108、投げ耳
投げ耳[NAGEMIMI]
解説しよう!
投神は異世界投げパワーの効果により、投げ集中時は普段の数十倍の聴力を得ることができる!
犬や猫も真っ青だ!
なんつって。
犬や猫より聞こえてるかは知らん。
とにかくよく聞こえている。
崩壊した城壁を登ろうとしているモンスターたちの挙動が手にとるように分かるほど、聞こえる。
これはあれだ、ゴブリン系だ。
岩の大地の頭に赤いバンダナを巻いた奴らよりは運動能力は低いようだが。
この街の人々を襲いにくるのだ。
許すまじ!
視聴者さんは俺が守る。
「そぉーれっ!」
ヒュンルルルルルルルルル…… バゴーン!
「命中」
巨大な岩を顔面に受けたゴブリンが登りかけていた瓦礫の山を転がり落ちた音が聞こえた。
転がり落ちる際に他のゴブリンを何匹か巻き込んだが、ゴブリンはまだウジャウジャと登ってくる。
どんどん行くぜ。
ゴブリンの群れは岩の大地で経験済みだ。
投げるべき瓦礫は小山ほどある。
何も恐れることはない。
「ほいっと、ほいっと」
瓦礫の下に人がいるかもしれないので、激しいステップは踏まずに振り子のように投げる。
綺麗な放物線を描く瓦礫は、不安定な足場に意識を取られているゴブリンの顔面を直撃していく。
頚椎が折れる音が聞こえているので、もう登ってくることはあるまい。
「ほいっと、ほいっと」
ゴブリンどもを迎撃しつつも、最優先は瓦礫の下敷きにされた人々の救助だ。
む、街の人々が集まってきた。
冒険者が多いようだ。
「城壁が…!」
「もう終わりだ…。」
「早く逃げねぇと!」
「馬鹿か!どこにも逃げられねぇよ!」
「この街は魔物と魔人に囲まれちまった
勇者様が戦ってはいるが、街の中までは手が回らない…
じきに魔物を従えた魔人がやって来て、俺たちはおしまいさ」
「前線なんか来なきゃ良かった…」
「お前が言い出したんだろ?!勇者様がたがいるから心配ないってよ!」
と、冒険者たちは揉めてらっしゃる。
投げ耳の効果なのか、いつもより内容を理解できた気がする。
まぁ推定なんだけどな。
「お〜い、君たち!
瓦礫に埋もれた人を助けるのを手伝ってくれー!」
俺が声をかけると冒険者たちはギクリとして、口喧嘩をやめた。
俺の話し方が変なのか、それとも頼みの内容が変なのか、冒険者たちは顔を見合わせて微妙な表情をしている。
相談し始めたようだが、俺はその間も手を休めずに瓦礫を撤去し、ゴブリンにぶつけていく。
「生存者っ!」
瓦礫に埋もれた人を発見!
すぐさま掘り起こして助け出す。
「大丈夫か?しっかりしろ!」
「ううう……」
この兵士の服装をした男性は、ところどころ出血は見られるものの命に別条はなさそうだ。
回復魔術なんてものが存在する世界だから大丈夫だろう。
「おいアンタ!手伝うぜ!」
生存者を見た冒険者たちは救助を手伝ってくれるようだ。
「ありがとう
では、この人を頼む
俺はどんどん掘り起こす」
「ああ、了解だ
しかしアンタすげぇな…!」
「そうか?」
生存者を冒険者に預け、俺は瓦礫の撤去に戻る。
瓦礫の下の微かな音を頼りに。
「ほいっと、ほいっと…、生存者だ!」
兵士を発見!
彼も骨折はしているが、助かるだろう。
待ち構えていた冒険者に引き渡す。
「俺たちも瓦礫をどけようか?」
「いや…
生存者が発する音を聞き取って掘り起こしてるから、できるだけ静かなほうが見つけやすい
お前たちは生存者の搬送と、あとゴブリンがもし街に侵入したらやっつけてくれ」
「わかっ…、は?ゴブリン来てんのか?」
「あぁ、ウジャウジャいるぞ
今のところ瓦礫をぶつけてるから大丈夫だ」
「はぁ……?」
おっと喋ってる暇はない!
一匹登りきりやがったじゃねーか。
「ほいっと!」
平べったい瓦礫を円盤投げで投擲!
首チョンパだ。
南無ー。
女性から悲鳴が上がるが、許して欲しい。
残酷だが、緊急事態なんで。
集中していこう。
埋もれた人を救出するのは早いほうが良い。
この瓦礫の山を全て投げる覚悟だ。
ついでにゴブリン退治な。
「投神、参る!」
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「いやいやいや!有り得ねぇんだけど!」
奇抜なオレンジ色で統一した装備の冒険者風の男が、崩れた城壁のでっかい瓦礫を1人で投げ飛ばしている。
瓦礫は凄まじい勢いで街の外側へ飛んでいく。
レベル300オーバーでもこんなに飛ばせねぇって!
