107、1+1=0
およそ数百匹の羽フナムシに囲まれている。
地面にへばりついているとカマドウマにも見える。
いや、やっぱりゴキブリか…。
いずれにせよ不快な巨大昆虫の群れが俺を標的にしている。
ここはハつ石を使うしかないな。
回収するのが辛いんですが…。
「きたっ!」
一匹が動けば全部が動きだした!
ザザザザザザッていう音がもうキショい。
「し、縞石!」
アンダースローで投げた縞石は地面を這う多くの羽フナムシを切り裂いた!
しかし飛んでいる奴らは巻き込めていない。
後方からも這い寄ってきた。
「近寄るなっ!泥石!」
軽くジャンプして先頭を走る羽フナムシに投気を込めまくった泥石を投げつける。
グシュンッ! ギィン!
泥石がぶつかったところを中心に地面が陥没し、周囲の羽フナムシもひしゃげるように潰れた。
次は赤石…、は駄目か。
街中で燃やして火事になったら大変だ。
「ヒィィッ!?」
どの石を投げるべきか迷っている間に一匹の小さな羽フナムシが背中に取り付いた!
噛み付かれたようだが橙色装備を食い破る力はないようだ。
良い仕事してるじゃないか、あのフレンドリーエルフさん!
それよりも精神的ダメージが危険域に達してきたので、背中に手を伸ばして引き剥がした。
また一匹接近されたのでそれに思いっきり投げつけた!
ドグシャッ!
「くっ!触っちまったよ!
ひ〜、こうなりゃヤケだ!」
1足す1はゼロの法則で消していってやる!
素手でな!
「こいやー!」
飛んできた羽フナムシをガシッと掴んで別の羽フナムシにぶつける!
ゴツゴツとした殻だけど脂ギッシュなのは無視だ!無視!
当たりどころが悪ければ殺しきることができないので、頭部と頭部が当たるように調整しなくてはならない。
ドグシャッ ドグシャッ ドグシャッ ドドグシャッ
こんな投げ放題は流石の俺でも嫌なんですが。
ドグシャッ ドグシャッ ドグシャッ
それでも独特の難しさと処理スピードを究めていると、なんだか楽しくなってきました。
壊れてきたとも言えるが。
「はははははははははは!」
なんだろう…。
境地に至る感覚…
手が油で滑るが、関係なくなってきた
掴まなくても投げられる気がする
ほら…
足の一本でも触れてりゃ投げられる
なんで?
いや…
いっそのこと触れなくても投げられるんじゃね?
周りの空気?空間?
それで投げれば良いんじゃね?
ここをこうして…
「空気投げ!」
シュンッ ドグシャッ!
「できた」
あっさりとできた。
空気、空間で投げる。
それが投げられるものだって認識しちゃえば良いんだ。
何もおかしなことはない。
「空気投げ」
しかしコントロールが難しい!
狙ったところに、狙った角度で投げられん。
1足す1はゼロの法則が乱れる!
難しいが練習台はいくらでもいる。
結構倒したけど、仲間を呼び集めるのかあまり減ってない。
良いぞ、どんどん来い!
グフフフ…。
「付き合ってもらうぞ、羽フナムシ」
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「どんどん魔素濃度が上がってます!」
賢者とみられる女性冒険者から警告の声があがります。
いずれは拡散されることでしょうが、一時的にダンジョン内のような雰囲気になってきてます。
純粋な戦士職の冒険者たちも、今ではこの魔素の濃さに異常を感じるようになってます。
この付近の激走蟲の数は減ってきていますが、空には転々と赤黒い影が飛び交い、今なお大量の激走蟲が城壁を越えて侵入してきています。
ここ以外でも冒険者たちが激走蟲を駆除しているようで、どんどん街の中心に向かって飛んでいます。
街に入ってしまった魔物は排除しなければなりませんが、これ以上魔素が充満するのは危険があります。
「俺たちも魔術を使って駆除するか?」
「ん〜魔素量にムラがあるし、事故が怖いな〜
魔素が減る訳でもないし…」
発生してしまった魔素は魔術を使っても消滅はしない。
「風系魔術でGがこれ以上街に入って来ないように吹き飛ばすとかは?」
「お、良いかも!」「それなら魔素が増えはしない」
「簡単に言うけど、魔術は融通が効かないんだからね!
魔法じゃないんだしっ!」
確かに城壁の上に立って風系魔術を放てば、いくらか激走蟲の侵入は防げるかもしれません。
しかし街の規模を考えると、効果は少ないと思われます。
「あれ…
魔素が…流れていく…?」
魔術のエキスパートの賢者が魔素の流れを感じとられたようです。
そう言われれば、戦闘が行われている正門とは反対側の裏門のほうに魔素が集まっているのを感じます。
「これはヤバい!」
賢者の切羽詰まった叫び!
