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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第1章 岩ばっかりの異世界でスローライフ(Throw Life)!
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11、文化レベルアップ!

 巨大なヘビトンボに止めを刺した。

 虫とはいえ自分より大きな生き物の命を奪ったことに心が痛んでいる。

 どのみちヘビトンボとは友好的な関係を築くことはできなかっただろう。

 もし毒から回復したら、こっちが襲われて命を落としていたかもしれない。

 ここは誰もいない何もない異世界。

 生き残る為には、危険を力ずくで排除していかなくてはならない…


 …と、自分を正当化しようとしても、心は晴れない。

 せめて亡骸は有効利用してやりたいな。


 地方によっては川虫の幼虫を食べる文化がある。

 『ざざむし』というやつだ。

 俺自身もヘビトンボの幼虫を串に刺して炙って食べたことがある。

 お師さんに『修行の一環だ』という理由で深い山奥に放り込まれた時だ。

 あの時は食べれるものは何でも食べたよなぁ。

 ……あの野郎!

 その中でヘビトンボは割と美味しい部類だった。クリーミーで。

 ただ成虫は食べたことないし、鯉の毒に侵されている可能性が高いので、この巨大ヘビトンボを食べるのは辞める。

 頑丈そうな殻や羽は道具として利用させてもらうよ。


 先ずは、湖が毒に汚染されないように離れたところ運ぼう。

 近くで見ると体の節々がトゲトゲで剛毛も生えている。

 外骨格は戦車の装甲のように頑丈そうだ。

 全く動かないのだが、怖いので石苦無で軽く叩いてみる。

 ……大丈夫、ちゃんと星になったようだ。


 足を持って引っ張ってみると、意外に軽い。

 持った感じはデカい蟹だな。ちょっとチクチクする。

 小さな丘の向こう側まで行けば体液とかが湖に流れ込まないだろう。



 さて、石苦無を投げて解体しようか。

 使えそうな硬い殻は背中のあたりと足、顎。

 頭は角石で潰れているから廃棄だ。

 そしてこの大きな4枚の羽と触角を残して、あとは赤石で焼却しよう。


「南無阿弥陀仏」


 石苦無を投げつける前に祈りを捧げる。

 この世界に仏様はいないかもしれないが、この祈り方が今の自分に一番しっくりくる。

 有効利用させてもらうよ。


「投げる」


 シュッ ズバン!






「ふぅ…なんとか使えそうなパーツが取れたな」


 体内の角石を回収し、硬い部分と柔らかい部分に分けた。

 赤石を持ってきて柔らかい部分を燃やす。


 シュッ ズガンッ ボォォォー


 油分でもあるのか、火は消えることなく煙を立てて高く燃え上がっている。

 毒があるかもしれないので、煙を吸わないように注意しつつ燃え尽きるまで見守った。




「この羽は何に使おうかな?」


 樹皮のような、蛇のような模様が入った、少し透明感のある巨大な羽。

 ところどころに強力な芯が入っていて、驚くほどに軽くて強い。

 あれだ、ワンタッチ式のテントのようだ。

 ぐるぐると腰に巻いてみる。


「お、良いじゃん!」

 パレオみたいな感じで、なんかおしゃれ?

 フル○ンよりは良いよね。

 でも反発力が強くて、手を離すとバイーンと元に戻る。

 触角で縛ろうか。

 この触角も頑丈で、水道の蛇口についてる伸びる金属製のホースのような感じだ。


「…よいしょ、ん〜…何とかできた!」


 触角はあまり曲がらず、固結びができないので苦労した。

 巻きつけるようにして何とか固定。

 これで裸生活ともお別れだ。

 お〜股間が暖かく包まれている…。

 文化レベルが上がった感じがする!

 残りの羽は布団にしようか。

 やったぜ羽布団!



 ヘビトンボが食べていた鯉の内臓も処理しておこう。

 放置しておくのは何かと危険な感じがする。

 角石と石苦無を持って対岸まで歩いていく。

 湖面に映る自分の姿に満足する。

 ちょっとした南国リゾートに見えなくもない。

 髪の毛がオレンジだけど!



「あの辺りだったよな…って、何かいる…」


 見渡す限りの黒い岩の大地。

 その遥か向こうに赤い何かが動いているのに気がついた。

 数は3つ。

 蜃気楼のように揺らめいていて、よく見えないが『人』っぽい。

 こっちに向かって歩いてきているようだ…。

 この世界で初めての生命体らしき影。

 生き物というだけで、親近感というか、ちょっと嬉しい。



 今までの経験上、異文化の人々に初めて会うとき、相手に与える印象はすごく大事です。

 大事なのは、あなたに危害を与えませんよ、あなたを尊重しますよという落ち着いた態度だ。

 満面の笑みのあからさまなウェルカム感も警戒される。

 睨むのは完全にアウト。

 あくまで自然に、お互いの存在を許容しあえる距離感を保ち、視線や体の動きで無害を確認しあってから話しかけるのだ。

 言葉の通じないアボリジナル・オーストラリアンの伝説の狩猟の達人たちや、モンゴルのタイガのツァターンの人々と暮らしたのは良い経験だった。

 ああいう異文化で自分の凝り固まった価値観を壊してもらい、より投げの高みへと登れた気がする。

 …異文化を超えて異世界に来るとは思わなかったが。


 とにかくこちらが緊張してては相手にもそれが伝わる。

 のんびりと彼らを待とうではないか。

 念のため角石と石苦無は近くに置いて、鯉の内臓の残骸のところで待つ。

 多分だが、この臭いを辿ってきた気がする。


「あ、苦玉が齧られてる…」


 他の内臓はあらかた喰われているが、苦玉は少し齧ってやめたようだ。

 それであの巨体が中毒を起こすとは…、なかなか強力な毒らしい。



 ようやく3人?がはっきりと見えてきました。

 向こうも俺に気づいている模様。

 異世界ファーストコンタクト。

 平和的でありた……、


「ギャー!襲ってきた!」



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