しかも瓦礫は街の外から侵入しようとする上位ゴブリン種のゴブリンソルジャーに直撃している…。
全弾だ!
俺は崖の上に登って見てきたからな!
何百といるゴブリンの群れの一番上の奴から順番に撃墜してやがる。
有り得ねぇが事実だ。
しかもこのオレンジ野郎は、瓦礫に埋もれた生存者をピンポイントで掘り起こしているようだ。
既に十数人が助け出されて教会に運ばれた。
救助が早かったから命は助かるだろう。
しかし何てヤツだ!
化け物だ!
いや、神か…。
もう三分の1ほど瓦礫を投げ飛ばしやがってる。
息は乱しちゃいるが、まだまだ投げる気だ…。
俺もレベル200超えて地元でイキってたが、上には上がいるもんだぜ…。
「やっぱ辺境って怖ぇなぁ…」
お、また生存者発見か。
こんなヤツがいるなら、この街も大丈夫かも知れねぇな。
前もって勇者が配置してたのかもな。
勇者なら有り得る。
よぉーし…。
「生き残れるなら、しっかり働いて報酬貰わねぇとな!」
「うわっ、いきなり何だよ、リーダー!」
「ばかやろう、アイツは勇者が派遣した奴に違いねぇ!
勇者は城壁が破られるのを見越してたんだよ
んでアイツを配置しておいたんだ
ってことは、この街はひっくり返らねぇ!
しっかり働いとかねぇと、生き残ったあとに恥かくぞ!」
「マジか⁉︎」
「どうすればいい?」
「俺とお前は弓が使えるから、崩れてねぇ城壁の上に立って敵を迎撃だ!
他は怪我人の搬送とG退治っ!」
「「「え〜っ!」」」
G退治と聞いた居残り組は不満げだ。
「うるせぇ!こんな辺境まで来てんのに目立っとかねぇと後が怖ぇ!
いくぞっ!」
「お、おお…」
俺は強引にパーティーメンバーに指示をして崩れていない城壁の登り口に向かった。
とにかく勇者に連なる者にアピールしておかねぇと!
後であいつらは逃げたなんて言われたら、この国にいられなくなっちまうぜ。
「いそげぇー!」
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急がなくては。
瓦礫の中の微かな呼吸音が聞こえる。
もう弱々しくなっている…。
くそっ!瓦礫を剥がす為に指を突っ込むのだが、手が血だらけになってきて滑る。
「つっ…、あ、しまった!」
痛みに気を取られてゴブリンを一匹侵入させてしまった!
シュターンッ!
「おっ!ナイス!」
崩壊していない城壁に立った冒険者が弓矢で迎撃してくれた。
眉間を矢で撃ち抜かれたゴブリンはフラフラと崖下に転がり落ちていった。
反対側の城壁にも別の冒険者が立った。
助かるわー!
ちょっと撃ち漏らしても援護がいるってのは精神的に余裕がでてくる。
手は痛むし滑るが1人でも多くの人を助けたい…。
このデカい瓦礫は流石に空気投げできん。
今の俺ではな…。
「ちょっとアナタ、大丈夫?
…………『⊃Ξη』」
魔術師っぽいお姉さんが恐らく治癒魔術をかけてくれた。
「∈δΥ∇∂の中ならもっと効くんだけどね…」
「ありがとう」
「ぷっ…、変な喋り方ね」
お姉さんは軽く笑う。
嫌味は感じない。
少し痛みが和らいだ手で瓦礫撤去を再開する。
ほいっと、ほいっと。
「そろそろ生存者が見えてくる」
さらに瓦礫をどけていくと、人の腕が見えた。
とりあえず先に呼吸をさせてやりたいから、頭付近の瓦礫をどける。
「ほんとに分かるのね…
ここまできたら私たちが掘り起こすわ
アナタは他の生きている人を探して!」
「ああ、助かる」
女性魔術師は他のメンバーに指示を出して数人で埋もれた人を掘り起こしてくれた。
俺はそれを横目に投げ耳を研ぎ澄まし、生存者を探す。
……いた。
だいぶ奥のほうだ。
早く掘り起こさねば!
「むっ!」
ゴブリンとは明らかに違う者が登ってきている音をキャッチしたぞ。
これは…人型だが、手足の数が多い…?
「魔人だー!魔人が来たぞー!」
城壁に登った冒険者から悲鳴のような警告が飛ぶ!
魔人…。
あのダンジョンで出会ったシェーン、シューンだっけ?の仲間か。
冒険者の緊張具合から見るに、やはり危険な存在のようだ。
そんな奴は街に侵入させてなるものか。
「投げる…!」