そのとき全ての人の目を眩ませる真白な光が輝き、一拍遅れて振動を伴う凄まじい地響きが轟いた!
ズドドドドドドドドドドドドドドドオオォォォォンンン…
「な…、何が起こったのですか…?」
漸く目が見えるようになりましたが、裏門の方角から濛々と砂埃が立ち込めてきます。
周囲の魔素は荒れ狂い、噂に聞く終絶の地にいるかのような気持ち悪さで立っていることもままなりません。
「見ろっ!城壁が…!」
戦士系の冒険者が指を差します。
「崩れた」
街を、人類を守る城壁が魔法で破壊された。
それは史上初の恐ろしい出来事。
魔人との戦争のあり方が変わる、大きな事実として私の胸に重くのしかかってくるのでした…。
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「裏門…、いや城壁が吹き飛ばされたたと?」
普段は人を落ち着かせる穏やかな笑みを浮かべる勇者イィッタールが眉間に皺を寄せて厳しい表情をしている。
「そんな馬鹿な!どうやって魔素を集めたのよ!」
隣の勝ち気な勇者のアッケミーが怯えを隠すように夫であるイィッタールに疑問をぶつける。
「無数の黒い影が城壁を飛び越えて街に侵入しているのが見えた
恐らく昆虫系の小さな魔物だろう
それをわざと滅せさせて放出される魔素を利用した、というところかな?」
ことさら冷静を装いつつ返答するイィッタール。
しかし眉間の皺は消えていない。
そんなイィッタールの様子を見て、アッケミーはかえって落ち着きを取り戻した。
「崩壊した裏門側に魔人がいるかも」
「そうだね
でもほら、こちらも魔人のお出ましだよ
君には裏門側に行ってもらいたいところだが…」
「イヤよ!
私たちはもう離れないって決めたでしょ
例え世界が滅んでも…!」
「そうだね
確かめただけだよ
さっさとこの軍を蹴散らせて、裏門に回るとしよう」
「うん!
街中には優秀な冒険者も衛兵も居るわ
彼らを信じましょう!」
「久しぶりに修羅となるか…」
「ふふふっ、あなたの†昇龍流を見せてもらいましょうか」
「やめてくれ…『真・大切断』!」
「やるわね!…『真・大切断』!」
二人は勇者しか使えない魔技を惜しげもなく使用し、雑魚を蹴散らす。
姿を現した魔人を一刻も早く狩って、奴らの罠を正面からぶち破るしかないのだ。
街の人々に多大な被害が出るのは目に見えている。
それでも歴戦の勇者たちは全人類の行く末を見定めて行動する。
このような危機は何度も何度も経験してきた二人なのだ。
何を守り、何を見捨てるのか…。
全ての罪を背負う覚悟は何十年も前から持っている。
今さら綺麗事は言わない。
それでも二人は心の中で街の人々の無事を祈った。
この世界の女神にか、前世の世界の神にか…。
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「は〜びっくりした」
気づけば羽フナムシが居なくなっていたから、おかわりを求めて街を彷徨っていたら、大爆発。
城壁や門が崩壊してしまっているではないか…。
巨石やレンガ、木材なとが街になだれ込んでいる。
門があった辺りは誰か瓦礫に巻き込まれた可能性がある。
救助にしないと!
「誰かー!
誰かいるかー!」
…………!
微かに声が聞こえたような気がするが聞き取れない…!
そうだ!
瓦礫を投げながら耳を澄ます。
感度マシマシ『投げ耳』だ!
小さい音も聞き逃さないし、瓦礫の撤去も始められる、一石二鳥だ!
………たすけてくれ
「そこか!いま掘り起こしてやるからな!」
微かな声が聞こえた場所の上の瓦礫を投げて撤去していく。
「むっ…!」
数倍の感度に高められた耳が敵の存在をキャッチした。
崩れた城壁の向こう側から無数のモンスターが街の中に入ろうと押し寄せてきているのに気づいた!
「こんなときに!」
こんなときにというか、街の中に入る為にモンスターが城壁を何らかの方法で破壊させたのだろう。
このままではさらに一般人に被害がでることになる。
この街の一般人は未来の視聴者さんであり観客だ。
守ってみせる。
「いいぜ、来いよ
ここは投げ放題
瓦礫がなくなるまで、投げ倒してやる!」




