らせているか、運命の分かれ道であろう。 

 それでも冒険者たちは魔技を放つしかないのだ。




「魔人に動きあり!」


 目の良い狩人が警告を飛ばす。

 魔術師系の者なら視えるであろう、魔人は魔素を集めている。


「こ、これはヤバいんじゃない?!」


 冒険者が悲壮な声を上げる。

 魔人は集めた魔素に命令を与え、四方にばら撒いた。

 そして大地の上に染み出す黒い影。

 ほんの数刻まえに見た光景だ。


「マジかよ…またゲジグモを呼び出しやがった…!」

「キリがない」

「こっちは魔技使用回数残ってねぇよ!」


 新たに召喚され、地面にへばりついているゲジグモは、魔人の指し示す街に向かって一斉に動き出した。


「おかわり来た!」

「これは侵入されちまう…!」

「おわた…」


 ゲジグモごときに倒されるほど低レベルな冒険者たちではないが、街の人々は抗うことはできないだろう。

 そして街の重要施設や城主が倒されれば、街の支配権が魔人側に移る(ひっくり返る)

 そうすれば街に残された人類はもう死を待つのみである。


 破滅が形となって現れたようなゲジグモが押し寄せる。

 もう強力な魔技を放つ者は絶え、冒険者の心が諦観に傾いてきた時、先頭を走るゲジグモの群れが突如として爆発した!


「『飛竜・爆撃彗』!」


 爆発が起こった円の中心には大地に槍を突き立てる者がいた。


「諦めるな

 我も戦う」


 重々しい声を発する鱗で覆われた爬虫類の如き相貌の冒険者。


「竜人族…!」

「ってことは“竜騎士”か!」

「初めて見た!」


 竜人族は耳長族と同じく自らの国から出ることは少ないとされている。

 強靭な竜の力を秘めた人類であり、特に竜騎士という職業に就いた者の槍は全てのものを穿つと云われるほどだ。


「『乱れ打ち』」

「俺たちも来たぜ!」

「G退治が終わったら、こっちもGかよ…」

「はははっ、こうなりゃヤケだよ」


 街中で激走蟲討伐を行っていた冒険者たちも続々と集まってきた。

 元々ここアルターは前線の街であり、勇者のお膝元。

 戦争に備えて高レベル冒険者パーティーが集まってきていたのだ。

 激走蟲や城壁が破壊された混乱が収まれば、冒険者の動きは早い。


 折れかけていた冒険者たちの心に希望の火が灯る。


「よ、よっしゃー!押し戻せー!」

「けっ、今までビビってたくせに!」

「はっ!お前ぇもだろうが」

「はいはい、君たち分かったから、『流星盾』」

「「エグっ!」」


 重戦士の魔技・流星盾は自身の持つ盾をブーメランのように投げ飛ばして複数の敵にダメージ与えることができる。

 ダメージ量は盾の重さに比例し、金属製の巨大盾をぶん投げた場合の威力はかなりのものがある。


 駆けつけた冒険者たちの奮闘により、ゲジグモを押し返すことに成功した。

 しかし魔人はゲジグモの数が減れば召喚し、一進一退の攻防となっている。




 激しい戦闘が行われているすぐ傍。

 オレンジ色で統一された装備の男がノロノロと瓦礫を掘り返している。

 先程までの不自然なまでの勢いはなく、ただただ動作のひとつひとつが重い。


 結末を既に知っている悪夢の中を彷徨うように。


 冷たい深海の底に漂う難破船のように。



 一つの瓦礫を持ち上げたとき、ビクリと震えて固まってしまった。




 長い時をかけ、ようやく彼の喉から声が絞り出された。



「ボウズ…」


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